85.配信休止=彼女は過去の無茶を振り返る。


 Vtuberを目指すために私がまずどうにかしなければならないお金以外の問題は他人とまともに会話もできないほど酷い対人恐怖症だ。


 とはいっても、どうにかしようと思って簡単に治せるものなら私はVtuberを羨み、目指そうなんて思っていない。


 だから私は対人恐怖症をどうにかするために簡単ではない……というか、荒療治ともいえる手段を試す事にした。


 今にして思えば当時の私の行動は無茶で荒唐無稽だったと思う。


 なにせ、私の取った手段は姿事なのだから。


 まずは鏡の前でひたすらに理想と思う自分を演じ、綻びの出ないよう、納得できるまで一人で何時間でも続けた。


 途中、その姿をお母さんに見られて物凄く心配されたけど、どうにか誤魔化して、違和感なくそれを演じられる……ううん、その姿こそが本当の自分であると思い込むくらいになるまで刷り込んだ。


 そして次は実践……休みの日に街へと繰り出し、理想の私を演じたまま様々な人と接しようと試みた。


 とはいえ、いくら理想の私を演じても対人恐怖症が治ったわけではなく、最初の一人に話しかけた後、急いでお手洗いに駆け込み、盛大に吐き戻してしまった。


 その後も、比較的話しかけやすいお店の店員さんや公園で遊んでいる子供達、お散歩しているおじいちゃんやおばあちゃんなど、チャンスがあれば積極的に話しかけにいった。


 その度に吐き戻し、胃液や唾液しか出なくなっても、止めず、様々な人に話しかける私の姿は傍から見れば奇異に映ったかもしれない。でも、私はなりふり構わずに演じ話し続け、最後にはふらふらになりながら帰路につく。


 たぶん、その時の私は相当に青白い顔をしていたのだろう。


 家に帰るなり、私の顔を見たお母さんが血相を変えて心配し、救急車を呼ぶか呼ばないかの騒ぎにまで発展しかけた時は本当にどうしようと思ったけど、今思えば良い思い出だったと思う。


 そこからはその繰り返しで、鏡の前で演じ、休みの日に出掛けては話しかける……対人恐怖症の克服方法としては決して勧められたものではないが、それでも、理想の自分を演じている間は気持ち悪くなっても、吐き戻すまでには至らないくらいまで症状が改善されつつあった。


 まあ、流石に学校で理想の自分を演じる勇気はなく、いつもので過ごしていたものの、この時には家でも演じるの方が多くなり、どっちが本当の自分なのか曖昧になり始めていた。


「…………今の私ならきっと大丈夫、だから――――」


 そんな繰り返しの中、理想の自分を携え、私はその目標へ手をかけるべく、その後の人生を変える事になる挑戦へと向かった。






  ☆ ☆ ☆


85.配信休止をご覧くださり、誠にありがとうございます。


何度も吐き戻してまで演じ続けた彼女の挑戦は果たして……?


今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録とグッドボタン……もとい、フォローと評価の方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!


「……今のゆうぐれ様に至るまでにここまで壮絶な裏があったなんて」

「……私はここまで深刻な対人恐怖症を経験した事はないから気安く分かるなんて言えないけど、それでもゆうぐれちゃんが凄く無茶をしながらも頑張った事は分かるよ。やっぱりゆうぐれちゃんの根っこは変わらない事もね」

「……少しだけ、少しだけですけど、私も気持ちは分かりますわ。ブラック企業に勤めていた頃、私も人と接するのが怖かった……それだけにあれを無理矢理克服しようというのが凄い無茶で、下手をすれば心が壊れていた可能性もあって……私には真似できないと思います」

「……そうだね。たぶん、私にもそれはできないよ。それだけゆうぐれちゃんの覚悟が凄かったんだと思う……褒められた克服法ではないけどね」

「本っ当にそうですわ。もし、同じような無茶を私の目の前でしようものなら引っ叩いてでも止めますわよ!」

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