第67話 村人転生者、森を散策する (3)

”ブブブブブッ”

”ブブブブブッ、ブブッ”


花園の主シルビーさんにお礼をして再び大森林を移動する私ケビン、方向的には大森林外縁部を目指している様でほっと一安心。いや~、これで更に奥地に向かわれたらどうしようかと思ったわ。

シルビーさんの話しでは森の花園は大森林の中間地点くらいにあるらしい。


・・・B子さんや、確かに頼んだのは俺ですけど、めっちゃ危険地帯じゃないですか、私は飛んでるからそんなに危なくないって言われましても、ケビン君は目茶苦茶危険なの、その辺少しは考慮して欲しいお年頃なんでございますよ!

一見優し気なB子さんもその辺はやっぱり魔物、感覚が人とは違うんでありますよ、はい。


そりゃそうですよね、B子さん働き蜂だし、蜂の巣的には雑兵だし。蜂って女王様絶対主義だからな~、群れの為なら死を厭わないし、死を恐れる感覚が分からないって言うのが普通だし。B子さんと意思の疎通が出来るのもジャイアントフォレストビーが魔力的進化を遂げた魔物だからなんだろうな~。

でも養蜂家の方って魔物でもなんでもない蜜蜂とまるで意思の疎通が取れてるみたいに共存出来てるよね?それって下手な魔法使いよりすごい事なんじゃないんだろうか。

技術や経験は時にスキルや魔法を凌駕する。俺も養蜂家の方を見習って地道な努力を続けていく所存でございます。


それで意思の疎通が出来てるB子さんがどこにいるのかと言いますと、相変わらずわたくしの頭の上にですね。なんか捕まり心地が良いとの事、なんでやねん。私、すっかりジャイアントフォレストビー専用移動用動物になっております。お代は蜂蜜、完全に使役されてるって言うね。まぁいいんですけど。


”ブブブブブッ”

お、どうやら到着したようですね。ってなんか巣の周りが騒がしい様なんですが?

”ブブブッブブッブブブブブッ”

”ブオオオオオオオオッ”


なんかでっかい蜂に襲撃を受けている様な。あれってもしかしなくてもキラービーって奴なんじゃないんでしょうか。

フォレストビーが頑張ってキラービーに取り付いて羽根を小刻みに震わせております。あれですね、自らの体温を上げてキラービーを蒸し焼きにする作戦ですね。でもキラービーはそれがどうしたと言わんばかりに攻撃の手を緩めない。巣の周りには激戦の末亡くなったフォレストビーとキラービーの亡骸が転がっております。

ってだめじゃん、フォレストビーが死んじゃったら養蜂が出来ないじゃん。


「本来森の生存競争に手出しするべきではないんですが、今回はこちらの都合を優先させて頂きます。って事で両者そこまでです」

俺は大量の魔力の腕を伸ばしキラービーを捕獲、取り付いたフォレストビーを外して行きました。


「命懸けで戦っている所に水を差す様なまねをして本当に申し訳ないんだけど、フォレストビーさん方にお亡くなりになられるととっても困るんですよ。代わりと言っては何ですが、このビッグワーム干し肉(一夜干しバージョン)で手を打っていただけないでしょうか?」


そう言いキラービーさん(七匹居られます)方の前にビッグワーム干し肉を提示、様子を見ます。先ほど俺に無理やり捕まったからか警戒心は忘れていない様で、干し肉の周りをウロウロしているキラービー。

集団のリーダーらしき個体が干し肉をモグモグ。


”!?ブオッブオオオオオオッ”

キラービーも驚きの美味しさ、それはそうだよね、普通のビッグワーム雑味があるもん。しかもスライムを与えているお陰で魔味マシマシですから。


”ブオオオオオオオオッ”

どうやら交渉成立、キラービーさん方はビッグワーム干し肉を抱え引き上げて行かれました。

残されたのは無残に襲撃されたフォレストビーの皆さん。


”ブブッブブブッ”

一際大きな個体、と言っても大人の握り拳程度ですが、そんな個体のフォレストビーが何やら挨拶をしてくれます。どうやら彼女が女王様の様です。


「えっとですね、実はこちらに巣分け前の新女王様がおられるとお伺いいたしまして、旅立たれる女王様に出来れば私の村に来て頂けないかと思ってお伺いした次第なんですよ」


”ブブッブブブブブブッ”

”ブブブッ”

何やらもう一体大きな個体が、こちらが新女王様でしょうか。どうやら話し合いが行われているご様子。すると最初の個体が俺の前に飛び出して八の字飛行を繰り返し始めました。

続いて数匹のフォレストビーがこちらにやって来ます。あ、俺の身体にしがみついた、どうやら交渉は成功した様です。一緒に行く個体が少ないのは致し方が無いかと、今回被害が甚大でしたから。


幸い巣自体はまだ襲われてなかった様子、被害は働き蜂の数だけだったようです。

でもこれから新女王様は大丈夫なんだろうか。


”ブブブッブブッ”

「もうすぐ新しい子供たちが生まれるところだったと、補充人員の心配はいらないんですか、それは良かった。

ところでお亡くなりになったご遺体やキラービーの死骸はどうなさいます?特にそのまま?だったら貰ってもいいですか?人間はこう言ったものも利用するんで」


新女王様に許可を貰って死骸の回収、素材回収用の麻袋は常にカバンに用意してございますとも。詳しい利用法は村に帰ってから大人の皆さんに聞く事に致しましょう。焼酎漬けが身体にいいってどこかで聞いた事があるんだよな~。まだ焼酎なんて見た事ないけど。

早速出番ですよ、時間停止機能付きの収納の腕輪さん。使い方はしまいたいと思うものに触れて念じるだけって言うね。ハイ収納終わり。

いや~、便利便利。これからヤバい物はこの収納行きですね、凄く助かります。


「それじゃ皆さんお元気で、村に向かう方々はよく掴まっていてくださいね」

”ブブブブブッ”


俺たちは新女王様に見送られながら、B子さん先導の下一路マルセル村に向かい大森林を後にするのでした。



「ご神木様ただいま~。上手い事蜂さんの勧誘に成功いたしました」

”ワサワサワサ”


「いやいや、お褒めいただきまして恐縮でございます。それじゃまた来ますんで、今日は失礼いたしますね」

”ワサワサワサ“


B子さんとはここでお別れ、ご神木様に見送られつつマルセル村に戻るケビン少年。当初の目的を無事に果たし、尚且つ期待以上のおまけ付き。大成功に終わった森の探索に、大満足なケビン少年なのでありました。



「って事がございましてね」

“パチンッ、パチンッ”


淡く揺らぐ囲炉裏の炎、足された枝が音をたてて燃え盛る。目の前の女性は五徳に乗せられた土瓶を火から下ろし、偽癒し草の煮出し茶を湯呑みに注ぎ入れる。

頬には疎らにソバカスをたたえ、赤茶けた髪を一つに束ねた彼女。母性を感じさせる豊満な双子山を備えた美しいスタイルをなさっておられます。


「・・・やり直し!」

「え~、何故ですか!ちゃんと髪色も目立たない赤茶けたものにしましたし、顔にはソバカスも装備致しました。この変装の何処がおかしいと言うんですか!?」


「確かにね、髪色は割りとよく見られる色合いかつ地味なものを上手く選択されたと思います。でもね、顔はソバカス付け足しただけだからね、そんなのただのソバカス美人さんだから、めっちゃ目立つから!

更に言えばその双子山はどうした、と言うか何故そこを盛ったし。そんなんハッキリ言って目立ちまくりですから!隠れ住むエルフ女性の矜持は何処に行ったし!


もうね、ビックリ。確かにエルフだとは思わないよ?そんなに胸の大きなエルフなんて聞いた事無いからね?でもね、単純に人目を引いちゃうから、単なる田舎美人さんだから、グルゴさんとガブリエラさんはどうしたのさ」


「あぁ、彼らはですね~。」

何故か遠い目をする残念美人。詳しい話を聞けば納得の内容でした。


どうもガブリエラさん、長年抱えていた心と身体の不一致が解消された事ではっちゃけちゃった様です。まぁ所謂性同一性障害と同様の状態でしたからね、心は女性、身体は男、それは苦しかったと思います。

そんな中、自身を命懸けで救い、共にあり続けた男性に心惹かれないなんて事はなかった様です。でも身体は男、気持ち悪く思われたくない一心で、ずっとその気持ちを押し殺していたんだそうです。


でもその枷が解かれた、呪いは消え去りそこに残ったのは若く美しい女性。既に身分は捨てた両者、妨げになる障害は何もない。

更に言えば親しかったキャロルさんとジェラルドさん夫婦の妊娠、甘々で幸せそうな二人。

更に更に言えば、完成されたホーンラビット牧場脇の管理小屋兼新居。ポーションビッグワームによって生まれ変わった二人、訪れた二人だけの夜。


襲い掛かったのはガブリエラさんだったとの事。哀れグルゴさん、今度スタミナポーションを差し入れしてあげよう。


「でですね、私なりに考えて頑張ったんですよ。エルフと言えばスラリとした体型が有名じゃ無いですか、ですんで逆に豊満な体型になれば良いんじゃないかと思いまして。」


「まぁ、頑張った事は認めますけど、体型は本来のもので良いかと。余り違った体型になるといざと言う時動きを阻害しますから。後は容貌ですね、形はそのままで良いと思いますが目元は一重に、あと眉毛は下がり気味に目元もやや下げた方が良いですね。ソバカスの量は今のままでいいです。

はい、頑張ってやり直してみて下さい。

俺のダメ出しに渋々といった感じで修正を加える残念エルフ。

はい、良いですね、見事な村娘、ボヤッとした感じが最高です。


「えっと、もしかしてケビン君はこう言った感じの女性が好み何ですか?」


「はっ?何を言ってるんです残念エルフ。目立ない、村に溶け込むと言った一点を突き詰めた完璧な変装ってだけですが?

強いて言えば僕は余り容姿を気にしない方なんで、お付き合いする方は気が合うかどうかですね。鑑賞するだけなら美人さんやスタイルの良い女性の方が良いですが、ずっと共に過ごすと言う事になればその辺は些事ですね。

精神的負担って思いの外大切な要素なんですよ?」


「えっと、ケビン君ってやっぱり種族偽ってません?どう聞いても発言が十代のそれじゃ無いですよ?老成していると言うかなんと言うか、里の長老と会話しているのかと思いました」


「・・・里の長老って酷くね?」

マルセル村の少年ケビン、長命種族のエルフにエルフの長老扱いされた件。


“ブブブブブッ”

「あ、女王様。元気出せって、なんてお優しいお言葉。村人ケビン、感激であります。

そうそう、これから新居にご案内致しますね、自作の巣箱ですから問題点がありましたら修正致しますので直ぐに仰って下さい」

そう言いフォレストビーたちと共に小屋の外に向かう俺氏。蜂さんの説明をするつもりが全く関係のない所で時間を食ってしまった。


そんな俺たちを他所に“ケビン君がまた何か魔物を拾ってきた”と呟く残念エルフと“新入りか?”と顔を上げる太郎。畑では緑と黄色が癒し草の収穫に勤しみ、新しい畝の葉物野菜がそろそろ収穫の時を迎え様としている。

ケビン君の実験農場は、今日も賑やかでのんびりとした時間が流れて行くのでした。

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