82.配信休止=彼女は忘れられない過去を振り返る。


 憂鬱な気分のまま始まった高校生活。この頃の私は自分を守るために誰とも話さず、話しかけられても無視をするか、軽く会釈してその場を去るようにしていた。


 流石に高校生になる頃には自分の容姿が他の人よりも少し優れている事に薄々気付き始めていた。


 というのも、地獄の中学生活……いじめられていた時に何人か、私に声を掛けてきた人達がいたのだ。


 最初は優しい人もいるんだと思っていたけれど、その人達の視線から隠しきれない下心をすぐに知り、そんなものが幻想だと思い知った。


 そして、それからは近付いてくる人全員を信じられなくなり、全てに対して心を閉ざす事に。


 そんな私に転機が訪れたのは高校入学から半月くらい経った頃だ。


 いつも通り、誰にも見つからないよう一人でお昼ご飯を食べていた時、暇潰しにと見ていたSNSで一枚のイラストに興味を惹かれた。


 誰が話しかけてきても応じないというのは必然的に一人でいる時間が続く事に繋がる。


 だから私は一人で楽しめること……読書やゲーム、動画鑑賞などにのめり込む事が多くなっていて、イラストに興味を惹かれたのもその一環だった。


 まあ、とは言っても、自分で描いたりする事はなく、ただ好みのイラストを見るだけだったけれど、それでもなんとなくその作者も気になってプロフィールを覗いたりもした。


「小鳥遊……ミリア……?あ、この人、イラストだけじゃなくて他にも活動してる……」


 プロフィールの欄にはイラストレーターを目指す旨と、今までに請け負ってきた仕事が大まかに記載されており、その中にはVtuberのデザインという項目があった。


「Vtuberって確か……アバターを使って配信するんだっけ……覗いてみようかな?」


 当時の私はその程度の認識だったけど、興味本位でその人がデザインをしたVtuberの配信を覗いている内に見入ってしまっていた。


 たぶん、特別配信している子が面白かったとかではないと思う。


 ただ、彼女とデザインが本当にそのキャラクターがそこに息づいていると見紛うほどだったこと……そして、配信をしているその子は凄く楽しそうで、私にはそれが何故だか、それが羨ましく見えた事は今でも覚えている。


 気が付けばお昼休みも、もうすぐ終わる時間。私は熱くなった吐息を吐き出し、そっと配信を閉じてぼうっと空を見上げた。


「…………私もあんなふうに楽しくお喋りできたらいいな」


 誰もいない場所で一人、呟いた願望。望むだけじゃ何も変わらないと分かっていたけれど、この時の私にはまだ動き出す勇気はなかった。






  ☆ ☆ ☆


82.配信休止をご覧くださり、誠にありがとうございます。


高校生となってなお、人間不信を抱えた彼女はここからどう変わるのか……?


今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録とグッドボタン……もとい、フォローと評価の方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!


「ゆうぐれ様がVtuberに興味を持ったきっかけは私と同じく偶々だとは思いませんでしたわ。それも偶然見かけたイラストがノーみりんお母様のものだったなんて……まるで物語みたいですわ」

「……そうだね。凄い偶然だと私も思う」

「?お母様らしくありませんわね。いつもなら〝そりゃ私とゆうぐれちゃんは運命で繋がっているからね~〟とでも言いそうですのに」

「……オリィちゃんは私の事を何だと思ってるの?まあ、思うところがなければそう言ったかもしれないけどさ」

「思うところ……それはなんですの?」

「いや、その、ゆうぐれちゃんの見たイラストってまだそういう活動を始めたばっかりの頃だったから今よりも全然下手で……なんというか、嬉しいんだけど……複雑な気分なんだよ」

「……この場合、上手い下手の問題ではないんじゃないですの?お母様のイラストがゆうぐれ様にきっかけを与えた……それだけですわ」

「……そう、かな?…………ううん、そうだといいな」

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