異界統一道中膝栗毛
鳥ノスダチ
第一章
プロローグ
「死んでみればわかることですが、この世に天国も地獄も存在しません。あるのは海のように広大な闇と奥底にある扉だけです」
男が一人いました。闇の中を歩いています。
腰に下げたランタンを手に取り火をつけながら、男は死後について語っていました。
「命は一度この闇に落とされ、底に着くまでに少しずつエネルギーを吸われます…そして、魂だけの状態になると扉が開くのです」
男の前に扉が現れました。
男が扉を開き中に入ると、足元がガラス張りの通路になっていて、通路の下では無数の魂達が横一列に並んでいました。
「扉の先で、体格や能力、境遇などの様々な項目がランダムに決められていきます。続いて、完了したものから順に目の前に扉が現れます。その先は広場となっており、細かい装飾が施られた巨大な扉といくつかの魂達が集まっています」
「広場の魂が一定数溜まると、扉が開き魂たちは次の命になるのです!」
バン!と天高く広げられた両腕と盛大な爆発音、そして男の懐から出てきた鳩たちが話の最期を華々しく飾ります。
一通り説明した男はランタンを持ちながら扉に向かって歩き出しました。
「さて…死後の説明は以上です。特別な皆さんに特別に!秘密をお教えしましょう。ここを管理運営している人物、管理人様には、この広大な闇の中を散歩中に、特殊な魂を特別に事務室へ招待してしまう悪癖があります」
「本日も一人、誘拐もとい招待したようなので、特別に見に行きましょう!」
男がランタンを頭上に掲げると、目の前に透明なドアノブが照らし出されました。
今まで隠されていたドアノブに触れた瞬間、ゴウゴウと風が吹き木製の簡素な扉が姿を現しました。
扉を開き中に入ると、赤い絨毯が敷かれた円形の部屋につながりました。
天上に夜空が描かれており、小さな光がまるで踊ってるかのように瞬いています。壁面には扉が無数に設置されて、扉と扉の間が本棚になっています。部屋の中央には本と雑貨の山がいくつか形成され天井のシャンデリアに届きそうになっていました。
「まるで混沌無形または汚部屋といいますか素晴らしいお部屋ですね」
男が部屋の奥を注視すると、ソファーに少年が一人眠っていました。年齢は10歳~12歳ほどでしょうか病衣姿で骨が浮き出た体をしています。
そのソファーの前方には非常に整った顔立ちと黒と白が混じった長髪、青と白のローブのような服を着ている絶世の美人である管理人がいました。
「うう、ぐすん…ぐすん」
管理人は鼻水をすすり嗚咽を漏らしながら手元にある一冊の本を読み号泣しています。
「…ん」
その鳴き声がうるさかったのか少年のまつげが震え目を覚ましました。
「…神様?」
徐々に鮮明になっていく視界の中、少し離れたところに座っている管理人の美しさに見とれて少年は思わずつぶやきました。
すると、声に反応して管理人の頭が油のさしていない機械のようにギギッギと上がり少年を見つめると、音を置き去りにしました。
「…へ」
気づけば鼻先が触れるほどの距離にいた管理人に、少年はばねが仕込まれた人形のようにぴょんと飛び跳ねた後、恥ずかしそうに俯きました。
「気分はどうだい?調整したばかりだから不具合がないか心配なんだ」
「…はい…だいじょうぶです」
管理人は花が咲いたような笑顔で少年を見つめています。
「本当かな?試しにー君の名前、教えてほしいな」
問いかけられた少年は自分の名前を言おうと口を開きましたが、言えませんでした。
「…あれ、僕の名前…思い出せない!僕はだれ?僕は僕は僕は…」
徐々に深刻な表情を浮かべ始めた少年はガタガタと痙攣し始めました。
「おっと、調整がうまくいったね!大変だったよー本当に」
管理人は少年の頭に両腕を入れました。ずぶずぶと入っていく管理人の腕に合わせて少年の震えが大きくなっていきます。
より一層、管理人が力を籠めました。すると少年が光りだしたのです。光に照らされた管理人の表情は笑顔のままでしたが。どこか狂気を含んだものに変わっていました。
やがて、少年の光と痙攣が収まると管理人はゆっくり息を吐き少年の頭から両腕を抜き取りました。
「いやー危ない危ない、危うく封印が説かれるところだったよー」
管理人は少年の手を取り心配そうに顔を見つめました。
「返事はできるかな?」
「…はい」
「君の記憶を封印させてもらったよ」
「…はい」
「君は生前、世界一不幸な少年だったね。すべてから見放されたと何度も思っていただろ?」
「…わかりません」
「よし完璧だ!君はねバグみたいなものだ。悪く言えば不良品だ。君がこの世界にいると世界が壊れかねない」
「…はい」
「だから捨てることにした。捨てるといっても悪くとらえないでほしい。私の力では、君を直すことはできない」
管理人は立ち上がり少年と手をつなぎながら、ある扉の前まで少年を連れて行きました。
「そこで、不本意ながら奇跡にかけることにした。読めるかな?この扉はごみ箱だ。扉の先には他の管理人が管理を放棄した世界につながっている。いわゆる無法世界だ」
管理人が扉に手を近づけた瞬間、扉がスッとひとりでに開きました。扉がまるで少年を誘っているかのようです。
「ここに入れば、君の身に何かが起きる気がする保証はないけどね。今までで一番いいアイデアだと私は思ったよ!」
管理人は少年の手を離し、肩に置きました。
「さて、選別に何か欲しいものはあるかな?」
すると少年はある一点を指さしました。その先にあるものを見て管理人は笑顔を深くします。
「いいねちょうどいい!君いいセンスしてるよ!後で送っておくから君は安心して行くといい!」
ドン!と管理人が少年の体を押しました。宙に浮く少年は最後に何を思ったのか誰にもわかりません。ただ少年の涙の破片が荒れ狂う闇の中に広がっていきました。
「ふー厄介払い厄介払い」
管理人は体を伸ばしながら男のほうを振り向きました。
「さてさてさーて、ご指名だよブックマン!君、さっきからずっと誰と話していたんだい?」
男の体がこわばります。
「いえ、少し未来の自分に向けて話していただけでございます管理人様」
「ハハハ!君、面白いこと言うね。さすが本の魔人だ。どうやら君も不良品らしい、ごみ箱に入ってもらうよ」
「…仰せのままに」
管理人は満足そうに緩んだ笑顔をしながら、先ほどまで少年が座っていたソファーに腰掛け本の続きを読み始めました。
そんな管理人を横目に男は扉の前に歩いていきます。
「…あ!選別の言葉だ。この本の続き楽しみにしてるよブックマン」
「ええ管理人様、きっと非常に読み応えのある作品になるでしょう」
男はそう言うと迷いなく扉に入っていきました。
一人残された事務室で管理人は寝転がりながら本を読んでいます。その本の背表紙には、旅立っていった少年の名前が書かれていました。
─── キャラ紹介 ───
・名前─ブックマン─
・種族─本の魔人─
・性別─男性─
・職業─司書(本の作成、本の管理など)─
・過去─ ─
・特徴─頭部が本、身体は人間─
・備考─この世界の管理人専属司書、主な仕事は管理人が所有している本の管理、清掃、整頓など(趣味で本の作成も行っている)元々作家であったが管理人に誘拐もとい勧誘されて司書となった過去あり。頭部が本なので口や鼻など基本的に人についている器官が備わっていない(なのにおしゃべり)性格はおだやか、真面目で、やや消極的な部分があり、すぐ諦める傾向がある。作家の癖なのか話すときキャラを作って話す(作中では陽気なキャラを演じていた)生前から友人と呼べる関係の人はいない(管理人は雇い主)─
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