第 23 話 首相官邸奪還作戦 ―参―


 同時刻 同区 首相官邸記者会見室


 日の丸が描かれた旗を脇に設置した壇上。その前には間隔的に並ぶ複数のテーブルと一体型の椅子。記者会見室とはその名の通り、メディアを通じて世間に政府のことを知ってもらうための場である。

 官房長官の定例記者会見や、総理が出張る類の記者会見も、総じてここで行われる。最近は特として、『異神世界』に関わる案件が多かった。

 テレビで映る場面ではいつも雑誌や新聞の記者や各報道期間によってひしめめき合っている状態なのだが、今はすっかりもぬけの殻となっており、皮肉にも思える静寂が辺りを支配していた。薄いブルー色をしたバックのカーテンが、そのなんとも言えぬ物悲しさをより際立たせてもいた。


 いるはずの人がいない。そんな異常事態のしょうを示す一室なのだが――その異様さに拍車をかけている存在が、部屋に一人、静かに悟りを開いているかのように座っていた。


 その姿は、まるで何処かの民族を思わせる円錐状に尖った帽子を被っている老人のようであるが、よくよく見てみればそれは人型のシルエットをしているだけで、細かな部位を見てみれば人間ではないことは明らかだった。

 人の顔に似た位置にあるパーツは、大きな目玉のような発光した青色だけが灯っている。まるでのっぺら坊だった。その下は胴体のような形状のパーツがついているものの、腕はなく、最下部は四本の蜘蛛の足のような細長いパーツで身体を支えていた。背中には虫のようなペラペラな羽がついており、時おり鈴虫のように二つのそれを擦り合わせてバタバタと音を鳴らしていた。

 大きさこそ成人男性と同じように思われるが、帽子のようなパーツがそう思わせるだけで、胴体だけを測定すれば中学生にも劣るのではないか、と思えるフォルムだった。


 遠目から見れば、人型が胡座あぐらをかいて瞑想めいそうでもしているようにも見える姿。そんな異形がじっとしている場所は、総理やその他官僚が演説をするときに置く演台の上だった。短く伸びたマイクを器用に掻い潜り、定期的に羽音だけを出して、後は時間が止まったかのように身動ぎひとつしない。


 その異形にとって、動くという行為自体が必要なかったからだ。

 動くことにはエネルギーを消費する。その消費分を温存するためにも、不必要なことはやらない。そういった合理的な思考を持ち合わせていた。


 逆に、頭の中は休む間もなく動いており、瞑想でもしているかのような硬直ぶりは、その実真反対の性質であり、電源の落ちたスマホが内部では処理を施しているように思考を働かせ続けていた。


 異形の脳内――正確には脳髄といような臓器はないので、こういう言い方は不適切であったが――ではとある映像が浮かび上がっていた。


 それは、この建物の入り口。

 そこに現れた四人の人間。侵入者。


 正直、最初は油断していた。異形の知る『人間』にカテゴライズされる生物は、そのことごとくが自分より弱い。そこまで必死に相手する必要性もないだろう、と。

 しかし、見張りの兵士たちを難なく処理された瞬間から、異形は彼女達への警戒度をマックスにまで引き上げていた。

 さらに、屋内の兵士の目撃情報から見て、四人がこちらに向かってきているのは明らかだった。


 異形に『慌てる』という概念はなかった。なかったものの、恒久的に処理していた演算を、迅速に敵を排するためのものに組み換える。外に残った見張りも、屋内の警備も、総じて着実に攻め入ろうとしている彼女達を食い止めるために、命を賭してでも向かわせるよう指示を下した。


 こんな人間を相手にするのは初めてだった。

 首相官邸ここを貶めるまでに、苦労と呼べるほどの苦戦を強いられたこともなく、どんな相手が来ようともあらかじめインプットされた計算で事足りた。

 それが、ついに狂い始めようとしている。

 異形は臨機応変に適切な対策を練り、この正体不明の人間から安全を取り戻そうと尽力する。


 ただ、異形の組み立てた計算には、最大の落とし穴があった。

 攻め込んできた四人の少女は――人間は人間でも、ただの人間ではなかったことだ。




 同刻 同所 首相官邸二階ホワイエ


 クレハは右手に持った剣を、一点を集中して様々な方向から斬り込んだ。

 パリィン、と派手にガラス張りの壁が崩れる。礫が激しく中庭に舞った。

 乱暴に強化ガラスを破壊したクレハは、尖って残った破片も気にせずに身を飛び出し、外にいる『ソルジャー』の排除にかかった。


「クレハさん!」リハナは思わず呼び止めようしたが、既に彼女は窓を突き破ってしまった後だ。


 どんな間違いがあっても、クレハが『ソルジャー』に負けることはない。それは解っている。彼女はマーダー小隊最強といってもよかった。

 しかし、最強が故に、重大な見落としもしやすい。彼女の動きに全員がついていけるわけではない、という根本的な問題が――――


 ――クレハさん、自分で言ったこと忘れてなきゃいいけど。


 とはいえ、彼女を気にしてばかりもいられない。だだ広いホワイエに繋がる幾つもの廊下からは、外でも見かけた『ソルジャー』がどんどんと駆けつけていた。


 ――やっぱり、『頭脳ブレイン』はこっちを捕捉してる。私達の居場所を把握して、駒を集めてるんだ。


 吹き抜けとなった天井の上からも、壁を下るようにして『ソルジャー』が迫っていた。外や同じフロアだけではなく、四階や五階を巡回させていた個体も向かわせたのかもしれない。


 ――だとすれば、ミデアさんが動きやすくなるし、それは悪くないんだけど。

 ――つまりそれって、こっちの動きを完全に把握していることになるから。

 ――私達が『記者会見室』に向かおうとしていることも、あっちはもう理解しているのかもしれない。


 この密集した数からしても、首相官邸を占拠した兵力を惜しみなく使っていると判断できた。敵を見つけ次第始末するのではなく、侵入した敵を有無を言わさず総員でかかる。ここで一気に片を付けようという魂胆か。


 もしくは、ここで時間を稼いで逃走を企てているのかもしれない。


 襲いかかる『ソルジャー』を、近づかれる前にアサルトライフルで確実に仕留めていく。そうしながら、リハナは耳を立てて気配を辿った。


 ――……大丈夫。変な『魂』は依然として記者会見室にいる。


 ただ、いつまでも居るとは限らない。

 早々にここを突破したいところだった。


「リハナ!」


 そのとき、ホワイエに残ったもうひとりの小隊メンバー、アイーシャがリハナに声をかけた。

 彼女は遠距離から接近を防ぐリハナとは対称的に、『ソルジャー』へ自ら接近してその拳で叩くというシンプルな戦法を取っていた。彼女の拳が叩き込まれた『ソルジャー』は、装甲を貫き、魔力マナの核たる瞳を直接破壊され、瞬く間に機能停止に陥っていた。

 自分の周辺をある程度片付けた後、彼女は後ろに跳躍してリハナの傍に駆けつけた。


「弾は有限だ。そんなドカドカ撃つな」


「ですけど、この状況じゃあ温存にまで考えがまわりませんよ」


 ナイフやハンドガンでも、当たりどころによっては仕留めることはできるが、この数では地道な手段は取れない。


「だから、撃つ必要はねえ、って言ってんだ……よっ!」話しながらでも、アイーシャは構わず寄ってきて、その鋭い足先で斬りかかってくる『ソルジャー』に反撃を仕掛ける。「リハナ、お前はクレハに付いてくれ」


「クレハさんに?」


「アイツはあれでも戦闘狂の気質がある。戦っている間に任務のことを忘れて、敵がいるほうに遠くへ遠くへ行っちまうかもしれねえ。そうならねえように、もしものときには引き止めてほしいんだよ」


 同時に迫ってくる二匹を広範囲の回し蹴りで粉砕していく。その様は、まさにクマの如き破壊力。


「いつもならオレがその役割をしてるんだが、オレはコイツらをミデアのいるところに上がらせないためにも、ここで足止めしなきゃならねえ。だから、お前に頼む」


「要点は解りました」クレハの興奮を抑制する気つけ薬を担う。彼女のそうした一面を持っていることは知っていたので、特に戸惑う気持ちはなかった。「ですけど、アイーシャさんは……?」


「ハッ」アイーシャは強気に歯を見せた。「心配あると思うか?」


 直後、彼女の姿が消えた。地面にできた窪みと、空気を切り裂くような風の音だけが、彼女のいた場所に残った。


 だが、リハナの耳は正確に何が起こったかを捉えていた。

 姿勢を低くし、足腰に力を込めた彼女は、黒御影石の床を容易く踏み砕きながら加速した。眼にも止まらぬスピードで、まるで風と一体化したかのように。

 その先には、部屋を隔てる扉を倒しながら殺到する『ソルジャー』がいた。彼女は躊躇いなく、魔力マナが巡った速力を味方につけて拳を振り抜いた。さらに、吹き飛ばされる寸前の機体を掴み上げると、近くにいた同個体に勢いよく投げ放つ。防弾のようなインパクト。直撃した『ソルジャー』はボウリングのピンのように吹き飛んだ。


 尋常ならざるフィジカルに、輪に輪をかけた豪快さ。

 リハナは、心配や懸念という感情も共に飛ばされていくのを感じた。


 ――アイーシャさんは大丈夫だ。

 ――説得力が凄い。

 ――なら、私は言われた通り、クレハさんを引き止めに行こう。


 こちらに向かってきていたり、中庭側から現れた『ソルジャー』に対処しながら、リハナはクレハが開けたガラス張りの穴に近寄った。


 本来であれば、ホワイエに設置されたベンチに座りながら、二階に拵えられた中庭の、孟宗竹と庵治石を基調とした幻想的な光景が広がり心を穏やかにしてくれるはずが、無惨にも群れを成す『ソルジャー』によって踏みにじられていた。ずかずかと鋭利な足が石畳を砕き、五階まで届く竹をどかすように倒していた。人工的な池畔で『ソルジャー』が暴れ、周囲に水が飛び散っていた。


 その中で、クレハが戦っている。


 リハナはアサルトライフルをホルスターに仕舞い、ささくれ立つように残ったガラスで身体が傷つかないように、背中からクレハが作った穴を勢いよく飛び出した。


 それでもぶつかった少量の破片が空中を舞い、吹き抜けとなった天井から燦々と降り注ぐ陽光を反射していた。


 頭が地面に着くその前に、先に両手で地面に着き、その身体の全体重を支えた。そして、落下の衝撃を利用して肘を曲げると、力を溜め、バネのような要領でもう一度跳び、今度は見事に足から着地した。


 その傍に『ソルジャー』が迫る。

 武器を取り出す暇はない、と判断したリハナは拳を握った。


 だが、渾身の正拳突きを振り被るその前に、高速に接近してくる気配があった。


 クレハだ。


「電光石火『菊火バラスティール』」


 魔力マナによる基礎能力の向上。眼にも止まらぬ速さで突撃した彼女は、リハナの前にいた『ソルジャー』のとなりを通り過ぎ――その刹那、複雑に絡み合った斬撃を高速で打ち――池のほとりの縁のギリギリのところで停止した。


 その回数、脅威の十二連撃。

 光の速さ。一秒に三回以上斬り込んだその一撃は、彼女以外のすべてを置いてきぼりにしたかのように一瞬の間があり――剣を振るった十二の残像が『ソルジャー』を襲った。上下左右斜め、余すことのない斬撃がその装甲をいとも容易くガラクタへと葬り去る。

 火花散るようなオレンジ色の軌道は、まるで満遍なく花びらを広げる菊花のようだった。


「クレハさん、上からも来てます!」


 脅威はそこでは止まない。

 剣を振り被った後のクレハ。その頭上から飛翔して襲ってくるは、二匹の『ソルジャー』だった。


 吹き抜けとなっている天井は、開閉式で、蓋を閉じていない今はいつでも屋上から侵入が可能だった。だが、梯子も通路もないそこから降りられる人間などいるはずもないのだから、欠陥住宅というわけでもない。今回は不幸にも、『マキナ』の侵入経路として成り立ち、外にいた『ソルジャー』を効率よく集める結果となってしまった。


 逆に言えば、外で待機している自衛隊の安全が確保できたと捉えることもできるが、何しろ数が多かった。


 一匹いっぴきの強さは大したことないものの、これだけ多ければ攻撃の隙に背後から刺される可能性も杞憂とは言えない。


 クレハはまさに、その攻撃後の間隙を狙われようとしていた。


 リハナが慌ててアサルトライフルを構え、降り注ぐ『ソルジャー』を撃ち落とそうとした。が、その直後に後ろから迫りくる気配が聞こえた。ちっ、と舌打ちが思わず出る。助ける以前に、自分も絶賛戦地に立っていた。


 ――逃げて……!


 声にならない悲鳴を上げそうになった。


「天翔『日車キナリヱ』」


 クレハが呟いた。直後、垂直に跳躍した。刹那的な十二連撃という離れ業をし、電光石火の如くに駆けた後の状態とは思えない軽やかさだった。それもそのはず。彼女は自身の足腰だけで跳んだわけではなかった。

 剣で地面を叩く。その返ってくる反動と合わせてジャンプしたのだ。さらに、その加速と衝撃を殺さず、剣を渦巻くように振り回し、ますます勢いをつける。天翔ける竜のように昇り、伸びていくその距離は地上から7メートルに達すると、降り注ぐ二匹の『ソルジャー』に自ら近づき、大きな円を描くように剣を振るい、その機体を真っ二つにした。高く昇り、大きく円を描く。その猛々しくも凛々しい姿は、射し込む陽光に照らされる向日葵のようだった。


 さらに、「波紋『杜若ハートウェイ』」


 『魔力マナ』を纏い始めた剣を空中で振り抜く。すると、魔力マナが軌道の形を象るように凝固し、重たい刃となり遠くへ飛び立つ。四方を壁に囲まれた吹き抜け天井を降下する『ソルジャー』達は、その放たれた魔力マナの斬撃を躱すことができなかった。外の個体を、クレハは一気に殲滅した。


 クレハの剣術は我流である。ここまで繰り出した技の数々は、彼女が自身の人生で編み出したオリジナル技だった。彼女は『獣人デュミオン』でも稀有な武器に己を魔力マナを流し、身体の基礎能力と同じように武器そのものの性能を強化することができた。


 この二つが合わさったことにより、彼女の強さは唯一無二へと昇華したのだった。


「やっぱり、あんまり手応えがない」何事もなく着地したクレハが、まず第一にこぼしたのが、今の言葉だった。「つまんない」


「流石です、クレハさん!」リハナは彼女の強さを目の当たりにし、抱いていた尊敬の念を一層に深くした。「感動しました!」


「『ネームド』ぐらいの頑丈さがないと斬った感覚がなくて楽しくないなあ」

「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。この言葉が似合います!」

「この作戦に参加すればいっぱい戦えると思ったけど、期待外れだな」

「凄い! かっこいい! 私をその綺麗な太刀筋で斬ってください!」

「あの神宮寺って人はすごく強いんだろうな。……戦ってみたいなあ」


「オマエら、会話しろよ」


 噛み合わないどころか、各々がそれぞれの世界を展開しているようなカオスな光景に、ホワイエから様子を眺めていたアイーシャは呆れた声を出した。




 同刻 同所 首相官邸記者会見室


 侵入者によって、掻き集めた兵力の殆どが始末されてしまった。


 もしも、異形に『感情』という外界の刺激に弱い機構があったとすれば、今の状況は驚愕に値したことだろう。

 ただ、異形にはそうしたロスや隙が生まれることはない。一気に奇襲を仕掛ける作戦が失敗した途端、すぐさま思考を切り替え、次の算段を迅速に計算をする。


 残った兵力。

 敵の位置。

 自分との距離。その到達する時間。


 兵力を割いた足止めではどうにもならないことは発覚した。それならば、残りは己を攻撃から守る肉壁に使ったほうがいい。

 敵の位置は二階のホワイエ。ホワイエ、という言葉を異形は知らないが、その場所から己に辿り着くまでにかかる時間は、10分と23秒。


 割り出された数列の処理と検算を成していく最中、不意に何か、スクリーンのようなものが過ぎった。


【にしても、こんなのが本当に役に立つのかねェ?】


 続いて、音声も再生される。


【どういう意味だ、グラトニー?】


量産型マスプロダクションタイプの完成形とはいえ、要は二世代も前のコンピュータープログラムのレベルとあんま変わらねェんだろ? 『雨』と『飴』の違いも解らねえようなポンコツに、本当に今回の計画を任せんのかよ】


【そういう手順なのだから仕方がない。それに、賢すぎるのもそれはそれで問題なのだ。己の役割に気づき、クーデターでも起こされたらたまったものではないからな】


【反旗を翻されたところで問題ねえだろうが、こんなザコ】


 瞳に映し出される場所は見覚えがあった。確か、この建物の屋上だったはずだ。


【いいか】どこか覚えのある音声が話しかけてきた。【テメエのやるべきことは、死ぬことだ。俺様もよく解らねえが、それが今後のためになる。滑稽に惨たらしく死んでくれよ】


【この記憶メモリーは暗号化される。言ったところで、その命令通りには動かないぞ】


【俺達は命を持ってるんだぜ? そんなのは、やってみなきゃ解らねえじゃねえか】


 その瞬間、いくつもの椅子が並ぶあの部屋に戻ってきた。


 今の光景はなんだったのか。そんなことを考える脳みそを異形は持っていなかった。


 ただ、叩き出された計算が告げる結論は、己はどう足掻いても死ぬ、という無慈悲なものだった。


 死にたくない、とか、生きていたい、とか。そんなことを考えたこともないし、理解もできる頭脳も与えられていない。


 だが、本能的な部分――人間で言うところのニューロンに相当する根幹的な内部情報には、ただ単に『逃げろ』と訴えてきていた。


 理由は解らない。そもそも、人間を殺す理由すら彼らは把握していないのだから。


 だが、彼らはいつでもその本能に従ってきた。


 計算で叩き出された、敵が辿り着くまでの時間。

 ここまで来るために通る敵のルートを予測する。

 問題なし。

 異形はそう結論した。


 この建物には、至るところに隠し通路が潜んでいることには気付いていた。

 この部屋にも当然存在しており、そこを通れば一分とかからずこの建物から脱出できる。


 その後は魔法も駆使すれば、完全に姿も気配も遮断することが可能だった。


 姿をくらますまでの経緯を組み立てた異形は、早速さっそくその経緯を辿ろうと動き出そうとした。


 そこで、予想外なことが起きる。


 異形に聴覚はない。

 周辺を把握するには、魔力マナの核たる『瞳』を通して映像に限られる。


 そのために、気が付かなかった。


 先程から、この部屋の天井から――大きな破壊音がしていることに。


 天井が派手に崩れた。

 落ちてきた瓦礫が整列していた椅子を下敷きにする。

 瓦礫から磨り潰された粉か、砂とも砂鉄ともつかない微妙な色をした砂埃が舞った。


 ホワイエから記者会見室まで、通常のルートを通れば約10分。


 しかし、目的地の直上まで行き――その床を破壊して下りてしまえば、一分とかからない。


「見つけたぞ……!」


 三人の侵入者が、異形の眼前に出現した。

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