SMS
もう、あなたが梔子になって四季が巡りました。
その白い部屋、白い間仕切り、風にも触れないカーテンは、あなたの好きな静けさを呼ぶことでしょう。
ラジオもなく、テレビ台は飾りでしかない。
先頃になり、父がテレビのイヤホンを怪我していない方の耳に頼んだようですが、聞こえているのでしょうか。
あなたと通話したとき、もう電話は嫌と断られたので、切りました。
実家では、与えられた補聴器があり、思えばそれも一因だったのでしょうか。
私が小説で一次選考を通過すると、その頁をメールで送りましたね。
順位のつくもので、恋愛の三位になったとき、どうしてだろうねと喜んでくれましたね。
また、私が描くイラストをウエディングドレス姿のものなど、ラストシーンに感銘を受けてがんばったものに対し、美人さんに描けたねと褒めてくれましたね。
小学校一年生より、隣家に藝大の先生がいらっしゃって、絵画を学んでいました。
臆せず雑誌に投稿するとよく掲載される方で、あなたは本人に色気がないのに絵にあるのはどうしてだろうねと笑っていましたね。
娘など、粗を探すことが多いので、褒められると忘れられません。
お見舞いに来てくださったあなたの義理のお姉さんは、私のことを頭がいいと聞いたよと、これは箱根の旅行で自慢してきたなと、本音を覗いた気がいたしました。
スマートフォンに触れていてふと気が付きました。
あなたの嫌いな電話です。
ショートメールのアプリを開くと、お気に入りに家族を入れているのに、操作を嫌うあなたのナンバーが入っていませんでした。
直ぐさま、謝りながら入っていただいて、早速初めてのメッセージを考えます。
――。
届け!
あなたに向かって届け!
ずっと九階にいないで、お家に帰ってきてね。
携帯電話をポストにして私の気持ちに笑顔を入れて。
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