自信を失う私


 建前?


 え?建前だったのですか?


 ではこのお話は……今回の問題を収拾するために必要なことだった?


 つまり理由は分かりませんが、私を妻にした方がよろしい事態となっているのですね?



 殿下がふわっとそよ風が吹くようにして微笑まれました。

 よく知ったお顔が見られて私はすっかり安心してしまったのです。


「マリーのことだから、私が国のために言っていると考えているのだろう?」


「違うのですか?」


 あぁ、良かったと思いました。

 声が出ましたから。


 殿下が首を振られたので、私はさらに考えていきます。

 では建前とは何かという問題についてです。


 その思考はすぐに殿下の呼び声で中断されることとなりました。


「マリー、結論は急がずに聞いて欲しい」


 もちろんです、殿下。

 私は耳を澄ませて、お言葉を待ちました。


 まだ手を繋がれていることは少々気になりますが。

 殿下のことですから、これにも意味があるのではないかと。


「ここから先はいつものただの人間の私として話すよ。だからマリーもそのつもりで聞いて」


 私はまだ殿下がそのお心を伝えてくださることに驚きました。

 共にスペアであるからこそ、心の内を打ち明けてくださっていたのだと考えてきたからです。


 そしてその私が見てきた心の内も、実は違っていたのかもしれない。

 気付かされた私は、これまでのスペアとしての自身の在り方に、自信を失っていたところなのですが。


 こうして心をお知らせくださったあとに、私はそれを正しく受け取ることが出来るのでしょうか。

 不安な私は、一語一句漏らさぬようにと真剣に耳を傾けることにいたします。


「王子でもなく、王太子でもなく、スペアだのなんだのも関係なく。私はマリーと共に人生を歩みたいと願っている。私の生涯に君が隣にいて欲しい」


 ……これは大変なことです。


 私はスペアとしても自信などを持ってはいけない存在でした。

 殿下のお言葉をこのように大きく聞き間違えてしまうのですから。




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