第30話 失恋しちゃった

「なんだそうなんだ」


「婚活頑張ってね」


 チャラい人たちは意外に紳士だった。

 私が認定証持ちだと知ると、私を誘おうとするのを諦めて、爽やかな笑みを残して、労って去っていく。


 彼らの後姿を見送って


「ありがとう」


 そう言って、真神くんにお礼を言う。

 真神くんは


「嫌なら嫌だって言わなきゃダメだよ」


 溜息を吐きながら


 うん。その通り。

 その通りなんだけどね……


 反省する。

 しながら……


「ところで、なんで真神くんはここにいるの? 家族旅行?」


 気になったところを訊いてみた。

 すると


「ん、そんな感じかな……?」


 そうなんだ……

 家族旅行みたいなものってことは、佐上くんも来てるのかな……?


 これは、私の印象を深くするチャンス……?


 すると……


 遠くに佐上くんの姿が見えた。


 アッ!


 私は駆け寄る。

 挨拶をしようとして。


「さが……」


 声を掛けようとした瞬間だった。

 その声が、止まる。


 佐上くんの隣に、女性が居たからだ。

 西洋人形みたいな美貌の女性だった。

 腰に白いパレオを巻いた水着姿。トップスの色も白だった。

 胸は大きく、この人も巨乳認定証持ちを疑ってしまうレベルだった。

 長い髪をお団子状に纏めており、佐上くんと仲良さそうに話している。


 ……で、見て思った。


 佐上くんがいう好きな人って誰なのか。


 そして、これがもはや取り返しのつかないレベルであることを。


 あ……ダメだ。

 これはあきらめないと……


 見た瞬間、心臓に衝撃を感じた気がする。

 ときめきじゃなく、掴まれてしまうような。

 悲しみで引き絞られる感じ。


 とても、挨拶なんて出来なかった。

 さっきまでしに行く気マンマンだったのに。


「……どうしたの?」


 私の元気が無くなったのに気づいたのか、真神くんが私を気遣ってくれる。

 私は俯き加減で、彼の方を向いて


「……失恋しちゃった」


 いや……恋ですら無いのかもしれないけど。

 つい、うっかりそう洩らしていた。


 立っている気分じゃなくなって、座り込む。

 膝を抱えて。


「……初めて素敵だと思えた人だったんだけどなぁ」


 言葉にしてしまうと、段々気分が落ち込んでくる。

 目の前が滲んで来た。……泣けて来てるのか。

 辛い……


 私が狙っていたことはダメだった。

 だけど……


 これから、こういう気持ちになれる人が私の前に現れるんだろうか?


 そう、気分を沈ませていた。

 そのときだ。


「あのさぁ」


 そんな私の様子を見て

 真神くんが私を慰めるような声で


 こう言って来たんだ。


「僕はダメなのかな?」


 ……え?

 顔を上げる。


 するとそこには、顔を少し赤らめた真神くんがいて


「……巨乳認定証の結婚における年齢制限の撤廃って」


 関連法に、別に「結婚する両性は同年代でないといけない」って記載、無いんだよね。

 法律上、僕がダメな理由、どこにも無いんだけど。


 そう、多少テレながらも、一気に、しっかり言ってくれた。

 私はパニくる。


 え、え、え……


 ええええ~~!!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る