第356話(終・第九章第36話) 最高のチーム4

「……


『重要なお知らせ(2月6日:ゲーム内③0時‐現実12時)


 平素より「ギフテッド・オンライン」をご利用いただきまして

 誠にありがとうございます。


 この度、「ギフテッド・オンライン」は誠に勝手ながら、



――今年四月十二日(木)12:00をもちまして

  サービスを終了させていただくこととなりました。



 日頃ご愛顧いただいております皆様には深く御礼申し上げますとともに、

 突然のお知らせとなりましたことを、運営チーム一同、深くお詫び申し上げます。


 昨年四月十三日(木)からサービスを開始して以降、

 よりよいサービスを提供できるよう日々努力してまいりましたが、

 今後、皆様にご満足いただけるサービスの提供が困難であるという

 結論に至りましたため、サービスの終了を決定いたしました。



 サービス終了までのスケジュールですが、

 今年三月十五日(木)に


 最後のイベント・NPCキャリーイベント(ギルド対抗)を開催いたします。

(期間は二十一日まで)


 第一層にいるNPCを第十六層まで送り届けるイベントとなっており、

 これまでのイベントの全ての要素を詰め込んだイベントとなっています。


 上位入賞したギルドの皆様には、

 「ギフテッド・オンライン設定資料集及びサウンドトラック」を

 お送りさせていただきます。

 また、イベント参加特典として「飛翔のマント」をプレゼントいたします。

 空から眺める「ギフテッド・オンライン」の世界をお楽しみいただけます。

 是非ともご参加ください。


 そして、三月二十一日(水)、最後のイベント終了に伴い、

 ゲーム内通貨である「ギオ(有料)」の販売を終了させていただきます。

 現在の法律に則り、未使用の「ギオ」に相当する金額は手続きによって

 返金いたしますが、使用されました「ギオ」に関しましては返金いたし兼ねます。

 ご了承いただきますようよろしくお願い申し上げます。



 製品版でプレイされているユーザー様へ。

 サービスが終了したあとでも

 「ギフテッド・オンライン」をプレイすることが可能です。

 ただし、新たなエリアの追加やイベントの開催は今後一切ございません。

 課金アイテムの購入、他ユーザーとの交流も行えなくなります。

 ご理解いただきますようお願い申し上げます。



 最後になりますが、

 これまで「ギフテッド・オンライン」をご利用いただき

 誠にありがとうございました。

 このようなご案内になりましたことを重ねてお詫び申し上げます。



「ギフテッド・オンライン運営チーム一同」』


 ……」


「「「……」」」

「「「「……」」」」

「……」

「「「……」」」


 「運営からのお知らせ」を読み上げるライザの声だけが静かな空間に響いていました。

 この日はライザの他に、私、マーチちゃん、クロ姉、サクラさん、ススキさん、パインくん、キリさん、コエちゃん、シニガミさん、アンジェさん、ベリアさんとみんな揃っていてそれなりの人数がその場にはいて、彼女の声量は決して大きくはなかったのに、です。

 みんな、黙ってしまっていて何も言えませんでした。

 いきなりのこと過ぎて……。



――『サービス終了』



 サポートやアップデートが行われなくなること……。

 このゲームには「DtoD」を用いたブラウザ版のようなものもあり、それはプログラムや処理を行うためのサーバーが閉鎖されることによってゲームを起動すること自体が不可能になるようです。

 オンラインゲームがサービスを維持する絶対的な条件は、多くのユーザーがプレイすること、と聞きます。

 そのため、プレイしてくれるユーザーが減ったことが今回のこの「お知らせ」をすることになった原因だと考えられます。

 ……「運営」がユーザーを無視して難易度の高いダンジョンやイベントをつくりすぎたのが問題だったのでしょう。


 私は製品版でプレイしていたので、ゲーム自体はサービス終了後でもやることは可能らしいのですが、できることはかなり減ってしまうみたいです。

 特にオンラインでできていたことができなくなるそう……。

 簡単に言えば、MMOではなくなって一人で遊ぶ用のゲームに変わってしまう、とか……。

 ……要するに。



――他のプレイヤーとの交流ができなくなってしまう、とのこと。



「……」


 言葉が出てきません。

 キンジンさんやボネさん、クレムさんにロワさん、真夜中の蜘蛛さんと横切る黒猫さんと桜の木の下さん、ウラノスさん、ネプさん、ハーデスさん、GPさん、オカピさん、ピグミーヒッポさん、ボンゴさん、あと、ハーツさん、クローバーさん、ダイヤさん……彼ら彼女らと最近よくお話ししていて折角親しくなれたと思っていたのに……。

 最悪な関係だったミックスやワワワ、シーヴァですが、最近では私たちのために働いてくれていたりして、もう二度と会えないとなると思うところがなくはありません……。

 それに何より――



――マーチちゃんと会えなくなってしまうという事実が嫌でした。



 ……私は現実のマーチちゃんを何も知りません。

 どこに住んでいるのかも、連絡先も……。

 このゲームだけが彼女との唯一の繋がりだったのです。

 私が受けた衝撃はすさまじいものでした。

 まるで、この世が崩壊して終わってしまうかのような、そんな感覚を味わわされました。


(実はサービス終了に伴う大きな影響がもう一つあったのですが、この時の私は気づいていませんでした)

(他のプレイヤーさんと会えなくなる、ということは、私が使役していたり所持していたりするわけではないものとは――)


 ……こうしてはいられません!

 私は急いでマーチちゃんに連絡先を聞こうとしました。

 ですが、寸前でとどまります。

 思ったから――



――今の、何もできていない状態でそれをするのは違うんじゃないか? って。



 私はマーチちゃんの連絡先を聞いたら会いにいこうとしてしまう気がします。

 自由に動くことができない彼女の元へ……。

 そうなった場合、私は彼女を悲しませてしまう、そんな予感がしました。

 彼女が今のような状態になった主原因は彼女の妹にあります。

 いいスキルをほしがって、でも、手に入れられなくて、癇癪を起こしてマーチちゃんがゲームをしている最中にヘルギアを取ってしまったのだから。

(絶対にそうなるわけではないのに、不幸な確率を引いてしまった、ということもあるのですが……)

 ……でも。

 もしも、マーチちゃんが私と関わっていなかったら……。

 彼女は「マーチちゃん」で続けようとは思わなくて、スキルもアバターも諦められて、彼女の妹が癇癪を起すこともなかった――そう、考えられなくもないのです。

 彼女はさとい子ですから、このことに思い至っていても不思議ではないです。

 この子の性格なら、自分が動けない状態で私に会った時、どういう反応を示すか……。

 きっと、申し訳なさそうにする――



――私に、私が悪いと感じさせてしまうことに対して。



 それは私の望むことではありません。


 私は、私にできることをやってからマーチちゃんに連絡先を聞いて会いに行くことに決めました。

 「本来の君」に会う――それを目標に。



 この日から約一カ月後。

 私はサクラさんたちを頼って、彼女たちのお父さん、吾妻製薬の社長・吾妻柳燕アガツマ・リュウエンさんに会わせてもらえることになりました。

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