一年謳歌
燈と皆
第1話 10月21日「あかりの日」
昨日の夜、何か面白い事は無いかと頭のおもちゃ箱の中を漁った。ブロックで組み立てる様に、適当に組み立てた。
一つ。また生まれたそれを見て浮かぶ楽しみの笑み。
それはジェンガの様な、シンプルで且つどこまでも遊べる様なもの。或いは、どこまでも洗練させていく己の修行場のようなもの。
ジェンガは得意で、一人で何度も一本立ちを成功させた。成功させるとブワッと湧き出るものがあるので、是非にとおすすめしたい。それはさておき。
一年綴り。日曜は無しとして、平日のその日に立てられた旗の「名」を編み込む。そうして一つのものにしようと言うわけだ。どんなものが出来るのか楽しみで仕方ない。きっと今の想像の範疇など優に超える所へ到達する。プロットとか計画とか抜きにした、心の冒険なのだ。
私はこれをとても上手く達成するだろう。
衒うつもりはない。ただ、今日に立つ旗の名が「あかりの日」であったというだけ。次いで、一年綴りの思い始めと終わりが昨夜寝る前に訪れただけ。
気まぐれ、成り行きのまま買い物に出てみたら偶々お店がセール中で、狙っていたものがお手頃に買えた、そんな感じの嬉しみである。
「漸く会えたね」と、たった今私の物と成ったお気に入りのそのバッグに優しくハグしながら、そう囁いた。まだ二十代なのだから、それくらいのイタさは免除。
ポケットからはみ出るスマホが男声で「ねえ」と。
スマホはポップだらけのその顔でいつも気鬱を移してくる。だから見たくない。どうせどうでも良い、【尻尾がハテナ】の文ばかりだ。重要な仕事関係であれば電話を鳴らすだろうから。
休みという日は、大いに自由を自分という大地に与え、芽吹かせなければならない耕しの時間だ。だから忙しくて、それ以外の事に感けてられない。
さあ、今日は何しよう。自我と世界を両脇に従えた形で議論を展開させる。
「今日も良い天気」と、燦爛の陽に瞼を翳す。近くで電車が継ぎ目の重厚なタップを披露し、発車メロディが軽快に事を律する。
忙しい都会のファンファーレに相応しい旋律である。ともあれ、議会は開幕した。
「こんな天気の良い日は甘いものを食べに行くのが宜しいかと」と、己が跪き述べる。
甘い唾液を味わい、モンブランの断面に微笑む。
「それは太りますぞ、陛下」と、肩幅が広くガタイのいい地球儀頭の大臣がまた跪きながら忠告する。
体重計の数値に背筋が凍る。
街頭のビジョンに表示された「あかりの日」という文字を見て、思わず吹き出した。
中学の時、社会の先生と口論をした事があった。スワンかエジソンが電球を発明したとする先生に、私は粘土で挑んだ。
「先生、発明しました。紙油粘土です。より複雑性を増した凝固を味わえます」
「それは君の様な変わり者の為だけに生み出たものだ。それを発明とは呼ばない」
「先生、偉人達は変わり者ばかりです。私には素質があるという事ですか?」
「君が偉人に成れたなら、他の皆も成れるだろう」と皆で大笑いされた事があった。
それ以来、学校を嫌いになり不登校になった事を思い出した。
そんな事を思い返して笑ったのだ。
そんな私でも、会社を設立し、好きなバッグを買い、午後の贅沢を何にしようかと楽しみ、気ままに生きていられる今が在る。それだけで十分。私の人生航路を巧みに操舵した己は成功者、偉人である。
きっと誰しもが、今を巧みに生き抜く凄腕の操舵者、所謂偉人である。そう思える程の塩梅で心持ちを左右に揺らしながら、赴くままにが丁度良いと私は思っている。
「陛下」
目線の読めない地球儀がこちらに近づく。
「はいはい、じゃあこうしましょう。カフェで三島由紀夫様の金閣寺を読んだ後、ここに三島由紀夫様を招待して会話を本に綴る。公募締切まであと4ヶ月ですから」
「して、甘いものは?」
「本を読んでカロリー消費するので、モンブランを食べます」
「ありがとうございます!」
小さい頃は呆れと苛立ちを混ぜた様な面と対峙する事が多かった。先の先生もそうだ。
偉人の最大の発明は、挑む事ではないですか。そう私が言い返した先に、先生のその面が用意されていた。
生意気者に足りないのは実績だ、そう学校で学べたのだから、私はきっと幸せ者だ。だから今も「生意気者」であったとしても挑戦し続けられる。
偉人の挑む姿勢は、挑む者達の灯としていつまでも輝いている。
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