私が見ていたもの


 聞いてはいけないことをお聞きしてしまったように感じます。

 それでは今回の件はすべて、第二王子殿下に王位を譲るための計略であったことになる。

 するとヴァイオレット様は──。


「私は事前に知っていたわ。彼が学園でお相手を見付けていたことも含めてね」


 予想しなかったお言葉にとても動揺していた私は、頭の中で改めて状況を整理していました。


 元第一王子には第二王子殿下が即位すべきというお考えがあって、それに婚約者様であるヴァイオレット様も同意していた。

 だから愚行とも言える卒業パーティーでの振舞いをヴァイオレット様は黙認された。


 ローレンス第二王子殿下を王太子として、その婚約者としてヴァイオレット様が立つ。

 そのような未来をお二人が同じく描いていたからこそのお振舞いだったということ。



 この考えを後押しするように、ヴァイオレット様は語られます。


「私もね、彼と同じでずっと疑問に思ってきたのよ。私たちはこれで良いのかしらって。あなたたちも含めての話だわ。収まるべきところへそれぞれが収まるべきではないかと、そう考えてきたのよ。ローレンス殿下の同意は最後まで得られませんでしたけれどね」


 私は驚きのあまり、眉を上げてしまいました。

 ヴァイオレット様はそんな私の不作法を咎めるでもなく、また困ったように微笑まれます。


「ローレンス殿下はいつもお変わりなく、お兄さまが弱音を零すたびに諫めておられたわ。王位を継ぐのは兄上だから諦めて欲しいと、そのように願うこともありましたわね」


 私は彼からそんな話を聞いたことがありません。

 私は彼の何を見て来たのでしょうか?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る