これからも私はスペアとして


 けれども私は今もスペアです。

 スペアが終わったのは、彼だけ。


「すまない──」


 殿下は誰かの代わりとして謝りませんでした。

 王家を代表しての謝罪でもありません。


 そのお気持ちを受け取って、私は頷きます。


「今後も変わらず、私はスペアとしてこの身を捧げてまいります。どうかご安心くださいませ──」


 二度と会うことがない、というわけではありません。

 それなのに、今が永遠の別れのようで。

 

 じくじくと痛む胸を押さえるわけにもいかず。

 私は知らない感情を心の奥にそっと閉じ込め、今まで教育されてきたように微笑み礼をしました。


 顔を上げれば、彼もまた同じように微笑んでいます。



 私は心の中で繰り返しました。



『私はスペア。


 素晴らしいお役目をいただいた私は、この国一の幸せ者。


 国のため、民のため、未来の国王夫妻をお支えするためだけに生きていく──』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る