第23話 死神の出現と勧誘

 あの後、黒いスライムの正体についてモーフィアスはあっさりと教えてくれた。


「あれは死神タイプという特殊な魔物の一種だよ。特殊な条件を満たすことでダンジョンに現れて、一定時間が経過して消えるまでダンジョン内を徘徊。遭遇した敵を排除する役目を持っているんだ。まあダンジョン内の掃除屋的な存在だと思ってくれて構わないよ」


 その強さは同じ外見をした魔物とは比較にならないという。


 実際にあの黒いスライムも見た目だけなら他のスライムの色違いなだけだったのに、その強さは明らかに別物だった。


「その特殊な条件ってのは?」

「それは色々あるけど、少なくともダンジョン内に対象となる死神タイプの魔物を打倒できる存在がいることが絶対条件かな。でないと配信者が蹂躙されるだけになってしまうからね」


 倒せる可能性がある奴がダンジョン内にいることで初めて姿を現す。


 つまりそれがあの時で言うとアルバートだった訳か。


「とは言っても死神タイプはどれも理不尽な強さをしている魔物だからこそ殺されても一定時間そのダンジョンに入れなくなるペナルティしか発生しないようになっている。またどの死神でも倒せば特別な報酬が与えられるから狙う価値のある魔物ではあると思うよ」

「それはそうだろうよ」


 黒いスライムを倒した際に手に入ったDPだけで十万。


 更に人類初の死神討伐の実績の報酬がなんと二千万DPだったのだからとんでもなく美味しい獲物ではある。


(ボスであるキングスライムですら倒した際に手に入るのは二千DPだってのに。死神タイプの魔物ってのはどんだけ強いんだよ)


 中級ダンジョンどころでは済まないし、下手をすれば上級ダンジョンでもここまでの相手はいないかもしれない。


 まあ死神を倒して獲得できるDPはその貴重性も加味されているようなので、上級ダンジョンの魔物が同じくらい強くてもここまで高いとは限らないみたいだが。


 だがなんにせよこれでかなり稼げたのは事実。


 現在の俺が保有するDPが約二千八百万。


 初の下級ダンジョン攻略や初のダンジョンボス討伐などでもらえたDPもあるが、大半が死神の討伐の実績によるものなのは見ての通り。


(やってみた感じ下級ダンジョンだと周回しても稼げるDPは高が知れてる。ってことはやっぱり早めに中級ダンジョンに挑むべきか)


 現実世界にアイテムを持ち帰る資格を手に入れるためにも。


「っと、そろそろ講義の時間か」


 早朝の配信は大盛況の内に終えることができたが、この後には大学の講義があるのだった。


 本音を言えば、今はそんなものよりもダンジョン配信の方に注力していたいところではあるが、両親から将来のことを考えて授業をしっかり受けるように言われているので仕方がない。


 なにせ病床の母ですら、自分のせいで学生生活を疎かにしないようにと厳命してくるくらいなのだから。


 今は自分が一番苦しいはずなのに家族の事ばかり考えている母。


 そんな母だからこそ絶対に助けたい、助けなければならないと思わされるのだった。



 午前の講義を何事もなく受け終えた後の昼休み。


 昼食を取ろうと学食に向かおうか考えている時にそいつは現れた。


「あの、君が伊佐木君だよね? ダンジョン配信者をやってるっていう」

「……そうですけど何か用ですか?」


 急に声を掛けてきた男に俺は辟易とした様子を隠さずにそう返す。


 なにせグリーンスライムとの戦いが知れ渡った時にこうして声を掛けられることが何度もあったからだ。


 そしてその大半が興味本位や醜態を晒したこちらを半ばバカにする目的で話しかけてくるものだったので、こちらとしてもこんな声掛けは気持ちの良いものとなる訳がなくうんざりさせられているのである。


 だが今回はその予想とは違っていたようだ。


「ああ、そんな嫌そうな顔をしないでくれ。僕は別に君をバカにしている訳でもないし、むしろその逆なんだ」

「逆ですか?」

「ああ、だって僕も一応ダンジョン配信者だからね。まあ実力も人気もまだまだ素人同然だけどね」


 苦笑いを浮かべて事情的に呟かれた言葉に驚いて、俺は思わず声を掛けてきた男をマジマジと見てしまう。


(って、そりゃそうか。単なる大学生の俺がダンジョン配信者になることはできたんだ。他に同じような奴がいて当然か)


 死ぬ恐れがないからこそダンジョン配信者になることだけは簡単にできる。


 むしろ若い人こと興味に駆られて挑戦する人が多いとも聞くくらいだし。


 そこから人気を得るのが難しいという問題はあるが。


「君に声を掛けたのは僕達のサークルに入らないか。要するに勧誘したいんだ」

「サークル、ですか? ・・・…ってことはもしかして他にも学生でダンジョン配信者をしている奴が所属しているんですか?」


 そんなものがこの大学にあったなんて、そして他のダンジョン配信者がこんな身近にいるなんて全く知らなかった。


「そうだよ。もし君さえ良ければその辺りの話をさせてもらえないかな? そのお礼という訳でもないけど昼食は奢るからさ」


 別にその奢りには全くそそられなかったが、他の配信者の話には興味があった俺はその提案に素直に頷くのだった。

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