ポノォコプラッタッタガザ症候群

村上嘘八百

ポノォコプラッタッタガザ症候群。

 僕の彼女は『ポノォコプラッタッタガザ症候群』だ。




 それは魑魅魍魎の類と言っても良いほど、この世界からハミ出ていて、何者にも何事にも交わることもなく、ひっそりとスピリチュアルしています。




 彼女はジビエ料理が好物だ。塩も良いが、山椒がちょこっとだけ、本当にちょこっとだけ乗っていると嬉しいと言う。




 それは僕も嬉しかった。やはり彼女の喜ぶ顔が大好きなわけだし、彼女がジビエが好物と言うのなら、僕は彼女の笑顔や嬉しそうな顔が好きなわけで、それに関して誰に責められるわけでも怒られる筋合いもないと思うわけだ。




 弟は彼女のことを気味悪いと言うが、それに対して僕が弟を怒ったりであったり殴ったりするとは、弟の感性というか発言の自由というか――そんなものを全て奪っているように思えて何も言えなくなってしまったりするものだ。




 僕はただ一言「悪い人ではないよ」と弟に言う。弟は特別納得するというわけでもなく、僕が言っているので無理矢理納得しているようだった。僕と弟は仲が良い。弟は僕のことを好いてくれてる。僕も弟が好きだ。




 ――となると考えなきゃいけないのは両親のことである。




 しかし皆さんにサプライズ。




 いや――すいません。なんていうんだっけ?




 サプライズではなく、あれだ――。『予想に反して』なんだよな。予想に反して僕の両親は彼女のことを気に入っているらしい。




 彼女のことを「可愛い子だねぇ」と言いながら頬を叩くし、体にも気を使ってくれて、お菓子も甘い飲み物も出さない。




 僕は良い両親を持ったものだと思った。僕は痩せているから甘いジュースも甘いケーキも――世界ではご馳走と呼ばれる代物なんかも沢山食べさせるけどね。




 早く大きくなって、このガリガリの体に沢山の筋肉を付けて彼女を守れるような、そんな大男になりたいと日々願いながらご飯を食べないといけないのは、人間の三大欲求の一つを満たす行為としては駄目な感情だったりするのだろうか?




 彼女はセックスが好きらしい。僕はそこまで好きではないんだけれど、彼女が僕を求めてくれるのであれば、それに応えないわけにはいかない。




 なぜあまり好きではないのかというと、両親の前で服を脱ぎ始めて両親の前でセックスをするからだ。やっぱり恥ずかしいし、だけど彼女は、そっちの方が楽しいからやりたいやりたいと言う。




 両親は何も言わないので、僕が我慢すれば僕以外の人達が幸せと感じる。自己犠牲の精神を重んじている為、これは正解の行動、判断なんだろうと思い込む。




 しかし弟はセックスが嫌いだ。詳細に説明すると『僕達のセックス』が嫌いと言っている。それはそれで、やはり僕と弟は気が合うなぁと思ってしまう。弟も僕が渋々セックスをしていることを分かっている為、僕のことを今でも大好きと言ってくれるのだろう。




 僕は一度、彼女の両親へ挨拶に行ったことがある。




 凄く優しい人達なんだ。僕を強くしようと彼女のお父さんは僕を木に縛り付けて殴ってくれる。痛みに耐えることが男というものだと言う。格好良い人だ。彼女と顎のラインが似ているから愛おしくも感じてしまう。




 彼女は殴られている僕を見ながらムササビを捕まえて食べているし、お母さんは地面に這いつくばっている。家族団欒のようで僕はこの一時が好きだ。もう一つの家族が出来たみたいで。




 『ポノォコプラッタッタガザ症候群』というのは『ポノォコプラッタッタガザ症候群』としか言えないので症状であったり、発症した時の雰囲気であったり、行動であったり、痛みであったり等は説明できないから彼女を見てくれればと思う。




 医学界の凄い人達が集まる『医学会』の人達ですら頭を抱えているらしいので、凡人の僕なんかじゃ説明できるわけないね。人には向き不向きがあるもんだとお母さんも言ってた。




 彼女奇妙な行動は他にもある。僕とっては、それも彼女のアイデンティティの一つだと思っているので奇妙とは思わないんだけど、俗に言う世間一般的な考えであったり、世界の常識と照らし合わせてみれば『奇妙』とか『摩訶不思議』であったりと枠の中に入れて説明した方が伝わると思うので、そういうことにした。




 彼女の奇妙な行動その一――。




 彼女は何通りかの帰宅ルートを曜日に分けて使っているということだ。まぁ何通りと言っても月、火、水、木、金、土、日と一週間は七日しかないので七通りだけなのだが、その七通りの帰宅ルートを使い分けている。




 この帰宅ルートは僕の家から彼女の家までの帰宅ルートなのだが、嵐の日も雪の日も太陽の光が強い日も決められたというか、決めた帰宅ルートで帰っているのだ。




 面白いのは僕と彼女が僕と彼女の家以外に出かけた際は、帰りにわざわざ彼女が僕の家まで来て、その帰宅ルートを使って帰ることだ。こだわりが強い彼女なのだ尊敬する。




 こだわりが強いと行ったが、彼女が彼女の家から僕の家に向かう時は、いつもバラバラなのがこれまた面白い。バスで来ることもあるし、自転車で来ることだってある。




 あくまでも僕の家から彼女の家へと向かうルートが決められているのだ。




 彼女の奇妙な行動そのニ――。




 これは行動ではないんだけど、歯が異様に発達しているということだ。野性味溢れた歯というか、もはや『牙』と言った方が良い。狼やライオンってよりかは人間の歯と猛獣の牙の間というか――。上手く言えないけど、ちゃんと人間味もある。だけど人間味が無いとも言える。例えが難しいな。




 その異様な歯は元々なのか――それともジビエ料理を食べすぎてそうなったのかは分からない。まぁ僕は彼女のそんな歯も好きなんだけどね。強そうだし。




 おっとあまり喋りすぎても彼女が可哀想だよ。人のことをベラベラ話すもんじゃない。彼女にだって僕にだって貴方にだって色々あるはずだ。これでおしまいおしまい。










◆ ◆ ◆










 事件だよ皆! なんと彼女が僕の両親に捕まったんだって! どうしよう――。










◆ ◆ ◆










 今日は珍しく僕のお母さんが彼女に甘い紅茶と甘いクッキーを出したんだ。彼女のこと嫌いになったのかな? 彼女は紅茶を飲み終わると電池が切れたようにコテンと寝てしまったよ。子猫みたいで可愛いね。










◆ ◆ ◆










 僕のお母さんとお父さんが彼女にもう会うなって言ってきた。どうしてだろう。あと怪我が痛そうだ。










◆ ◆ ◆










 僕は両親と喧嘩をして家を出た。お父さんもお母さんも分からず屋だ。しかし何で弟も止めてきたんだろうなって思う。僕と弟は今まで喧嘩もしたことなければ口論もしたことがない。きっと反抗期ってやつだと思う。僕はお兄さんだから我慢しやきゃいけない。けど彼女と別れるのは嫌だとも思う。




 彼女には連絡した。理由を述べたら来てくれると言ってくれた。嬉しいな。やっぱり別れるべきじゃないんだよ。




 彼女が僕の家に向かう時はバラバラだから「木曜日の道を歩くよ」と言った。ちょうど木曜日の道の真ん中辺りで彼女と出会い、包容してキスもした。




 遠くに逃げようとも思えず(あまり町から出たことがないから)人があまりいない山に行くことになった。




 夜の山は静かすぎるぐらいで、まるでこの世界には僕と彼女しかいないんじゃないかって思えるほどだった。こんなにロマンチックな考えになるとは、きっと星が綺麗だからだと思う。




 山頂まで行くと疲れてしまうので、山道の途中で木陰に腰を下ろした。やはり空を見ると星が綺麗で空気も澄んでいる。隣には大好きな彼女がいて、ここでならセックスをしても良いとすら思った。




 彼女は僕の横で何も言わずに携帯を触っていた。きっと何となく恥ずかしいんだろう。僕も同じだ。




 彼女は携帯をポケットに入れると、同じポケットから携帯と同じサイズのボトルを取り出した。何だかポケットの中で物々交換をしたような感じだ。




 そのボトルのキャップを取ると、中の液体を手の上に出して広げた。化粧水だろうか? やっぱり女の子なんだよな。凄く美味しそうな匂いのする化粧水だ。




 その液体を自分の付けるのかと思ったが、なぜが僕の顔や腕やお腹に塗ってきた。僕のことを気遣ってくれたのだろう。それにしても美味しそうな匂いだ。舐めてみたいが彼女の前だし止めておこう。




 液体を塗り終わると今度はポケットの中から小さめのボトルが出てきた。出したボトルのキャップを取ると、それを僕に振りかけてきた。粉末っぽいな。ザラザラするし、くしゃみが出そうだ。これはどんな効果があるのだろうか? 僕は男だから美容品の知識は皆無なんだ。




 彼女は振りかけ終わると、結構強めの力で僕の肌を叩いてきたり揉んだりしてきた。化粧水を染み込ませる為だろう。至れり尽くせりだ。将来は良いお嫁さんになると思った。それにしても美味しそうな匂いだ。




 二分くらいだろうか。彼女は叩いたり揉んだりするのを止めて、また携帯を触り始めた。自分には塗らないのだろうか? 僕のことを気遣ってくれるのは心底嬉しいけど自分のことも大事にしてほしい。




 彼女はヨダレを垂らしていた。お腹が空いたと思った。だけども僕もお腹空いたし、何も持たずに家を出たので何も持ってなかった。自分の無力さが嫌いだ。とてもとても――。




 鼻息が荒いのだ。僕ではない彼女だ。熱でも出たのだろうか? だけども何も持たずに家を出たので何も持ってなかった。自分の無力さが嫌いだ。とてもとても――。




 貧乏ゆすりをする人では無かった。地面を伝って振動が伝わるほど大きく貧乏ゆすりをしていた。何だかさっきよりも距離が近いような気がする。始めて彼女の事が怖いと思ってしまった。




 いきなり彼女が僕の顔を掴み大きく口を開いた。僕は彼女の口に負けないくらい目を見開いた。








 そうか。だからお父さん達は――。








 僕は頭の中で「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝った。もう遅いのかもしれない。いや確実に遅かった。こんな時でも夜空は綺麗で大きくて――。










「そろそろ頃合いだね――」










 死を悟った瞬間、彼女は大きな口から長い舌を出して僕の体中を舐め始めた――。




「こういうプレーも良いでしょ?」




「味付けプレイ――ってことぉ!?」








 いつもの四倍精液が出た熱い夜。


 今度は五倍を目指してみようと思った――。

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