価値のない私


 せっかく時間がありますので、今までは手を付けられなかった内容をお勉強しておこう、そう思い立ってお城の図書室に足を運びました。

 私は変わらずスペアであり続けるのですから、これからのために意義ある時間を過ごそうと考えたのです。


 私はいくつかの本を抱えて、私室に戻りました。

 これでしばらくは、することが出来たと安心していたのです。


 ところがどうしてかそれらの読んだ文章が頭の中を滑ります。

 本の内容にまったく集中出来ません。


 このようなことは初めてのことでした。



 しばらく粘ったあとに私は諦め本を閉じ、息を吐きます。


 仕事のない時間がこうも辛いものになると、私は考えたこともありませんでした。

 このように長く静かな時間を与えられたことが今までにはなかったからです。



 お城で働く皆様は寝る間も惜しんで今回の件の対応に追われていることでしょう。

 そんなときに私はただ部屋に籠るだけ。


 有事に何も出来ない、それは役立たずの無能の証明のように感じます。


 彼が隣にいない私とはどれだけ価値がない存在か。

 この静寂はそれを突き付けてくるようです。


 王族の婚約者候補でなくなった私は、本当にスペアとしてこれからもお役に立つことが出来るのでしょうか。


 

 不安に駆られた私は、すぐにでも仕事をしたいと願いました。

 このお城で不要な存在となったとき、私にはそれから先の生き方が描けません。


 それでも私はお部屋でじっとしていることしか出来ませんでした。

 本当は公爵令嬢様のお仕事の一部でも回していただけないかとどなたかにご相談したかったのですが。

 陛下から休むようにと命じられてしまっていては、それも叶いません。



 私は胸を押さえます。


 じくじくとした痛みのことなど早く忘れてしまいたいのに。

 それどころか余計に気になるようになりました。


 どうか早く働けますように。






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