私が美人だから
草村 悠真
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子供の頃、白雪姫を母親に読んでもらった私の感想は「美人は損だね」であった。「私、美人になりたくない」と言うと、母は「私に似てるから大丈夫よ」と笑った。しかし人生というのは思い通りにならないもので、中学生の時点で私は自分で自分を美人であると言える程度には美人になっていた。母は「垢抜けるのがちょっと早いだけよ。高校生になればもっと綺麗な人がたくさんいるわ」と私の悩みは今だけのものだと笑い飛ばした。
数週間前の終業式の後に撮ったクラスの集合写真。男子が右側、女子が左側に固まっているけれど、左側の女子群をパッと見ると、自分の顔が一番に目に入る。それは自分自身だからとかではなく、誰が見てもきっと最初に私に注目するだろう。確かに、こうして他の女子生徒と顔を並べてみると、母の言う通り私が周りより垢抜けているだけなのかもしれない。ただ、それで私の憂鬱は少しも晴れることはなかった。
短かった春休みを終えての登校は、春休み前と何も変わらず足取りが重い。校舎前の掲示板で新しいクラスを確かめる。周囲で友人同士で同じクラスだの離れ離れだの盛り上がっている同級生を尻目に、私は一人でクラス確認を終えて一人で校舎に入る。三年生の下駄箱ゾーンで、クラスと出席番号から自分の靴入れを探す。場所が違うだけで配列は二年生の下駄箱と同じなのでそれはすぐに見つけられた。鞄から上履きを出して履き替える。そしてさっきまで履いていた白いスニーカーを掴んで靴箱を開けた。
靴箱の内壁に罵詈雑言が書き殴られていた。
「お疲れ様ね」そう呟いて、私はスニーカーを靴箱ではなく、上履きを入れていた巾着袋に入れて鞄の中へ。
靴箱を使えない学校生活は今年度も引き続きだ。しかし、新年度初日からよくやるものである。ある意味尊敬の念すら抱く。惜しくらむは、その熱意を勉強や部活に向けられていないことだ。私のクラスと出席番号を確認して、そこから私の靴箱を探して、罵詈雑言を書き込む。もちろんその姿を先生や他の生徒に見られては困る。そのためにはかなり早めに登校しなければならないはずだ。まったく、くだらないことに情熱を注いでいる青春無駄遣い女子がいるものである。
そう、誰だか知らないけれど、犯人は女子生徒だ。そもそも男子がこんな陰湿なことをするとは思えないし、私を良く思わない人は、今まで一人残らず女子だった。
男子は私に憧れを抱き、女子は私に嫉妬する。私が白雪姫なら、男子は私を助けてくれる小人、女子は私の存在が気に食わない魔女と言ったところだ。
王子様は——、まだ現れない。
毒林檎でも食べれば現れてくれるのかもしれないけれど、そんなリスクを負えるほど恋愛への熱はない。
溜息をついて、階段を上る。私のクラスの教室は最上階なので、二年生の時より余分に上らなければならなかった。三年生は受験のために少しでも勉強に時間が使えるよう、できるだけ校舎の出入り口から近い教室にした方が良いと思う。
さて、場所が違うだけでどこも同じ雰囲気の教室だったが、教室内の空気は異質だった。だいたい、新しいクラスを様子見しつつ、すでに関係性ができている生徒同士で固まっているような状態、つまり数人のグループが教室内に点在している状態がデフォルトだと思う。しかし私が入った教室では、生徒が押し出されるように壁際に寄っていた。まるで教室の中央に近づけない何かが存在しているかのように。いや、存在していたのだ。
教室の中央の席に座って頬杖をつき、どこか不適な笑みで黒板を睨むようにしている女子生徒が。
それが私と彼女——
多々良キイロとの出会いだった。
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