第2章 新米配信者、配信開始

第14話 プロローグ 謎の男 アルバート推参

 そのダンジョン配信の映像は瞬く間に世界中の注目を集めた。


 配信上で行なったことは下級のスライムダンジョンでタイムアタックをしただけ。


 そのくらいのことなら世界中でそれなりに行われている。

 だから本来ならそこまで注目を集めることはないはずだった。


 だがそうはならない。

 何故ならまず、そのタイムが異常過ぎたからだ。


 前一位だったハルテルチャンネルのハルテルのレコードがおおよそ17分前後。


 それに対して、その記録を大幅に塗り変えた謎の配信者であるアルバートの記録は、なんとおおよそ8分。


 つまり半分以下まで短縮してみせたのだ。


 これまでは記録を更新するにしても秒単位、あるいは十数秒が限界だったというのに。


 各ダンジョンのタイムアタックの記録はいつでも神サイト上で閲覧可能であり、ランキング形式で発表されている。


 それによっていつの間にか記録が更新されたことに気付いた人々は、当初は何らかのバグではないかと疑った。


 いくらなんでもこんなレコードはあり得ないだろう。

 今までのことを考えれば、そう思うのも当然のことだったから。


 だがランキングページから飛べるタイムアタック時の映像を見て、誰もがそれがバグではないという厳然たる事実を見せつけられる。


 なにせその男は、今までのタイムアタック挑戦者とは比較にもならない速度で、自分以外の人間が誰も存在していないダンジョンを疾走していたからだ。


 その速度はあまりにも速く、ダンジョンカメラでなければ絶対に追い切れなかったと断言できるくらいに。


 しかも邪魔をしてくるスライムなどものともせずに猛然とダンジョン内を走っている始末。


 このダンジョンに出現するスライムは雑魚とはいえ、魔物の一種ではある。


 初心者が戦えば、一匹相手でも苦戦を免れないくらいの強さはあるのだ。


 それにタイムアタック時のスライムは、複数で集まって通路を遮る壁となって走者の邪魔をしてくることがある。


 その壁となったスライムを倒せば通過は可能。


 だが複数体で集まったスライムは攻撃力が低い代わりに、それなりの耐久力を持っているので、倒すのにはどうしても時間が掛かることが多い。


 そうなるとタイムロスになるので、大半の走者は塞がれた通路を避けるか、あるいはアイテムなどを駆使することが多い。


 だがこのアルバートという男は、そんな手段はとらなかった。


 もっと言うのなら、ただ力任せに強引な突破をしてみせたのだ。


 それは誰もが信じられない光景であった。


 なにせスライムが集合して、通路を塞ぐ分厚い壁となっていたそれを、走る勢いのまま突っ込んで、そのまま何事もなかったように通過していったのだから。


 スライムの壁など木っ端微塵。ほとんどが突進を受けた際の衝撃で死亡しているのか、壁の残骸が跡形もなく消えていくのが画面の端でどうにか確認できる程度だった。


 なにせあまりにアルバートという男の走りが速過ぎて、数秒もその場面が映らなかったのである。


 その常識外れの勢いまま男はスライムダンジョンを走り抜け、遂にはボス部屋に突入。


 そこで待っていたキングスライム。


 これまた耐久力と体力だけは多くて、倒すのに時間が掛かるとされている魔物を、取り出した剣でまさかの一刀両断。


 体長3メートルほどの巨大なスライムは、それだけで縦に分断されて死亡。


 そこでタイムアタックは終了となり、前人未到の信じがたい記録が更新されることとなったのだ。


 それを見た多くの視聴者は、その信じられない映像に驚愕する以外になかった。


 そしてこのチャンネルの主に対して、世界の注目が集まるのも自然の流れ。



はあああああああああああああああ!?

ええええええええええ!

すっげー!

えー意味不明なんだけど

これは夢かな?

10分切るとか、バケモンだろ

え、なにこれ……

ボスまで一撃って何者?

流石に嘘だろ

こんなのフェイク動画に決まってる

神サイトでフェイクは無理のはず

神! 神サイトに神降臨!


 これまで誰も注目していなかったアルバートチャンネル。


 だがこの映像を切っ掛けに大量の視聴者とコメントが殺到。瞬く間にチャンネル登録者数も増加する。


「次回の配信は明日の同じ時間を予定しています。お楽しみに」


 そう動画の最後を締めくくった挨拶を確認した多くの視聴者は、突如として現れた超新星に期待を寄せるのだった。

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