きっとすべては夢でした


「陛下はすぐに了承してくださったんだ。問題は君なんだよ、マリー」


 スペアを降りるようにと命じられた直後のこのお言葉。

 これは誰かに嫁ぐお話が決まったということでしょうか?

 またどくどくと心臓が大きな音を立て、私の胸を叩いているようでした。


 本当に私は病気になってしまったのでしょう。


「マリー。お願いだ」


 そこで言葉を止められた殿下は、しばらくじーっと私を見詰めていました。

 そのように言いにくいお話なのでしょうか。


 お相手の方がうんと年上の方であったり、世間一般的には不都合に感じるような事情があったりするのかもしれません。


 そういえば、先々代の王弟殿下が数年前に奥様を儚くされておりました。

 その方がいらっしゃるのは辺境の地。


 あぁ、そういうことでしたのね。


 これは私から気を遣って、私は気にしないので大丈夫だとお伝えした方が──。


「私の妻になって」


 頭が真っ白になって、何も答えられなくなりました。

 私は何か聞き間違えたようです。


「ごめんね、君の具合が悪いときに伝える話ではないと分かっているんだ。だけどヴァイオレット嬢が先に話をしてしまうとは思わなくて。彼女はしばらくは大人しくしていると言っていたんだよ。こちらが落ち着くまでは何もしないと。それが!逆に遅いと叱られるってどういうことなんだろうね?いつもいつもあの人は……マリー?マリー!あぁ、ごめんね、マリー」


 これは夢なのでしょう。

 そうです、全部夢で。


 目覚めたら、王太子殿下のやらかしからなくなって──。


 私たちは今まで通り。

 共にスペアとして次代の国王陛下夫妻をお支えしながら国のために生きていく。


 そうすべてが今まで通りに──






 ──はなりませんでした。



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