壁を乗り越えた兄妹が編み出した新連携技、良いよね

「く……!」


クレイズはネリア将軍の槍が自身の手首をめがけてくるのを紙一重でかわした。


「前よりやるな……!」


そのまま懐に潜り込もうとするが、前蹴りを撃ち込まれ、その反動で後ろに下がった。


「貴様をどうやったら倒せるか……そればっかり考えていたからな!」


下がった隙を逃さず、槍でクレイズの足を切り裂く。


「ちっ……!」


その一撃で態勢を崩したクレイズ。


「貴様はここで我が国に連れ帰る! 貴様の戦争ごっこも今日でしまいだ!」


そのまま胸倉をつかみ上げようとするが、クレイズはまだ戦えるとばかりにそれを振りほどき、剣を握り直す。


「あいにく、まだここで終わるわけにはいかないんでね。……だが、君との戦いは楽しいな……」


そして斬りつけられた足を庇いながらも、剣を振り上げる。


「そうだな! 私も楽しいぞ!」


それを強引に受けようとするが、すぐにクレイズは剣を引き、肩から強烈な体当たりを叩きこむ。


「く……!」

「だが、まだだ! まだ足りない! あの時の双子のような、な……!」


傷の痛みに表情を歪めながらも、クレイズはギラギラと瞳を光らせながら笑みを浮かべた。





セドナはメイスを手に、ダリアークに向かって走り出した。


「ダリアーク! あんたの相手はあっしがしやすよ!」

「ほう……」


そう言うとセドナは足元の石を拾い、それをダリアークの足元に投げつける。

その瞬間、その足元から爆炎が上がる。


「やっぱり罠でしたか……。何度も幻影を見せられたんす、さすがにもう引っ掛かりやせん! そりゃ!」


そう言うとセドナはもう一つ石を拾うと、近くの茂みに向けて思い切り投げつける。


「なに?」


その茂みからガキン! と音がした。恐らく茂みに潜むものが魔力で石を弾き飛ばしたのだろう。


「さあ、いい加減出てきたらどうっすか?」

「ふむ……。まさかこれほどとはな……なぜわかった?」


ダリアークがその茂みからゆっくりと姿を現した。


「結局幻影は目視でしか動かせやせんからね。熱源感知で探せばすぐ分かりやしたよ」

「熱源感知……だと?」


なれない言葉に思わず聞き返すダリアーク。だが、セドナはそれを説明する必要もないだろうと言わんばかりにメイスを再び構える。


「まあ、そんなことはどうでも良いんす。さあ、勝負っすよ?」

「ほう、まあいい。……はあ!」


そう言うとダリアークは魔力を解放し、強烈な氷柱を足元からいくつも生み出した。


「く……! こりゃ、あっし一人じゃもたないかもしれやせんね……」

セドナはそう漏らしながら、周囲の様子を見回した。





「なに、こいつ……」


ツマリは、眼前に立ちはだかるゴーレムを前に、絶句した。


「……ガガガ……」


どこか機械的な声を上げたゴーレムは、そのままその腕を猛烈な速度で振り下ろす。


「きゃあ!」


それを大きく横っ飛びでよけるツマリ。だが、


「ガガガ……」


一瞬の休む間もなくその腕を大きく横凪ぎに払ってくる。

その一撃をまともにくらい、ツマリは背後にある樹に叩きつけられた。


「がはっ!」

「ツマリ!」


それを見たアダンは回復魔法をツマリにかける。


「く……やるわね、このゴーレム……」

「見た目よりかなり早いよ! 気を付けて!」

「ええ!」


そう言うと、二人は再度気を引き締めてゴーレムに立ちはだかる。

「……ねえ、アダン? もう、あれしかないわね」

「うん。……そうだね、やろうか」

ツマリの思念を読むまでもなく、彼女の考えていることを理解したアダンは頷いた。





……それから、しばらくの時が経過しただろうか。


「はあ、はあ……」


兵士たちはみな必死に戦っていた。

とはいえ、士気の違いは大きいのだろう、少しずつだがクレイズ一行の方に勝機は傾き始めていた。


「後、少しだってのに……隊長……今、助けに……!」

「無理だよ、あたしたちに出来るのは……ネリアの奴の助太刀に、こいつを生かせないことだけだ!」

「くそ……隊長!」


それでもダリアークの配下の兵士も精兵ぞろいで、勝てないと見るやこちらの数を減らす作戦ではなく、足止めをする方向に作戦を切り替えたようだ。

そして眼前では、すでに敗色が濃厚となっていたクレイズの姿があった。


「どうした、息が上がってるぞ!」

「ぐふ……!」


腹部に強烈な拳を受け、クレイズは思わずうずくまる。


「やはり、所詮は人間だな……。少しはやると前は期待したが……やはり、貴様を連れて行くのはやめにするか……」


そう言いながら、ネリア将軍は槍を構え、殺気をみなぎらせてきた。

それでもクレイズは剣を杖代わりにし、何とか立ち上がる。


「く……だが……まだ、私は……」

「満足できないのか? フン、大した贅沢ものだ!」


そしてクレイズは剣を振るが、ネリア将軍には片手で受け止められた。

クレイズは、自身の体力がすでに限界にきていることを悟った。


(ここまで、か……)

だが、その時。


「クレイズさん!」

隣の戦場で、大声でアダンが叫ぶ声が聞こえた。




「なんだ……?」


そうつぶやいたクレイズの先で、前衛でツマリが剣を構え、その後ろでアダンが魔力を充填する姿だ。

今までは二人とも剣で戦うスタイルだったため、これは初めての構えをしていた。


「ほう……何をするつもりだ?」


その様子を見て、少し興味がわいたのかネリア将軍は、それを見届けるべく槍を一度下げた。このような性格が、ネリア将軍とダリアークが根本的に相いれないところなのだろう。


「見ててくださいね!」

「これが私たちのプレゼントよ!」


そう言うとアダンはいつもの強化魔法に加え、風魔法を使い、ツマリを後ろから吹き飛ばした。


「なに!?」


猛烈な速度でツマリは飛びあがり、ゴーレムの左腕を切り落とす。


「はあ!」


そのまま空中でアダンの操る猛烈な風により強引に方向転換すると、そのままアダンの呼び出す烈風と共に地面に降り立ち、電光石火の速さで右足を斬りつける。


「ガガガ……」


ゴーレムはまるで苦痛を訴えるかのように音を出し、その体を揺るがせる。


「まだまだ!」


そのままツマリはアダンの風魔法により、縦横無尽に駆け回りながら、ゴーレムの体を切り裂いていく。


「これは……なぜ、飛ばされんのだ……」


その姿をネリア将軍は驚愕の表情で見ていた。

通常、風魔法を強化に使った場合、制御などできずに体が吹き飛んでしまう。

だが、アダンとツマリは夢魔としての精神感応力が極めて高い。

それに加えて、兄妹として長年培った呼吸により、言葉を一切解さなくとも最適の速度で風魔法でその身を操ることが出来る。


「ガガガ……」


だが、ゴーレムも負けじと力を振り絞るようにして、左手を大きく振りかぶる。この手をりまわされたら、風魔法でも制御が出来なくなるだろう。

だが、その瞬間アダンは右手を突き出し、強烈な烈風をゴーレムの左手に振り下ろす。


「ガ……」


その風に耐えられなかったのだろう、ゴーレムはその手を振り下ろした。


「くっ! 同時に3つの魔法を操るだと……!」


ダリアークはその動作に狼狽する。

そして、


「クレイズさん、見てて!」

「こいつが私たちの……!」

アダンはツマリのすぐ後ろに駆け寄り、そっと背中に両手を当てる。

「「プレゼント!」」


アダンの両手から烈風が巻き起こる。

そしてカタパルトのように射出されたツマリが、ゴーレムの急所となる心臓部を貫いた。


「ガガガ……ガ……」


そしてゴーレムは音もなく倒れこんだ。





「……ほう、さすが貴様が見込んだだけのことはあるな……クレイズ……貴様、泣いているのか?」

「……なんということだ……」


クレイズはその様子を見ながら、涙を流していた。


「もう、あの二人は私を追い抜くことはない……そう思っていたのだが……」

「ふん、まあいい! これで終わりだ!」


だが、そのネリア将軍の一閃をひょい、と避ける。


「まだ! あの二人は成長する!」


そして大きく振りかぶった剣を槍で受けるネリア将軍。だが、その力は先ほどとは比べ物にならず、表情を歪ませる。


「ぐ……なんだこれは……先ほどとは別物だ……!」

「新しい一歩を踏み出したんだな! アダン! ツマリ!」


クレイズはそのまま袈裟懸け、蹴り上げ、突きと連続で攻撃を繰り出す。その一撃一撃をかわすのが、ネリア将軍には精いっぱいだった。


「くそ……! だが……!」

「最高のプレゼントだったぞ、二人とも! ありがとう!」


そして、クレイズは数歩ほど距離を置く。


「……時間を取らせて悪かったな! ネリア殿! この一撃で決めようじゃないか!」

「ほう……ほう……ほう! そうだよな、そう来なくてはな!」


そのクレイズの構えを見て、最高に面白い相手を見つけたとばかりにネリア将軍も槍を構える。

そして数秒の後。


「はあ!」

「せや!」

二人の影が一瞬交差する。

そして、

「見事だ……クレイズ……」

ネリア将軍は、そのまま倒れこんだ。





「ネリア将軍!」

「くそ! ゴーレムまで!」


その様子を見たダリアークの兵たちは一気に士気を失った。


「く……ここまでか! だが、セドナ! せめて貴様だけは!」


その様子を見たダリアークは、魔力を込め、強力な風魔法をセドナに打ち込む。

だがセドナは、にやりと笑い食い下がる。


「むだっすよ! あっしの体重、なめんでくだせえ!」


馬に乗れないほどではないが、機械の体であるセドナは見た目よりもかなり重量がある。

セドナは風にあおられながらも一歩ずつ前に進み、ダリアークをとらえようとする。

だが、


「私を舐めるな!」


そう言って電撃魔法を重ねるように叩きこむ。


「……く……そいつは……ガガガ……!」


その一撃にセドナは急にひるみ、倒れこんだ。


「……む?」


半ば威嚇として撃ち込んだ電撃だったが、予想をはるかに上回る効き具合に、ダリアークは一瞬訝しむ。

だが、すぐにそれを弱点だと判断したらしく、その表情を歪めた。


「分かったぞ、貴様の正体、そして弱点が……! ならば、これで終わりだ!」


そう言って、ひるむセドナにさらに追い打ちをかけようと電撃を追撃で打ち込もうとしたその瞬間、セドナは笑みを浮かべる。


そして、ガッという鈍い音と共に、ダリアークの杖がはじけ飛んだ。


「終わりだ、ダリアーク……」

「さあ、投降するんだな!」


振り向くと、クレイズ直下の元帝国兵の一部が、ダリアークの後ろに回り込み、剣を向けていた。


「く……なぜ、いつのまに……」


その様子に苦悶の表情を見せるダリアーク。


「セドナさんに言われたんですよ。万一に備え、茂みに身を潜め背後に回れ、とね」

「なに……いつのまに……?」

「あなたがご高説を垂れていた時ですよ」


自身はゴーレムを呼び出すための時間稼ぎのつもりで会話をつないでいたのだが、それは向こうも同じだったとダリアークは確信した。そして、


「く……あの時時間稼ぎをしていたのは、貴様も同じだった、と言うわけか、セドナ……!」


最後までセドナに出し抜かれたことに気づいたダリアークは、力なく降服した。






「……よし、何とかなったか……」


残った兵士たちを捕縛し、クレイズはようやく一息つく。

こちらの被害も少なくないが、まだ数としては半分ほど残っている。アダン・ツマリの二人も残っている現状であれば、中枢部を落とす程度ならばなんとか可能だとクレイズは確信した。


「セドナ、平気か?」

「え? ……へい、あの一撃は効きやしたが、何とか致命傷にはなりやせんでした」


ふらふらしながらも、いつもの笑みを浮かべたセドナにクレイズは安堵の表情を見せた。


「そうか、ならよかった。アダン、ツマリ、お前たちは……」

「勿論、元気よ!」

「僕は……ちょっと魔力を使いすぎました。もう次の戦いでは力になれませんん……」


まだ余裕があるといったツマリに対し、アダンはすでに歩くのもままならないようだった。


「あれだけの魔力を使えば、当然だな。あとは私たちに任せておいてくれ。それと……ありがとう、二人とも」


セドナは改めて深々と頭を下げた。


「ちょ、ちょっと、クレイズ……」

「そんなに頭を下げられると、恥ずかしいですよ……!」

「いや、君達のおかげで力が湧いて来たんだ。……ああ、やはり私の体を貫くのは、君達の剣だ、とね」

「…………」


その発言に、クレイズとの決着をつける……それは即ちクレイズを殺す、と言う意味であるということを思い出し、アダンとツマリは少し押し黙る。

表情が曇った二人に対して、クレイズは笑みを浮かべた。


「だが、まだその技は完成途上なのだろう? 君たちが大人になって、そして完成したと思ったら、また戦いたい。……それまで勝負は預けてくれないか?」


これは事実上『二人が成人するのを見届ける』と言う意味でもある。

そのことは二人にもすぐにわかり、


「は、はい!」

「そんときには、一発で片付けてやるから覚悟しなさいよ!」


そう笑みを浮かべた。


「さあ、みんな! あと一息、敵軍の中枢を頂くわよ!」


そしてツマリの掛け声に、残っている兵士たちは大声で歓声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る