7.配信中=彼女は意外な登場人物に驚く。
≪――ついにオリィちゃんもここまできたかぁ。ま、私の娘なんだから当然かな?≫
頭を上げ、少しの間、感慨深い気持ちで画面を眺めていると、一つのコメントが目に留まる。
「……あ、ノーみりん先生」
そのコメントをしたユーザー名に見覚えがあり、配信中だという事を一瞬、忘れ、思わず声に出してしまった。
≪ノーみりん先生ってあの!?≫
≪そっか、そう言えばオリィ嬢のママだったっけ?≫
≪ママが配信を見に来てくれるんだ!?≫
≪え、オリィ嬢のママってあのノーみりん先生だったの!?≫
私の言葉にざわつくコメント欄。最初の方から見てくれているリィメンバーは知っているけれど、初見の人は驚くのも無理はないだろう。
ノーみりん先生といえば、幾人ものVtuberのデザインを担当してきた大人気イラストレーターだ。
そんな大物が私みたいに何のコネもない素人のデザインを担当してくれているなんて普通は思わない。
≪はーい。その通り。私が礼嬢オリィちゃんのママで、大人気イラストレーターのノーみりんだよ~拍手、拍手~≫
ざわつくリィメンバーへ軽い調子で応えて見せたノーみりん先生により一層、盛り上がり、コメント欄はパチパチといった拍手喝采の嵐となった。
「あ、ありがとうございますノーみりん先生。わざわざ配信まで見にきてくださって……」
≪チッチッ……違うよオリィちゃん。私は先生である前に君のママなんだから、きちんとそう呼んでくれなきゃ、ね?≫
お礼を言う私にノーみりん先生はそう訂正してくる。
(自分で始める前、参考にするために他のVtuberの配信をたくさん見たからデザインを担当してくれたイラストレーターさんをそう呼ぶ文化があるって知ってたけど、流石に……)
いざ配信の場で自分がそう呼ぶとなると、そうしたって気恥ずかしさがきてしまう。でも、ここで呼ばないのはせっかく来てくれたノーみりん先生に失礼だ。
そう思い、羞恥を呑み込んで覚悟を決めた私は意を決して口を開いた。
「え、ええと、その、ノーみりん……お母様?」
ママ、ではなくお母様といったのは礼嬢オリィのキャラを考えての事でもあるが、どちらかといえば少しでも羞恥を抑えるため。
画面でみんなには伝わらないし、自分で自分の顔を見る事はできないけど、そう言った私の顔はたぶん、真っ赤になっている事だろう。
≪うんうん、オリィちゃんのキャラ的にはそうだよね。ママも捨て難かったけど、お母様呼びもグッとくるからよし!≫
コメントの文字列だけで顔が見えるわけじゃないけれど、何故か画面の向こうでテンションの上がった
「……納得して頂けたようでなによりですわ。それで、ノーみりんお母様はどうしてコメントを?いえ、その、見て頂けるのは嬉しいのですが、お母様はご多忙でしょう?だからあまり人気のない私の配信にきてくださるのが不思議で」
≪うん?まあ、忙しいと言えば忙しいけど、私、自分の子供たちの配信はなるべく見るようにしてるの。それに今回の配信はオリィちゃんがVtuberになるまでのお話をするんでしょ?だったらなおさら見なきゃってね≫
ノーみりん先生が担当した子は少なくないはずなのに、それでも私の配信にまで顔を出してくれるのはありがたい限りだ。
≪ノーみりん先生……むっちゃ良い人やん≫
≪ヤバイ……先生のファンになりそう≫
≪ママぁ……ママぁ……≫
≪こらこら、リィメンバーのみんな。浮気は駄目だゾ?あと、私はオリィちゃんのママであって君達のママじゃないからね?ほら、いつまでも前置きをしてないで本題を切り出さないと≫
暴走気味のリィメンバーを宥めるようにそうコメントした先生が配信を先に進めるよう促した事で、話が大分、逸れていた事に気付き、私はひとまず昨日の話の続きを始めようとする。
「……こほん、お母様のおかげで皆様も落ち着かれたようなので、さっそく昨日のお話の続きをやっていきますわね――――」
☆ ☆ ☆
7.配信中をお読みくださり、ありがとうございます。
これは彼女の配信中に思わぬ人物がコメント欄に現れ、驚きながらも感謝するお話です。
Vtuberとしての姿を与えてくれただけではなく、配信まで顔を出してくれた恩人と彼女はこれからどう関わっていくのか、気になる、推せるという方はチャンネル登録……もとい、フォローの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!
「……正直、私よりもよっぽどVtuberに向いていると思うほど強烈なキャラクター性を持った方ですわ。子供だからという理由だけで、まだ無名の私の配信にきてくれる優しさといい、尊敬できるお母様ですわ…………怒らせなければ……ですけれど」
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