【戦場のRED-LINE】~思いは5000マイルの蒼空を翔ける。(旧タイトル:T.i.e -戦場に咲く花- )

猫鰯

T.i.e

プロローグ



『日本政府、身代金の支払いを拒否!』




 今日のニュースはどのチャンネルもこの話ばかりだ。もちろん新聞やネットでも大騒ぎしている。邦人が拉致され、身代金を要求される事件は過去にもいくつかあった。しかし、今回の騒ぎはそんなものじゃない。今までにないスキャンダルともいえる、日本中が注目する異質な事件だった。


 ――それは、拉致されたとされる邦人が、実はテロリストの一員だったと報道された事に始まる。


 加えてその男には、災害地支援用として開発された人型汎用重機(Humanoidヒューマノイド Versatilityヴァーシティリティー Heavyヘビー Machinery マシーナリー 通称:HuVer/フーバー)をテロ組織に横流しした疑惑まであった。





 このニュースが最初に報道されたのは昨日の事、梅雨明け宣言と同時に流れて来た。その時は単に『邦人拉致』と言うだけの内容でしかなかった。


 だが、それを見た俺の心中は今までになくザワつく事になる。


 ――なぜならばそこに映っていたのは、


 世の中に同姓同名の人間なんていくらでもいると思う。しかし、それでも今テレビ画面に映る【藤堂堅治】と言う名が俺のものだという事は、名前の上に書かれた社名と肩書きが証明していた。


「何で俺が拉致された事になっているんだよ……」


 そもそも俺は、ドバイで行われる工業機械の展示会『Industrial Expo in DUBAI』に、新型HuVerフーバーHVオペレーター(注)として参加予定だった。世界各国に売り込むためのデモンストレーションを行うという、かなり重要なミッションだ。

 しかし渡航前日に立っていられない程の腹痛を感じて受診したら、胃カメラを飲まされた後そのまま入院する事に。病室に案内された時には、すでに【藤堂堅治/190cm・83kg/胃アニサキス症】と書かれた患者カードがベッドに貼り付いていた。それが4日前の事。


 そして俺の代わりに、支社から代役が渡航したと聞いている。面識は全くないのだが、優秀なHuVerフーバーの設計技師だそうだ。

 それが今日になって『拉致された邦人は、実はテロリストの一員だった』と報道が上書きされた。……俺の写真と名前は上書きされずにそのままだった。おかげで主治医も看護師もそわそわしているのが手に取る様にわかって居心地が悪い。梅雨開けしたばかりなのに、心も空気もどんよりしている。


 しかし、この一連の報道には違和感しかなかった。

 俺が勤めるのは、HuVerフーバー製造/流通の世界シェア30%を誇る角橋かどはし重工だ。急な事だったとは言っても、入院中の社員と渡航した社員を間違える程いい加減な管理体制ではないはず。なのに、何故か俺がテロリストと言う事になって報道されている。

 改めてテレビ画面の写真を見た。短めに整えた黒い髪と、小学校の頃に“ガイジン”とあだ名された彫りの深い目鼻立ち。そして大学のラグビー部で少し変形した耳。……紛れもなく俺だ。



 ――何かおかしい。何でこんな事になっているんだ?

 





――――――――――――――――――――――――――――

(注)HVオペレーター:HuVerフーバーの操縦者の事。


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