第3話 変わらない僕と変わった君
放課後、僕は優介の家にお邪魔することになった。
たった1日で気の合う友達となれた。
友達の家にお邪魔する、人生デビューとしては順調な滑り出しだ。
僕は、優介の家の前に着いて見ると、全てを思い出した。
僕は優介に過去に会ったことがあった、それもかなりの頻度で。
当時僕は中学2年生、僕の家にはよく幼稚園児が親の関係で預けられていた。僕はその幼稚園児をすごくすごくすごく可愛がっていた。
そして、その幼稚園児が無辜優介なのだ。
確か一度この家に迎えに行ったことがあった。
まさか優介くんとまた再会することになるなんて、実に11年ぶりだ。
ただ、あんな純粋そうな子が、金髪に染めてしまうなんてまったく想像つかない。
そしてお互い気づかないまま、友達になってしまうなんて。
僕は優介の家に上がった。
上がると通路から優介のお母さんらしき人が現れた。
「こんにちは、いらっしゃ……」
この人は、優介のお母さんで間違えないだろう。
少し顔が老けたように見えるがしっかり以前の面影を残していた。
優介のお母さんは僕のことを見ると驚いた顔をした。
それもそうだろう、9年前死んだはずの人間が姿、形がそっくりな人間が現れたのだから、これが普通の反応だろう。
だからと言って、正体を明かすつもりはない、なぜなら僕が新しい人生を始めたということもあるが、
死者蘇生の研究は政府による極秘任務のため優樹からできるだけ、他人に公言しないよう言われているからである。
なので僕は初対面の高校生を演じる。
「母さん、紹介するよ。彼は今日仲良くなった友達の川窪優磨くんだ」
「こんにちは」
優介の紹介に合わせて礼をした。
「優磨くんねよろしくね……」
優介のお母さんの言葉はどこかつっかかりを感じていた。
死者が蘇ることなんてあり得ない、と思っているのだろう。
「じゃあ俺ら部屋に行くから」
「はい、気をつけて……」
「気をつけて?」
そうして僕は優介の部屋に上がった。
人の部屋に入るなんて25年生きてて初めてのことだ少し緊張する。
「そんなに固まらないで、全然くつろいじゃって」
「そう?」
僕はその場に座った。
すると部屋の戸を叩く音がして聞こえてきた。優介のお母さんだ。
「優介〜、ジュースとお菓子持ってきたわよ〜」
そう言って優介のお母さんは扉を開けて、手に持ってきたおぼんを、机に置いた。
「ありがとう母さん…………って母さん、なんだよこの塩?」
優介の目線にはおぼんの上に、積み重ねられた塩が置かれていた。
「気にしないで〜!」
そう言って優介のお母さんはとっとと出て行った。
「なんだよこれ盛り塩かよ!」
確かにそれは盛り塩しているようにしか見えない。
(……まさか。優介のお母さん僕のこと盛り塩で成仏させようとしている⁈)
おっかねぇー! 生きてるから僕! 勝手に殺さないで!
「気にしない方がいいと思う……」
「それもそうだな」
僕はまた床に座った。そしてスナック菓子を頬張った。
「優磨ってさ、」
優介が僕に顔を近づけてきた。
「意外にもイケメンなんだよなー。中学の時、もてただろ」
「いや、僕は全然……」
中学の時ガチでモテなかった。髪も今よりもずっと長くて、メガネもかけていた。高校時代より酷かった。
あまりにも優介が顔を近づけてくるので、目を逸らした。
目を逸らすとそこには、棚があった。棚には、雪だるまと木が入っているスノードームがあった。スノードームの周りには子供用のおもちゃが添えられていた。
あのスノードームは紛れもない、僕がプレゼントしたものだ。確か、僕はあれを優介に誕生日にプレゼントした。
かなり前に渡したものなのにまだ大事に持ってくれていたなんて。
プレゼントした甲斐があった。
僕は立ち上がり棚へ向かって、スノードームを手に取った。
買った当初と比べ、少し色が落ちていた。
「あ、そのスノードームはな、昔よく面倒見てくれたお兄さんがくれたやつでな」
スノードームを眺めていた僕に優介が語りかけてきた。
「そういえば、お兄さんの名前も優磨だったっけな」
優介は懐かしそうな顔をしていた。目の前にその人がいるというのに。
「昔のことだから、顔とか全然覚えていないけど、カッコいい人だった気がする」
(かっこいい?……そいつ告白に緊張しすぎて死んだぞ!)
「また会いたいの?」
「できるならな、今なにしてんだろお兄さん」
(そいつは死んで、今お前の目の前にいるぞー!)
「また会えるといいね」
〜〜〜〜〜〜〜〜
「ただいま〜」
僕は優樹の家こと僕の家に帰宅した。
「おかえり、随分と遅かったな」
「ああ、友達の家に遊びに行ってて」
「へーー」
優樹は携帯をいじり、ソファに座っていた。
「まて、今なんて言った?」
「だから、友達の家に行ったって」
優樹はそれを今度はしっかりと聞くと、携帯をソファに押し付け、目を大きく開いた。
「優磨に、私以外の友達……⁈」
「そうだけど、」
「優磨今まで私以外に友達と言える友達できたことあったか?」
優磨は目を瞑り思い出そうとしていた。しかし優磨にはそのような思い出がなかった。
表情が強張り無理にでも思い出そうとした。
優磨は一旦マグカップに水を入れ、その水を飲み干した。そして深呼吸をした。
「いなぁい!」
その声は、部屋中に響き渡った。
「そうだろ、急に友達できるなんてどうした」
「いやまて、小学校の時、係の仕事で少し話した、たかしくんを入れれば……」
「そいつ友達じゃねーだろ、てかたかしって誰だよ!」
「うっ……」
優磨は走って風呂に逃げて行った。
シャワーで頭と体を洗い、湯船に浸かった。湯船は1日の体全体の疲れを癒やしてくれる。
毛先からは優樹の香りが漂って、湯気とともに流れていた。
「友達か……」
生前、僕には数少ないものだった。
優樹がいない時、僕は一人だった。
でも、友達はたくさんいれば良いというわけではないと思う。
その友達が僕のことをどれだけ大事に思ってくれているかが大切なんだと思う。
たくさんいれば僕は多分、一人一人を皆平等に大事にできない。
僕はそう自分に言い聞かせてずっと生きていた。
それでも友達はたくさん欲しい。今まで出来なかったことが広がるそんな気がした。
気づけば、身体はのぼせて、顔が赤くなり、頭がクラクラしていた。
風呂から出て、寝巻きに着替えると、またリビングのソファに行った。
優樹はまだ携帯をいじっていた。
「なにしてんの?」
優磨は優樹の隣に座り、携帯を覗いた。優樹は真剣な表情だった。
「優磨の容態を父へ経過報告してる」
「へーー」
僕は仮にも実験台、いつ失敗して、いつ死んでもおかしくはないってわけだ。
でも、僕はもう怖くない、両親の死や自分の死を、身をもって体感したからである。
「……お姉ちゃん」
面白半分で僕は優樹をお姉ちゃんと呼んでみた。
言っていることは間違っていない、僕は川窪家の一員で、優樹は歳上のお姉ちゃんなのだから。
「え……」
優樹の顔は、さっきまでの真剣な表情が崩れて、顔を赤くしていた。
僕はその表情に驚いた。
「やめろ……」
「え? なんて?」
「だから、その呼び方やめろ!」
予想外だった、いつも通り冷たく対応されると思いきや、こんな表情をするなんて。
「お姉ちゃん」
面白いのでまた繰り返す。
「やめろ、」
「お姉ちゃん」
「やめろ!」
「お姉ちゃん」
「やめろ〜!」
この日から、優磨はたまに優樹をお姉ちゃんと言うようになったのであった。
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