78.配信休止=礼嬢オリィは銀杏ぎんかにその理由を問う。


 事の始まりはコラボ配信を終え、お互いの配信に顔を出すようになって少し経った頃、漆黒ゆうぐれ……白崎さんは事務所から少しは休みなさいと注意を受けた。


 というのも、彼女はデビューしてからずっと、まとまった休みを取っておらず、以前からきちんと休養しなさいと言われていたのだが、本人が配信しないと調子が悪くなると言ってずっと拒否をしていたらしい。


 しかし、流石に事務所としてもいい加減、見過ごせなくなったようで、社長直々の命令で白崎さんは強制的に休暇を過ごす事に。


 始めは白崎さんも年甲斐なく駄々をこねたらしいのだが、最終的には折れて、渋々ながらも納得した。


 期間は一週間と短いものだったけど、これ以上の休みは駄目だと白崎さんが頑として譲らなかったため、事務所側がそこは譲歩した形になったが、ともかく、彼女は休暇を受け入れた。


 休暇中はずっと帰っていなかったから、久しぶりに実家に戻るとマネージャーや後輩……ぎんかさん達に伝えたっきり、白崎さんは連絡を絶ってしまったとの事だ。


「…………ゆうぐれ先輩がお休みに入ってから他の子は連絡を取れていません。社長ならもっと事情を知っているかもしれませんが、私が直談判しても取り合ってもらえなかったのでたぶん、聞いても答えてはくれないと思います」


 ぎんかさんの話だけでは具体的に何が起こったかは分からなかったけど、経緯を知る事はできた。話から察するに、白崎さんが実家に帰っている間に何か事が起きたのだろう。


 それがなんなのか、SNSで広がっている話題に繋がっているのか、結局は変わらずじまいなものの、白崎さんが実家にいる事が分かっただけでも十分といえる。


 まあ、とはいえ、流石にそこまでの個人情報を知るのは難しいと思う。


 自社のタレントであるぎんかさんが直談判してなお、取り合ってもらっていない以上、部外者である私達に教えてくれる筈もないだろうから、どうにか別の手段で白崎さんの実家がどこかを知る必要があった。


「なるほど、ね。そうなると、ゆうぐれちゃんの実家にお邪魔するしかないかな……でも、どこにあるか……」

「詳しい住所までは分かりませんけど、大まかな場所なら心当たりがあるので後でSNSのメッセージ充てに送ります。ですから、その、どうかゆうぐれ先輩をお願いします」


 そう言って頭を下げるぎんかさん。正直、一体、何がそこまで彼女を突き動かすのか、私には分からない。たとえ、尊敬する先輩のためだとしても、自分の進退までも懸けて頭を下げるというのは少し度が過ぎているだろう。


「……どうして貴女はそこまでするんですか?事務所の先輩を助けたいという理由だけでは弱いように思えますが」


 どうしても気になり、思わずその疑問を口にした私に対してぎんかさんは力なく首を振って答える。


「…………今、それを聞いても意味はないですよ。ただ、まあ、納得がいかないというのなら私の理由は貴女と同じとだけ」

「私と同じ……?それって――――」

「私の知っている事はもうお話しました。後は全て貴方達に託します。さ、警備の人を呼ばれちゃう前に行ってください」

「へ?な、何を――――」

「え、あ、ちょ――――」


 言葉を遮ったぎんかさんは最後にそれだけ言うと、困惑する私達の背中を押して事務所の入口の方へと追いやっていく。


「――――ゆうぐれ先輩……朝陽さんを助けてください。オリィさん……それにミリちゃん」


 事務所のドアが閉まる直前、聞こえるか、聞こえないか、ぎりぎりの声で呟いたぎんかさんの言葉が不思議と耳に残って消えなかった。






  ☆ ☆ ☆


78.配信休止をご覧くださり、誠にありがとうございます。


事情は分からないながらも、銀杏ぎんかの覚悟と共に一縷の望みを託された彼女達は漆黒ゆうぐれの元へ辿り着けるのか……?


今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録とグッドボタン……もとい、フォローと評価の方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!


「……正直、ほぼほぼ初対面だった私達にどうしてそこまでしたのか……それは今でも分かりません。でも、ぎんかさんの人生を懸けてまで託された想いはゆうぐれ様にきちんと伝えるのが私の役目……この時の私はそう思いましたわ」

「……私もそう思ったよ。たぶん、ぎんかちゃんもゆうぐれちゃんに救われたんだろうね。だから私達に全部を託した……どれだけの覚悟だったか、私には推し量れない」

「…………叶うのならいつか、ぎんかさんともコラボしたいですわね」

「……うん、その時はゆうぐれちゃんも呼ぼっか。あ、もちろん、私も一緒だよ?」

「ふふっ……それは楽しみですわね。そのためにもゆうぐれ様には元気に帰って来てもらわないと」

「だね!よし、頑張ろう~!」

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