双子がおしゃべりしながら一緒に寝る姿、良いよね

一方こちらはアダン達の居る天幕の下。


「ねえ、お兄ちゃん? まだ起きてる?」


ツマリはもぞもぞと、アダンが寝ている枕元ににじり寄った。


「うん。寝れないんだね、ツマリ?」

「……やっぱり、寝る前にエナジードレインはダメよね」


エナジードレインは他者から精気を吸い取る魔法だ。

当然吸い取った側は活力を得られることになるが、それは裏を返せば精神が高揚してしまうことになるため、寝る前にむやみに行うと逆に眠れなくなるという副作用がある。


「それなら、ボクも起きてるよ。眠くなるまで、おしゃべりしよっか?」

「うん」


そう言うと、ツマリは嬉しそうにアダンの寝袋にもぐりこんだ。




虫のざわめきと、遠くに聞こえる川のせせらぎの他には聞こえるものは何もない(当然だが、クレイズとセドナの声は二人の天幕までは聞こえてこない)。

そしてセドナが気を利かせたのだろう、二人の天幕はクレイズの部下たちとはかなり離れた場所に配置し直してもらっている。


「なんか……この世界にボク達二人しか、いないみたいだね……」


アダンはゴロン、と顔を横に向けてツマリの頬をそっと撫でた。


「そうね。旅してた時にも、こんな誰もいないことはなかったから……なんかこんな風に二人だけで寝るなんて、子どもの時に戻ったみたいよね」


ツマリはくすぐったがるように笑うと、お返しとばかりにアダンの頬を軽くつねった。


「そうだね。……子どもの時って言えばツマリ、こっそりベッドにお菓子を持ち込んでさ!」

「ちょ、それは!」

「それで、父さんにすっごい叱られたよね?キャンディがシーツについて取れなくなったってさ。しかもそのことをボクのせいにしたし……」

「もう、その話はもうやめてってば!」


そう言うと、ツマリはアダンの頬をギューッとつねる。


「痛い痛い!やめてたら、ツマリ!」

「もう……」


そう言うとアダンから指を話して、二人で笑いあう。


「けど、こうやって生きてるなんて、まだ信じられないよね?」

「本当よね。まさか帝国の将軍に助けてもらうなんてね」

「そうだよね。まあ、ボクらと戦いたいって理由だからみたいだけど。それでも、ちょっと嬉しかったよね」

「うん。こうやってお兄ちゃんとまだおしゃべりしていられるなんて、夢みたいよ。……きっと……私たちと戦ってくれた人たちも、こうやって過ごしたかっただろうね……」

「うん……仇は取ろうね、ツマリ」

「もちろんよ」


それからしばらくの間、一緒に戦ってくれた他種族の話をしていたが、話題は次第にクレイズ達帝国兵に移っていった。

ツマリは、クス……といたずらっぽい笑みを浮かべながらつぶやく。いつもと違う表情を見せたツマリを見て、アダンは少し驚いたように眉を動かした。


「それにしてもさ! クレイズやセドナって二人ともかっこいいわよね? あれなら、旅芸人にもなれるんじゃないかしら?」


その発言に対して、アダンは少し不機嫌そうに頷く。


「……うん……そうだね」

「そしたら私、ファンになっちゃいそう……。で、周りに自慢してみたいわ?この人は私の大切な人です! なんて言ってみたりして!」

「へえ……ツマリって、ああいうのが好みなんだね?」

「あれ、ひょっとして嫉妬したの、アダン?」

「べ、別にそんなんじゃないよ……なんで僕が嫉妬なんて……」

「フフフ……カワイイ、アダン……」


恥ずかしそうに布団をかぶるアダンの鼻先をつんつん、と軽くつつく。

だが、すぐにツマリはハッとしたような表情になり、バツの悪そうな顔をしながらアダンの頭を撫でる。


「ごめんね、ちょっとからかっただけよ」


アダンもそれを聞き、布団からモグラたたきのキャラのように、顔をぴょこん、と出した。


「もう、ツマリったら……。けど、明日から頑張らないとね……」

「ええ。あのエルフ共、あたしたちを今日討ち取れなかったこと、死ぬほど後悔させてやるんだから!」

「そのためにも強くならなくっちゃね。ボクもクレイズさんみたいにならなくちゃな……」

「夢魔と人間じゃ、体のつくりが違うわ。だから、あまり無理しないでね?」

「大丈夫だって。今度こそツマリを守りたいから、頑張らないといけないと思うから、ね」

「あたしだって戦えるんだから、お兄ちゃんは無理して守ってくれないで良いわよ。ただ……」


そこまで言うと、ツマリは少し悲しそうな眼を向け、ギュッとツマリを抱きしめた。


「お兄ちゃんはあたしの傍にいて?そ れだけで良いから……あたしをもう置いていこうとしないでね?」

「……うん」


先ほどとは逆に、アダンはツマリの頭を抱え込むように、そっと撫でた。


「あたしにはお兄ちゃんしかいないから……。世界でたった一人の、大切なお兄ちゃんが居れば……他には何もいらないから……」


うわごとのようにつぶやくツマリの髪を優しく撫でつけていくと、ツマリの握る手の力が少しずつ緩んできた。


「ボクも……ツマリだけ傍にいてくれたら、それだけで幸せだよ。だから……」

「…………」

「ツマリ?」


ツマリは、すうすうと寝息を立てていることが分かった。

その寝顔を見ながら、アダンはぽつり、とつぶやいた。


「大好きだよ、可愛いツマリ。これからも、一緒に居ようね……」


そう言うと、アダンは自身が寝付くまでツマリの頭をなで続けた。

……だが、これが兄妹として、幸せに一緒に眠れる最後の夜になるとは、二人は知らなかった。

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