王党派蜂起軍
アップトック提督の協力で、ユートパクス上陸はスムーズに行われた。王党派蜂起軍幹部との連絡もすぐにつけることができた。彼らはアンゲルに、武器補給などの協力を仰いでいたのだ。
「ロロ!」
俺の後ろから現れた弟の姿を見て、蜂起軍のリーダー、フランは涙を浮かべた。
「兄上!」
叫びロロが、その懐に飛び込む。
「ロロ、この馬鹿が! なぜリール代将のところでおとなしくしていなかったんだ!」
「僕は兄上のお役に立ちたい! 国王陛下のしもべでありたいんだ!」
「ラルフはロロの帰国に反対だった」
俺が口を添える。
「君は?」
「エドゥ・ヒュバート」
「外国人の君が、なぜ、王党派に?」
俺の姿かたちはウテナ人だ。フランが外国人だと思っても無理はない。
俺が応えようとする前に、兄の腰の辺りに抱き着いていたロロが顔を上げた。
「兄さん、違うよ! この人はユートパクスの亡命貴族だ。エドガルド・フェリシンっていう人なんだ」
「エドガルド・フェリシン? デギャン元帥の軍にいた人だろう? 彼なら死んだはずだ。エイクレ要塞の爆撃で」
案の定、フランは前世の俺を知っていた。アンゲルに渡り、それからエイクレ遠征に参加して死んだことも。
ロロの顔が真っ赤になった。
「そうだよ。フェリシン大佐は死んだ。でも、蘇ったんだよ! この人は、エドガルド・フェリシン大佐だ!」
「何を夢みたいなことを」
フランは取り合わない。
「夢じゃないよ! 本当だよ! この人は、フェリシン大佐だ!」
「死んだ者が蘇ることは決してないのだよ」
「それでも、その人は、フェリシン大佐なんだ!」
「かわいそうに、ロロ。だが、安心しろ。彼は神の御許に召されたのだから」
革命が否定した神に対し、王党派と蜂起軍の農民たちは、今まで通り、深い信仰を捧げている。もちろん俺も、死んだら神の御許に……いいや。フランは間違ってる。戦場でたくさんの人を殺した俺の行く先は地獄だろう。あるいは、戦死者の館、ヴァルハラか。
「でもフェリシン大佐だ! フェリシン大佐なんだよ、兄さん!」
うるさく俺の名を連呼するロロは、蜂起軍の幹部に連れられて指令室を出て行った。後には、俺とフランが残された。
弟と違い、フランは小柄な男だった。身長は、今の俺とさほど変わらない。はっきりした目鼻立ちをしているが、少し顔色が悪いように感じられた。
「弟が失礼した。以前、リール大佐から聞かされたのだが、ロロは、フェリシン大佐が大好きだったのだ。フェリシン大佐は、
「知らなかった……」
どちらかというと、煙ったく思われていた自信があった。塹壕を掘ったり、砦を築いたりするのを手伝わせ、こき使っていたからだ。もちろん、暇を見ては、工兵や砲兵としての手ほどきをしてはいたのだが。
「フェリシン大佐に対しては、一度もいたずらを仕掛けたことがなかったそうだ」
さらにフランが畳みかける。
確かに
フランが首を傾げた。
「ところで、その肌の白さと、青みを帯びたグレーの髪。君はウテナ人か?」
さっきも、外国人がなぜ、王党派軍に入るのかと問いかけていた。
「外国人は受け容れていないのか?」
質問に質問で返すと、フランは笑い出した。
「まさか。神と王を信奉する者なら、誰でも歓迎だ。この部隊には、かつて王宮へ詰めていたスーランド人兵も大勢いる」
「なら、よろしく頼む」
「身元を保証するために、新たに入隊する者には、2名の保証人が必要だ」
初耳だった。もちろん、当てはない。途方に暮れた。
フランがにやりと笑った。
「君には最高の保証人がついたな」
「え?」
「アップトック提督だよ」
俺を引き渡す時に、口頭で身元を保証してくれたのだという。
「もう一人必要だな?」
「それは、俺の弟で十分だ。ああ見えても、人を見る目は確かだ。彼は君によくなついているようだ」
胸が詰まった。
俺はロロを足手まといとしか思っていなかったのに。
「君の弟を連れてきてしまって悪かった。船に乗っていると、気が付かなかったのだ。せっかくアンゲルへ逃がした君の気持を無駄にしてしまった」
心から頭を下げると、フランはとんでもないといわんばかりに、顔の前で両手を振った。
「密航した弟が悪い。おまけに、船にとどまれというリール代将の命令にも逆らった。だが……自分の運命を選んだ弟を、俺は誇りに思っているよ」
打ち合わせの結果、フランは俺に、5人の農民兵をつけてくれた。指揮官としての能力が未知数だから、初めは少人数を預けるという。
もちろん、異存はない。今の俺は、エドゥ・ヒュバート、フランの下に入ったばかりだ。
与えられた居所に引き上げようとすると、ロロが仔羊を追いかけているのに出会った。
羊を抱き上げ、走ってきた。
「よかったな、ロロ。追い返されなくて」
からかうように言うと、口を尖らせた。
「兄上は僕のことをわかってくれてます!」
眩しいほどの兄弟愛だと思った。しかも、一方向ではない。双方向だ。フランも弟を誇りに思うと言っていたし、弟も兄を信じている。
羨ましい。
「それよりフェリシン大佐。なんで違う名前を名乗るんですか? エドゥなんて、変じゃないですか。あと、下の名前は覚えられません」
遠慮容赦なくど真ん中を突かれ、よろめきそうになった。エドゥ……俺にとっては、大切な呼び名だ。懐かしく優しい人のくれた名前……。
……だめだ。こんな子どもの前で、弱みを見せるな。
切なさを振り切り、肩をすくめた。
「ヒュバート、な。覚えておけ」
「無理です。言いにくい。エドガルド・フェリシンのほうが、ずっとかっこいい!」
俺はため息をついた。
「君がそう思ってくれるのは嬉しい。だが、転移とか転生とか言っても、普通は受け容れられないものだ。俺は、君の兄上はじめ、新しい戦友たちを混乱させたくないんだ」
「リオン号の人たちは信じましたよ!? あと、オシリス号の乗組員たちも」
それは、俺の記憶と彼らの記憶が、細部まで一致したからだ。けれど、フランとは初対面だ。蜂起軍の将校、兵士達とも。彼らと共通の思い出などない。
時間をかけて説明したが、やっぱりロロは不服そうだった。
「でも貴方はフェリシン大佐だ。俺たちの憧れの人だ」
憧れの人、という言葉がくすぐったかった。
「名前がどう変わろうと、俺が俺であることに変わりはないよ。改めて、新しい仲間とともに、国王陛下のために、そして仲間のために、せいいっぱい戦うことを誓う。だから、新しい呼び名にも慣れてくれ」
「でも……」
ロロはまだ、納得できないようだった。
◇
西の蜂起軍は、そもそもは農民の蜂起軍だった。革命政府による徴兵で、大切な働き手を奪われることに、叛意を翻したのだ。
また、信仰を禁じられたことも大きく作用した。
信心深い地方の農民たちは、日常のあらゆることを、宗教的な行事に沿って生活している。また、僧は人格者として一目置かれ、村人たちの揉め事を治め、困りごとの相談にも乗っていた。
ところが革命は神を否定し、次いで、宗教的な指導者たちの身分を剥奪、追放したから、住民たちは、心のよりどころを失った。
そもそも西部の蜂起軍は、神を信じる住民たちの信仰集団だった。
ところが、彼らには、戦闘のノウハウがない。人々の上に立てる、強力なリーダーもいない。
困り果てた彼らが頼ったのは、その地方の豪族、つまり貴族だった。革命前、自分達から税を取り立てていた貴族を、彼らは頼っていったのだ。
この税が、地方貴族の私腹を肥やす為に使われたばかりではなかったことの証左だろう。取り立てた税を、彼らは領民たちの為に使い、また僧と同じように領民の面倒も見てきた。
もちろん、中には悪辣な地方貴族もいただろう。その中で農民たちが選んだのは、自分たちの上に立つにふさわしい領主だったということだ。
先祖代々国王に仕えてきた地方貴族は、同時に、王室の騎士でもあった。こうして王党派は農民らの信仰集団と結びつき、ユートパクスの、特に西と南で大規模な蜂起が起きた。
フランの家は、地方貴族の家系だ。領民たちが頼ってきたのは彼の父だった。
最初、フランの父は、蜂起軍のリーダーになることを拒んだという。
革命軍に対し、到底勝ち目はないと判断したからだ。領民たちが多く犠牲になることも目に見えていた。
しかし、民の決意が固いことを知ると、ついに了承し、蜂起軍に身を投じた。もちろん、長男のフランも父に倣った。
思った通り革命軍の威力は凄まじく、本格的な戦闘が始まってすぐ、父は命を落とした。
跡を継いだのがフランだ。
革命軍の攻撃は熾烈で、西南部の蜂起軍は次々と殲滅させられていった。
フランにとって幸運だったことは、対岸がアンゲルだったことだ。
当時沿岸を警備していたのが、ラルフ・リールだった。人道の立場から、処刑間近の貴族を亡命させていた彼は、蜂起軍の危機を予測していた。リーダーであるフランの身を心配し、ラルフは彼にも亡命を勧めた。
……領民を捨てるわけにはいかない。
フランは国に残り、代わりに異母弟のロロを連れて行ってくれるよう、ラルフに頼んだというわけだ。
その後、ラルフはユートパクスに捕まり、シテ塔に監禁されてしまったが、アンゲルからの援助は続けられた。
海洋国家アンゲルの協力を得て、蜂起軍は細々と活動を続けていた。
彼らは、なんとか王をユートパクスに迎えたいと願っていた。
幸い、
王弟グザヴィは、革命が起きるといち早く亡命した。王と王妃が処刑されると、
革命政府……それは、オーディンの軍事クーデターで倒された。今や蜂起軍の敵は、オーディン・マークスとなっていた。
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