第7話 バージル

レイズたちが村へ戻ると、マントを羽織った一人の男と、村の大人たちが何やら言い争っているところだった。


「……だから、龍力者になったヤツに会わせろって!!」

「ふざけるな!騎士団でもないヤツに会わせるか!」

「そうだ!帰ってくれ!」

「そこをなんとか!!頼むって!!」


どうやら、あの日に龍力者になった人間に会いたいらしい。


(……関わらない方がいいな)


レイズは胸がチクりとし、一瞬目を背ける。が、興味もあり、そちらを見てしまう。


「……こっちよ」


レイズのそれを見て、レーヌは遠回りさせようとする。しかし、遅かった。

男と目が合い、見つかってしまう。


「お前だな!!」

「ッ!!」


他の龍力者は、彼がレイズに気を取られているうちに、自然に村人の陰に隠れてしまう。まさかの裏切りだ。


(ち……)


自分の軽率な行動に後悔しながらも、仕方ない。レイズは前に出る。


「レイズ……」


レーヌは、小さく彼の名前を呼ぶことしかできない。

見つかる前なら、ギリ庇えた。が、見つかってしまっては……


男と言い争っていた村人は、レイズから少し距離を取る。

暴走を懸念しているのか、今から起こるであろう「何か」を察知し、巻き込まれないようにしたのか。

何にせよ、庇ってくれる大人はいない。


近づいて分かったが、男と言っても、レイズと同じくらいの年齢だ。


(え?俺と同じくらいか……?)


茶髪で、前髪とそれ以外を器用に分け、良い感じに立たせながら流している。

性格明るいグループにいそうな顔立ち。そんな少年が、何の用なのか。


「……捕まえに来たのか?」


少年は、レイズの問いを否定する。


「いや、そうじゃない。ただの旅人だよ。俺はバージル。よろしくな」


マントをまくり、リュックを見せる。


「いろいろ入ってるぜ。ほら」


そう言って、リュックを下ろす。

服や食料、薬品などを見せてきた。なるほど。確かに旅の道具だ。だが。

本当に旅人で、自分を捕まえに来たわけではなさそうだ。よくよく思い出せば、『あの日の龍力者』は罪に問われないと母も言っていたし。


「なら……何しに来たんだ?」

「ん、野暮用」


そう言って、バージルは杖を取り出した。杖と言っても、歩行用のではなく、武器になりそうなくらいの杖だ。凝った装飾が施されている。


「……?」


意味が分からず、怪訝な顔をするレイズ。

それを完璧に無視するバージル。朗らかだった彼の表情が一気に変わる。


「さぁ、戦おうか」

「は!?」


咄嗟にレイズは構える。が、戦闘経験もなく、適当な構えだ。指が揃い、ピーンと伸びている。

相手は龍力者で、武器持ちだが、こちらには武器がない。刃物ではないのが救いだろうか。


「ちょ!待てって!」

「うん?待たない」


ぶお、と耳のそばで風の音がした。杖の先端が耳をかすめたのだ。


「っぶね!!」


耳を押さえながら、距離を取るレイズ。

その際に、大人たちと目が合う。流石にマズいと思ったのか、龍力自慢の若い衆が前に出ようとする。


「レイズ!」

しかし。


「無駄だッ!!風障壁!!」

「ッ!?」


突如出現した、風の壁に遮られる。

龍力者たちは足を止める。見えない何かに遮られている様子だ。


「龍圧か!?」


ただ、よく観察すれば、風の流れが生まれ、砂や葉が舞っているのが分かる。


「いや、風の壁……!」


龍力による風の壁。なら、龍力で対抗すれば、この壁は越えられる。

しかし、全く身体が前に進めない。否、進む気すら起きなくなる。

これは、力に大きな差があるためだ。


「……お前たちに要はない。大人しくしろ」

「!!」


冷たく言い放つと、レイズに向き直る。


「おい。龍力者。力を使え。でないと」


バージルは駆け出す。杖が振りかぶられる。

レイズは体勢を整え、何とか避けようとする。


「死んじまうぞ?」


彼から感じる謎の圧力が強くなり、風も強く吹き始める。

こちらの意思とは無関係に、戦いは避けられない。

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