「人生2度目のラブコメ」 "死んで生き返ったら9年後の世界だったので2度目の青春送ります"
乙彼秋刀魚
第1話 死んでも愛す
「今日こそ柏葉さんに告るぞ!」
僕には好きな人がいる、その人の名前は柏葉優里(かしわばゆうり)という。
柏葉さんは初恋の相手。
僕は柏葉さんに一目惚れしてしまった。
あれはそう、今年の夏の放課後。
僕はいつものように放課後の帰り道を一人ふらふら歩いていた。
ある時、僕は足下にあった段差に気づかず足をつまずかせ、転んでしまった。
柏葉さんとの出会いはそこからだった。
柏葉さんは転んだ僕にすぐに駆け寄り、血が流れた膝をハンカチで塞いでくれた。柏葉さんは必死な顔だった。
僕はそんな柏葉さんの姿に惚れてしまったのだ。
実際、柏葉さんは可愛い。これは僕だけが思っていることじゃない。柏葉はクラスの男子からも人気で、密かにファンクラブができているほどだ。
正直、そんな柏葉さんをなんの取り柄のない僕なんかが手に入れられる訳がない。
でもそんな僕が告白することに価値がある。僕のような奴が高嶺の花を手に入れる、まるで下剋上のようでロマンがある。
「そんなわけで、僕は今日こそ柏葉さんに告るぞ! 優樹!」
「いや、どんな訳だよ」
僕のが今話している彼女の名前は川窪優樹(かわくぼゆうき)僕の親友だ。
優樹という名前だが彼女は女子だ。
優樹は女子バスケ部のエースで、スポーツ万能、それに男子よりも足が速いこともあるほど。
彼女はどちらというと女子生徒から人気で、その中性的な見た目でクールな感じで惹かれる女子が多いんだとか。
「あっそ、」
「おう! お前の応援のお陰でなんかいける気がしてきた」
「応援してねーし」
優樹はつまらなそうな顔をして、ほおづえをついて窓外の景色を見つめていた。
「どうしたんだ、お前?」
おっと、そろそろ昼休みが終わってしまう。
「なんでもねぇーし……」
「そうか、じゃあ俺行ってくる」
「…………」
僕は教室を出た。
今日こそ思いを伝える! 僕は今までずっと、思いを伝えようと思っていた。しかしいつも恥ずかしくて一歩前へ進められなかった。
小学校低学年が横断歩道を渡るかのように左右を確認した。
そして柏葉さんの下駄箱を開けると、手が震え出した。手汗もびっしょり出ていた。
僕はポケットに入っていた手紙を柏葉さんの下駄箱の中に入れた。
しかしもう一度手紙を取り出した。そして手紙の内容を読み返した。
_________
柏葉さんへ
伝えたいことがあります。
放課後、体育館裏に来てください。
昼山優磨(ひるやまゆうま)
_________
この手紙を書いたのも数ヶ月前だ。
僕はまた下駄箱に入れた。
僕は下駄箱の前で一礼した。
(告白成功しますように!)
放課後が来て欲しいようで来て欲しくない。
授業中、告白のことしか考えられず、先生に当てられた時何も答えられなくて、生徒たちみんなに笑われたうえ、先生に叱られた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「起立、気をつけ、れい」
「「「さようなら」」」
クラス委員の合図で帰りの挨拶をした。
クラスの生徒の中には、お辞儀を適当にする人、挨拶をしない人、やたらと大きな声で挨拶する人、などのさまざまな生徒がいた。
その生徒もぞろぞろ帰って行った。
僕も身体がカチカチになりながら教室の外に出た。そして体育館裏へ向かった。
気づいた時には体育館裏に着いていた。ゆっくり歩いていたつもりなのだが、時間が経つのはあっという間だ。
辺りはしんと冷えている。
壁に寄りかかり、身を縮めた。
手に息を吹きかける。
(やっぱり来ないのかなぁ。こんな僕だしな……)
膝に顔を埋める。
その時だった、トコトコと足音が聞こえてきた。
足音の方向をチラリと見てみると。
そこには黒髪ボブの美少女が立っていた。
「あの、昼山くん……?」
美少女が僕に話しかけてきた。
優磨は驚いて立ち上がってしまった。
「柏葉さん……! きてくれたんだ」
慌てていて、声が震え出す。
心臓の鼓動がいきなり激しくなる。
「それで、伝えたいことって……?」
柏葉さんの白い息が漏れる。
「え、えっと……」
身体をピシッとさせた。
「ぼ、僕は柏葉さんのことが……好きです!」
出せるだけの勇気を振り絞って、声を振るわせて吐き出した。
鼓動がさっきよりも激しくなっていく。
「昼山くんのことは……私………………」
柏葉さんが口を開けた。鼓動が、更に更に激しくなっていく。
その時、
僕の身体は空転して、地面に倒れ込んだ。
意識が遠のいて行く…………
〜〜〜〜〜〜〜〜
僕は目を開けて起き上がった。
僕は何かのケースの中に入っていた。
不自然にも身体が重い。
ここはどこなんだ? 薄暗い空間を見渡した。
目を細めて見る。
身体を見てみると、僕は裸だった。正確に言うと上半身裸だ。
それになぜか胸に縫い後があった。
なんかの手術をしたのか。なにも覚えていない。
身体全身が冷たい。いや、冷たいどころの話などではない。身体が解凍したての冷凍食品のようだ。動きがカクカクする。
そういえば、告白はどうなったのか? あれからの記憶がない。
成功したのだろうか、それとも振られてしまったのだろうか。
いいところで忘れてしまうなんて、自分を悔やんだ。
失敗しようが成功しようが思いを伝えきったのだ、僕はもうそれで満足だ。
もちろん成功したらこれからの人生薔薇色になるのだろう。
まぁいいや、これからが楽しみだ。
「起きたか……久しぶりと言った方がいいか」
懐かしいようで一番身近な声が聞こえてきた。
「優樹か……?」
確かに優樹だった。しかしいつもの優樹より大人びた顔をしていた。
「そうだ、優樹だ」
いつもの冷静な口調で言った。
「そういえばお前、昨日僕がどうだったか知っているか?」
「優磨落ち着いて聞いてくれ」
優樹は深刻な表情をして言った。
そんな表情をするってことは、やっぱり僕は振られてしまったのか。
「お前は、一度死んだ」
「え……?」
し、死んだんだ⁈ どういうことだ。
優樹の冗談なのか、ブラックジョークにも程がある。全く笑えない。
「優磨のいう昨日は昨日じゃない、正確には"9年前"だ」
「な、なんの冗談だよ……」
しかし優樹は表情は崩さない。話は嘘じゃないようだ。
僕はケースから飛び降りた。着地してすぐ立ち上がることが出来なかった。
僕は匍匐前進をしながら優樹の方向に向かった。
そしてふらふらしながら立ち上がり、優樹の肩を掴んだ。
「どういうことなんだ、優樹!」
「ひいや、ちょ、と」
僕が肩を掴むなり優樹は、顔を赤くして手で顔を覆った。
「どうしたんだ?」
「どうもこうも自分がどんな格好かわかっているのか」
僕はパンツ一丁だった。
自分が恥ずかしいことを、していたことに気づいた。
「と、とにかくこれを着ろ!」
優樹は机の上に畳んであったTシャツとズボンを取り出して、僕へ渡してきた。
僕はそれに急いで着替えた。
着替え終えると、優樹は咳払いをして仕切り直した。
「ゴホン、それでな優磨。お前は9年前、柏葉さんに告白した時、心臓発作で死んだんだ」
「告白中? だとしたら、僕の死に方めっちゃダサいじゃん」
要するに、告白してドキドキしすぎて、心臓発作で死んだってことだろ。
それはもう、伝えきれていないということじゃないか。なにに満足していたんだ僕は……。
「ああ、めっちゃダサかった。戸惑いながらもやっと言えたというのに、優磨は…………少し同情するよ」
「そうそう、頑張って言ったんだ。ってなんでお前がそれを知っているんだよ」
「ギク!」
「まさか、優樹。僕の告白見てたのか?」
「見てないし……」
「絶対みただろ!」
やられた。優樹がまさか僕の告白を見ていたなんて。
あの時あんな興味無さそうだったのに、見るぐらいなら協力してくれよな。
これも9年前か、昔の記憶らしいが今も鮮明に覚えている。
一年もない僅かな輝かしい高校時代の記憶。それも9年前、今は昔の話し。
叶うならもう一度、青春を送りたい。まだ彼女だって出来たこともない。
僕は割とイケメンな方だと言われる。でも見た目に反して運動が苦手で、勉強も得意じゃない。
そのため寄りつく女の子が少ないのだ。
「それは置いといて、」
(話し逸らしやがった)
「優磨が死んでからの話しをしよう」
「優磨は倒れてから、病院に運ばれて死亡が確認された。優磨の両親は悲しんでいたよ。その時、私の父が優磨の両親にある提案をしたんだ。私の父は特殊な仕事をしていてな、死者蘇生についての研究をしているんだ。そしてその提案とは、僕を生き返らせる可能性を作る代わりに、実験台にさせてくれないかと。それには優磨の両親は了承した。それから、優磨を生き返らせるための研究を始めた。優磨の心臓は優磨のじゃない。数年前、君の心臓のドナーが見つかった。それから優磨の細胞が息を吹き返し始めた。それから今日に至るって訳だ」
それで9年か……それまで研究を続けてきてくれた優樹のお父さんには感謝しても仕切れない。
この傷は心臓移植によるものなのか。ドナーの方の親族にも頭を下げに行かなくては。
僕が生きていられるのも沢山の人のお陰であるということを実感した。
「それで、母さんと父さんは?」
優磨は深刻な表情をした。
「一年前、優磨の復活間近にして、二人とも亡くなったよ」
「あ………………」
死んだのか……。
あり得る話しだった、二人は熟年結婚だった訳だし、僕が死ぬ前までは70歳近くだった訳だし。
ちょっと日本人平均死亡年齢より早く死んでしまっただけだろう。
悔しい、最期に顔を見たかった。
「優磨はこれからどうするのかというと、私の家族になるんだ」
「昼山優磨という戸籍はもう死んだ、これからは川窪優磨という新しい優磨になるんだ」
「いいのか、そんなことさせてもらって」
「ああ、別に誰も気にしていない」
親友とはいえなにから何までやらせてもらいすぎだ。優樹や優樹の家族に申し訳ない。
「あと明日、藍才高校の入学試験受けてもらうから」
「え……?」
藍才高校とは僕の僅かな青春を過ごした高校だ。偏差値が高くて難関校だ。
僕は中学時代、猛勉強の末ようやく受かった高校だ。
僕はその高校にまた行かせてくれるのか、優樹は。なんて太っ腹なんだ。
「いいよ、申し訳ないし。それに学費だって……」
「いやまぁ。あそこ国立だし、そんな学費掛からないから大丈夫だよ」
「それにお前はまだ青春したりないだろ」
「で、でも」
「いいよ、気にすんな」
そんな訳で僕はまた高校に入り直すことになった。
「それから、うち案内するから、着いてきて」
僕は優樹に言われるがままついて行った。
優樹の家は父親と二人暮らし、そのうえ父親は滅多に帰って来ない。
そのため優樹は実質一人暮らしをしているらしい。
僕は優樹の家の空き部屋に入れてくれるらしい。
僕は優樹の家の部屋に住むことになった。
優磨はあらかじめ用意されていたベッドに横たわった。
いまだにこの事実を受け入れられない。僕だけが若いまま、他のみんなはもう成人して立派に働いていること。僕は一度死んだこと。
一度死んだということは、僕の人生は二度目になる。
一度目の人生を忘れていいのか、それとも忘れた方がいいのか。
きっと忘れたら楽になるのだろう、でも忘れられる訳ない、16年の短い人生でも家族の思い出、友達との思い出、失敗したこと、嬉しかったこと、そんな思い出が詰まっているのだ。
そんなことを今更、忘れるなんてできるわけがない。
そんなことを思うと、自然と涙が溢れ落ちてきた。
これからまた、
"新しい人生が始まるのだ"
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