目指せ、ダンジョンインフルエンサー! ダンジョン配信で大金持ちに!?

黒頭白尾

第1章 配信準備中

第1話 モノリス、キター!

「どうもーハルテルでーす。今日は前回のリベンジも兼ねて、このスライムダンジョンのタイムアタックに挑戦しようと思います。頑張ってベスト記録を塗り替えるので、よければ応援とチャンネル登録をお願いしますね!」


 どうやら日本では比較的有名なダンジョン配信者が今日も配信しているようだ。


 それをスマホで見ながら俺、伊佐木いさき 天架てんかは通っている大学からの帰り道を歩いていた。


(それにしてもダンジョンとは、どこの漫画かラノベの世界だよって感じだけど現実なんだよなあ)


 半年前ほどから突如として世界中の至る所で現れ始めた長方形の謎の黒い石板。


 後にモノリスと呼ばれることになる人の背丈ほどもある大きさのそれが単なる石板だったのなら、宇宙人好きとか特定の層にしか話題にならなかったことだろう。


 だかそうならなかった。何故ならどういう理屈か分からないが、それらは宙に浮いていたからだ。


 宙に浮かぶ石板! なんて多くの動画サイトに投稿された映像は、最初の頃は手品とかフェイク動画などと思われて信用されなかった。


 だがその数が増えて、しかも街中でもモノリスが現れ始めたのを皮切りに、その存在は決して嘘ではないという事実が広がり始める。


 またその頃には各国政府もその存在を認めて、それらがどんな物体なのか確認が取れていないので安易に近寄らないように、という警告をするまでに至っていた。


 だが人間とは愚かな生き物である。


 そう言われて、


「はい、分かりました」


 なんて全員が素直に従う訳がなかった。


 むしろそんな風に言われるくらいに価値があるものなら、自分が手に入れよう、あるいは誰よりも先に触れてみたい、度胸試しでもするかのように一部の人々は警告を無視してしまう。


 そして安易にそれに触れた人々は、それを起動させてしまった。


 いや、もしかしたら触れなくても起動する運命だったのかもしれないが、それはこのモノリスを作った存在のみぞ知ることだろう。


 重要なのはモノリスが入り口だったことだ。


 触れた者をダンジョンという特殊な空間へと送り込む。ゲームのように魔物と呼ばれる危険な生命体が跋扈している、明らかにこの世界には存在していないであろう未知の場所へと。


 ただし、そうはいってもダンジョンで命の危険に陥ることはない。


 何故ならダンジョン内では死んでも入口に戻されるだけだったからだ。


 そうでなかったら度胸試しを挑んだ大半が死亡して戻ってこられなかったことだろう。


 そうして命の危険がない上に、なんとダンジョン内部の映像を録画が可能だった。


 いや正確に言えば、ダンジョン内の行動は常に中に入った者の傍を飛ぶようにして控えているダンジョンカメラという謎の物体によって撮影されていたのだ。


 まるで中に入った者の行動を逐一監視でもしているかのように。


 そしてそのダンジョンカメラに撮られている映像は、現実世界でモノリスにリアルタイムで表示されるばかりか、特定のサイトならネットに動画としてアップロードすること、そして生配信することすら可能だったのだ。


 それはまるでダンジョンで攻略して、それを配信しろとでもいうようなシステム周りであり、設備が整っている状況でそれらを利用する人が続出することとなる。


 なにせそうするだけのもあったので。


 なお、その特定サイトとやらもモノリスと同じで一体いつから、どうやって出来たのか、そして誰が運営しているのかも分からないらしい。


 でもそれだとサーバーとかどうなっているのだろうか。


(まあダンジョンなんて代物を創り出せる存在なら、この程度の動画サイトくらい作れてもおかしくはないのかな?)


 ダンジョンを運営しているのが神なら、これは神が作った動画サイト。

 つまりは神サイトといったところだろうか。


 実際にダンジョン配信をしている人の意見では、システム周りも非常に使い易い上に映像の遅延なんかも全く発生していないなどの神機能満載だということらしいから、あながちその名前も間違いではないだろう。


 そんな今、世界の話題の中心と言っても決して過言ではないダンジョンとそこで行われる配信行為。


 俺もそれに興味をそそられない訳がなく、こうして暇があれば神サイトで配信している配信者を見ている形だった。


 見ている配信者は良いペースでスライムダンジョンをどんどん進んでいく。


 その速度は普通の人間では考えられないようなものだった。

 それこそオリンピックで優勝することも容易いような速度でダンジョン内を駆けていく。


 そして途中で現れる半透明で様々な色をしたモチモチしている丸い物体、スライムという魔物が飛び掛かってくることなどものともせずに、掌の上に生み出した火の球で焼き殺して見せる。


 それはスキルという、ダンジョン内でのみ使える特別な力だった。


 その威力は相当なもので、弱い魔物でも普通に攻撃すれば何発も必要なスライムを一撃で仕留めてみせた。


 倒されたスライムはその餅のような体が崩れて光の粒子になって消えていく。

 これはスライムだけでなく他の魔物も同じだった。


 どうも魔物は倒されたら粒子となって消える性質をもっているらしい。


 ゴブリンとかだと斬りつけた際に血が出るなどのスプラッタな光景が流れることもあるが、スライムだとそれもないので安心してみていられるというものだ。


 そんなこんなでハルテルチャンネルのハルテルが記録を更新するペースでボス部屋に突入。


 あとはこのボスを倒せば終わりというところまできていた。ちょうど俺も一人暮らししているアパートまであと少しのことまできている。


 配信のコメントも期待感から、かなり盛り上がっていた。


 かくいう俺もどうなるのかとワクワクしながら、スマホから目を離さずに部屋の鍵を開けて部屋に入る。


 そしていつもと変わらぬ玄関で靴を脱いで、短い廊下を歩いてリビングに繋がるドアを開けたところで、遂にハルテルがボスを討伐。


 その記録はギリギリだが、確かにベスト記録を上回っていた。


 おめでとう! という祝福のコメント。あるいはヤッター! キター! などの歓喜のコメントが流れるのを目にしながら、俺も思わず何かコメントを打ち込もうかと考えて、


「……はい?」


 リビングの中心に、ネットとかで見たことのある長方形の黒い板が鎮座されているのをこの目に捉えた。


 間違いない、これはモノリスだ。


「モノリス、キター!?」


 思わずそう悲鳴を上げるが、一人暮らしの家では誰もそれに突っ込んでくれる人などおらず、むなしく虚空へと消えていくだけだった。



 予想外の事態に混乱したが、ずっとそのままでいる訳にもいかない。


「これ、間違いなくモノリスだよな?」


 万が一、誰かがドッキリを仕掛けているのではないかと窓の鍵などを確認して侵入された形跡がないか調べてが、それらは全く見つけられなかった。


 それにこの家の鍵は一つだけでそれは俺が持っている。


 そして鍵もしっかりかかっていた。その時点で誰かが侵入する可能性は低くなるだろう。


 あるいは大家ならスペアを持っているかもしれないが、それを使ってこんな意味不明なドッキリを仕掛けてくるとは思えないし、目の前の光景は本当のものだと考えるべきだろう。


「どうすればいいんだ、こういう場合?」


 モノリスが世界のどこにでも突如として現れるとは聞いていたが、まさか俺の部屋なんて狙い澄ませたかのような場所に出現するなんて予想できる訳がない。


 ネットで検索してもモノリスは割と人気の多い開けた場所に現れることが多いと書かれているし、こんな個人の部屋の中に現れるのは割とイレギュラーなのではないだろうか。


「とりあえず役所に連絡するか」


 調べた結果、日本では新たなモノリスと思われる物体を発見した際は、下手に触らずに専用のダイヤルに電話することが推奨されているみたいだ。


 その連絡を受けて、担当の役員か何かがやってきてモノリスの真贋を確認した後に、何らかの対応をしてくれるとのこと。


(ダンジョン配信に興味がない訳じゃないけど、大学だってあるからな。ここは素直に連絡しておこう)


 それに下手に隠していると発覚した時が怖い。


 調べた限りでは報告しないと罰則などが与えられるとかは今のところはないみたいだが、別に隠してメリットがあるものでもないだろう。


 ダンジョンに潜らなければ、これはただ宙に浮いている謎の石板でしかないのだから。


 なによりこんな部屋の真ん中に鎮座されていると日常生活の邪魔でしょうがないので、可能なら撤去してもらいたい。


 それが可能なのかどうかは知らないけど。


 そうして俺はスマホを使って指定されたダイヤルに電話を掛けようとして、


「おっと、それは少し待ってもらおうか」


 その言葉と同時に、ニュッっとモノリスから飛び出てきた手に腕が掴まれる。


「うわ!?」


 そして抵抗する間もなく猛烈な力で引っ張られた。


 そうなると当然、モノリスに身体が衝突するはずだったのだが、ただの石板ではないモノリスは衝突の衝撃などまるで効果がないように俺の身体を呑み込んでいく。


 それはあっという間の出来事で、手から零れたスマホが地面に転がる頃には部屋は静寂に包まれるのだった。

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