第70話 大老の正体

「悪堕ち巨乳……!」


 前の社会を滅ぼした悪の元凶……!

 それが出現したっていうの……!?


 私が震えていると、お義姉さんが


「のぞみ」


 厳しい声を私に向けてきた。

 な……何?


「真霧さん……」


「ちょっと来なさい」


 言って。

 お義姉さんは私の手を取った。


 そして立たせて、部屋を連れ出される。


 ちょっと……荷物が……


「後で人をやって取りに来させるから」


 有無を言わせない声音だった。

 そして私は、そのままカラオケ屋さんを連れ出された。




 そしてカラオケ屋さんの前でタクシーを拾われて。

 そのまま別の場所に連れていかれることに。


 乗り込んだとき、お義姉さんは


「御所前まで」


 そう一言。


 ……御所って


 政府の中枢じゃない……


 そんなところに何の用があるんですか……?

 お義姉さん……?




 タクシーが御所前で停まり、私たちは車を降りた。

 そしてそのまま御所の門を潜る。


 途中、黒い制服の公務員の人が呼び止めて「身体検査をさせて下さい」って言って来たけど。

 お義姉さんが一言


「佐上真月の娘よ。……通して頂戴」


 そう言うと


「……失礼しました。どうぞ」


 えええええ?

 名前を出すだけで御所の門を素通りって……


 佐上真月……お義母様って、一体どういう人なの!?




 脂汗が流れて来た。

 こんなところ、入ったこと無い。


 京都御所。

 政府の中枢で、元老院があって、陛下が有らせられる場所。


 綺麗な板張りの床に、白い壁。

 派手では無いけど、どうみても高級。


 ……こんなところに居ていいの?

 私……!


 しかも着替えて無いから、私セーラー服。

 セーラー服は女子高生の正装だけど、ここで着てくる衣装じゃない気が……!


「のぞみ、ここで控えなさい」


 そして私は、大広間に連れてこられて。

 その中央で、お義姉さんにそう言われた。


 お義姉さんはそう言うと、片膝をついた姿勢で畏まる。


 ……私もそれに倣った。


 すると


 大広間の大扉が開き、数人の人が入って来た。


 そして、その中央に居る人を見て、私は驚愕した。


 ……それは、お義母様だった……!




 他の人を引き連れて、お義母様がやってくる。

 いつもの佐上家で会うときは、普通にちゃんとした洋服を着ているんだけど。

 今日のお義母様は違ってて。


 政府のお役人の来ている、黒い制服……しかも、所々にバッチ……多分、勲章……がついてる、別格のやつ。

 そんな服を着ている。


 そしてお義母様は私の前までやってきて。


「よく来てくれたわね。のぞみ、そして真霧」


「お母様……いえ、大老。お言葉通り、のぞみを連れてまいりました」


 お義姉さんがそう、厳しい声で報告した。


 えええ……!?


 お義母様が……大老?

 巨乳判定を発案した、総理大臣より偉い人……?


 驚く私に、お義母様は話し始めた。


「……とうとう恐れていたこと……悪堕ち巨乳が出現してしまったわ。このままではこの国は崩壊する……!」


 厳しい顔で、そう言ったんだ。

 ええ……!?


 お義母様は続けた。


「悪堕ち巨乳の影響で、身長170センチ以上で、太っておらず、ハゲておらず、30才で年収500万円以上あり、見た目清潔感あって明るくて、大卒以上であり、恋愛経験1以上2未満の旧社会の一部女性の唱えていた普通の男性は外出できない。悪堕ち巨乳に洗脳されて破滅させられるから……」


 そ、そんな……!


「そしてそこから外れる男性は、自分が普通じゃないことを認めるみたいで癪に障るので外出できない。逆の意味で外れてしまうハイスペ男性に関しては、問題外。狙われるに決まってるので外出できない……!」


 それじゃ……社会を女性だけで回さないといけないっていうの?

 働き盛りの男性が全滅してしまうから……!


 それじゃ……


「そう。だから社会が崩壊する。そして……」


 お義母様……いや、大老は続ける。


 男性がダメなら女性がなんとかしようとしても、巨乳にはブラのカップ数の問題が存在する……!


 ああ……なんてことなの。

 巨乳同士の間でも、聖闘士セイントの位階の問題が持ち出されてしまうのに、そうでない女子だったらもう、話にならないよ……!


 絶望……!


「だから……あなたに頼むしか無いの。私の息子の嫁で、身内で唯一の巨乳である、真神のぞみ……あなたに……!」


 慄いている私を、お義母様は真っ直ぐな視線で見つめて。


 スッと、小さい箱を差し出した。

 木製の、黒い箱……

 これは……?


 私はそれを、両手で受け取る。


「……これは何ですか? 大老閣下……」


 私は開けていいですか? と目で確認する。

 するとお義母様は頷いてくれたので。


 開けた。


 そこには注射器が入っていた。

 中には薬液が詰まっている。


 ……これは……なんだろう?


 そんな私の疑問は、すぐにお義母様の一言で氷解する。


「それは貧乳薬よ」


 ……貧乳薬!?

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