バレンタイン特別記念配信=礼嬢オリィは悶えながらも、みんなの期待に応える。
二月十四日……バレンタインデー。お菓子メーカーの策略なんて言われる事もあるけど、人によっては大事な相手に想いを伝える特別な日だ。
まあ、ブラック時代はもちろん、学生時代を含めても私は渡した事も、まして渡された事もないし、義理チョコというやつですら用意した事なんてない。
だから何の気なしにああ、バレンタインデーが近いなぁと思いながら過ごしていたけれど、よくよく考えれば今の私にとっては物凄く関係のある大事なイベントだという事に気付いた。
「そうだ……Vtuberにとってこういうイベント事は特別な配信をして視聴者を増やすチャンス……ぼーっとしている場合じゃなかった……!」
バレンタイン一週間前、慌てて準備を始めようとしたけれど、今の私には実写でチョコ作りをライブ配信するなんて用意も、度胸もなく、かといってそんな急に良い企画を思いつくわけもなく、最終的に焦って地獄のような質問をSNSに投稿してしまった。
今思えばもっと良い案があっただろうにと後悔するばかりだけど、もう告知して配信待機所まで作ってしまった以上、引き返せない。
覚悟を決めた私は大きく息を吸い込んでから配信を始める。
「――――み、皆様、ごきげんよう。元ブラック勤めの崖っぷち令嬢Vtuber……いえ、今日は素敵なバレンタインを過ごす皆様のこ、恋人っれ、礼嬢オリィでしゅわ!」
≪ごきげんようオリィ嬢。今日の配信を楽しみにしてました!緊張と羞恥を乗り越えて頑張って!≫
≪……オリィ嬢はこの手の配信は初めてだから噛んじゃうのも仕方ない……頑張れ!≫
≪ごきげんよう!ここからオリィちゃんの配信を見るのは久しぶりかも。今日はこっち側で楽しむよ~――――¥5000≫
≪うわっ……久しぶりにこっち側に来たと思ったらまーた札束で殴ってるよノーみりん先生≫
緊張のあまり噛んでしまった私にエールを送ってくれるコメント欄のみんな。そしてノーみりん先生が久しぶりのコメント欄で興奮しながらスパチャを投げてきた。
「うぅ……お久しぶりですわノーみりんお母様。スパチャありがとうございます……でも、どうせならお母様もコメント欄ではなく、こちら側にいらっしゃいませんか?」
≪え、いやー……私のそういうのなんて需要ないだろうし、遠慮しておくよ≫
≪オリィ嬢がノーみりん先生を道連れにしようとしてる……≫
≪需要ならあると思いますよ!ノーみりん先生!≫
≪そうだそうだ!ノーみりん先生も今回の企画に参加をしよう!≫
どうせ辱めを受けるならノーみりん先生も一緒にと目論んだのだけど、拒否されてしまってはどうしようもない。
ただ、リィメンバー達の望む声の多さから分かるように需要がないなんて事はなさそうなので、いつか逃げられないよう準備して、先生にこういう配信をしてもらおうと心の中でひっそりと決意する。
「……仕方ありませんわね。で、では、改めまして、本日は事前に募集させていただいた中から皆様の理想とする告白しちゅえーしょんを演じさせていただきますわ」
≪うおおおおっ!≫
≪いえーい!待ってました~!≫
≪オリィ嬢に告白されるんならもう俺に悔いはない……≫
≪ふふふふふふ……録音の準備はバッチリだからねオリィちゃん!――――¥5000≫
沸き立ち、盛り上がるコメント欄。そして始まろうとしている地獄の企画。
正直、どうしてこんな事になってしまったのだろうと叫びたくなるけど、リィメンバー達が望んでいるのなら私にはそれに応える義務がある。
だから羞恥を抱えながらでも、私はこの配信をやり遂げるしかなかった。
「ふう……それでは最初のシチュエーションから――――〝あ、あのっ!きゅ、急に呼び出してしまってごめんなさい!そ、その……い、いつもは緊張しちゃうけど、きょ、今日は特別な日だから……勇気を出します!これっ受け取ってください!〟」
≪う……なんか凄いキュンキュンするんだけど……これが恋?≫
≪別にガチ恋とかじゃないけど……これはヤバいかも……≫
≪結婚してくださいオリィ嬢!幸せにしますから≫
≪オリィちゃんは私の嫁だから!誰にも渡さない――――¥10000≫
まだ最初のシチュエーションなのにコメント欄の盛り上がりは過去最高と言っても過言ではないほど白熱しており、この配信がどうなっていくのか、少しだけ恐くなってくる。
「ん、んん……では次のシチュエーションを――――〝あ、きてくれたんだ……ありがと、ん?どうして呼び出したのって……もう、分かってるくせに、君って意外と意地悪なんだね。はい、これ……え?義理チョコでも嬉しい?……もー流石に私も怒るよ?鈍感なんだから…………こ、れ、は……本命、だよ?〟」
≪良い……すごく良いですよオリィ嬢!これで明日も生き抜けます――――¥1000≫
≪はぁ……尊い……これだけでご飯三杯は堅いですね――――¥5000≫
≪ふぉぉぉぉぉぉっ!!これはもう永久保存確定だよー!!――――¥10000≫
≪……こればかりはノーみりん先生に同意かも――――¥3000≫
羞恥と引き換えに訪れたスパチャの嵐。ありがたい事だけど、こういう企画で過去一番スパチャ金額になりそうなのは少し複雑な気分だ。
(うぅ~まだ始まったばっかりなのに顔から火が出そう……私の心臓、今日の配信が終わるまで持つのかな…………)
まだまだ控えているリクエストされたシチュエーションに遠い目をしつつ、羞恥で赤く染まり、火照った顔の熱と動悸を心配しながら、私はこの地獄のような配信を続けていくのだった。
☆ ☆ ☆
バレンタイン特別記念配信をご覧くださり、誠にありがとうございます。
バレンタインだからという事で急遽、配信枠を用意した今回のお話……楽しんでいただけたのなら幸いです。
この特別記念配信をきっかけに気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録……もとい、フォローの方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「うぅ~……もう二度とあんな羞恥を晒す配信は御免ですわ」
「そう?私は可愛いオリィちゃんがたくさん見れて大満足だったよ」
「……見る側は良いかもしれませんけど、やる方としては本当に恥ずかしいんですわよ?」
「その羞恥も含めて可愛いと思うよ。というか、いくらオリィちゃんが御免だって言っても、たぶん、リィメンバーのみんなバレンタインがくる度に今回みたいな配信を期待しちゃうと思うけどな~」
「…………回避できないのなら今度こそノーみりんお母様も道連れですわ!私と同じ羞恥を味わっていただきますわよ」
「え……いやでも需要が――――」
「ない、とは言わせませんわ。リィメンバーの皆様も望んでいますもの……絶対に逃がしませんから」
「うう……オリィちゃんがヤンデレみたいになっちゃった…………これはこれでありかも?」
「…………お母様は懲りそうにありませんわね。全くもう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます