第205話(第五章特別編2) 雑談配信

~~~~ とある配信者のライブ ~~~~



「やあ、ミタマちゃんたち。今日も刈り取られに来てくれてありがとう!」


 真っ白な世界の中に一人の人物が立って、スマホのような画面に向けて話し掛けている。

 その人物の名前はシニガミ。

 「ギフテッド・オンライン」というゲームにおける最強のプレイヤーにして、ゲーム内配信者として活動している人物である。


“シニガミ様!”

“待ってました!”

“配信お疲れさまです!”

“刈り取ってください!”


 シニガミが見ている画面にはそのようなコメントが流れていっている。

 どんどん画面がスクロールされていっていて、かなり多くの人がシニガミの配信を見ているということがそこには表れていた。


 そんなコメント欄の中に、次の言葉が流れていったのをシニガミは捉えた。


“今日は何をするんですか?”


「うーん、そうだねぇ……。今日は雑談でもしようかと思っているんだけど……」


 こうシニガミが提案すると、


“……えっ”

“ちょっと待って。早まらないで”

“雑談はまたの機会でいいんじゃないですか?”

“そうそう! それより無双配信が見たいです!”


 画面の向こう側の人たちが一斉に慌て始めた。

 よほどシニガミに雑談をされたくないと見える。

 ただ何故、雑談配信が不評なのかわからなかったシニガミは不満顔だ。


「ちょっと。なんでそんなあからさまにやめさせようとするのさ? 僕のトーク、つまらない?」


“い、いえ、そういうわけではなく……”

“シニガミ様の雑談ってシニガミ様自身の話にならないじゃない?”

“シニガミ様の配信なのに……”

“シニガミ様の楽しそうなお顔を拝見できるのはいいのですが……”

“……あの話、ばっかになるものね”


 どうやら視聴者たちはシニガミの話すことが、ある一つの項目だけになる、ことが気になっている(というか気に入らない)らしい。

 シニガミは拗ねた顔になる。


「そんなこと言ったって、イベントは終わっちゃってるし、もう第八層のエリアボスも倒しちゃったし……。配信でやることもうなくない?」


“拗ねたお顔も素敵”

“私はあの焦ったお顔が好きだった”

“それって、イベントの結果発表の時の?”

“そう。「-50ポイント」――はぁ!? の時の”

“あれはお宝映像”

“そういえばシニガミ様って、「決闘」をして『バイロケーション』のスキルを手に入れたんでしたっけ?”

“分身スキル”

“そう。それで全方位から攻めてくるリスセフに対応していたのよね”

“もうお一人で軍隊レベルの強さ”

“シニガミ様が増えた。それだけで私は満足”

“シニガミ様にかかれば第八層のエリアボス戦も一瞬でしたものね”

“流石シニガミ様”

“流石の『黒粒子化』”

“シニガミ様最強”

“両方とも配信してくれてありがとう”


 シニガミの拗ね顔で盛り上がるコメント欄。

 シニガミの視聴者(通称ミタマちゃん)たちは今日も変わらずシニガミのことが好きである。


「……焦った顔? 『-50ポイント――はぁ!? の時の』……って! いや、そりゃそうなるでしょ! こっちは完璧に守り切った、って思ってたのに『-50』もされてたら! なんでも村人NPCが一人外に出ちゃっててその人を守れなかった、って話みたいだけど……でも、そう考えると『ラッキーファインド』ってすごいよね? 『ファーマー』が所属してる――」


“まずい! 始まったわ!”

“も、戻ってきて! シニガミ様ー!”

“私、シニガミ様自身のお話が聞きたい!”

“ああ……。シニガミ様のチャンネルが『ファーマー』の情報チャンネルに……”


 イベントの話が出てきたため、その時のことを思い出したシニガミ。

 自分は「-50」させられてしまっていたというのに、対する「ファーマー」は知らず知らずのうちに「-50」されるというもはや嫌がらせに近い「運営」の仕打ちを回避していた。

 ギルドイベントを「0ポイント」で優勝した「ファーマー」が所属する「ラッキーファインド」に、シニガミの抱いていた興味はより一層強くなっていた。


「先週の木曜日にあったギフテッドライブで見たんだけど、すごい戦いをしてたんだよ!

 あそこの子はみんな強いよね!

 八人のギルドみたいなんだけど、とにかくすごかった!


 侍みたいな格好をした人の居合は速くてカッコよかったし、

 鑑定士の格好をした子は素早すぎて画面にほとんど映ってなかったよね……!

 鍛冶師の子は魔法が使えるみたいでリスセフたちを吹き飛ばしてたし、

 忍者みたいな格好をした子は打ち漏らしたのを上手く対処してたと思う!

 商人の子、見たことない武器持ってたけど、扱いが上手かったし、

 槍使いの人、なんか爆発してなかった!?

 すごい威力みたいだったけど、そう考えると神官の子の障壁はすごい頑丈なんだろうね!


 ああいう神官みたいな子がパーティにいたら、安心して探索ができるんじゃないかな!

 可愛いのもポイント高いんじゃない?

 一緒にいて癒やされそうだし!


 でも、一番はやっぱり薬師の子かな!

 あの子が村人NPCを助けてたし、僕のところには来なかったヤバそうなモンスターを倒してたからね!

 早すぎてどうやって倒してたのかはよく見えなかったんだけど……。

 あの子、変なプディン連れてたよね!?

 見たことのない色してたなぁ……。

 スキルでつくり出した、とか?

 うーん、気になるなぁ!」


 「ファーマー」に関連する話になって急に饒舌になるシニガミ。

 楽しそうに口を動かしているシニガミとは対照的にミタマちゃんたちは画面の中で阿鼻叫喚していた。


“ああああああああ、始まっちゃったああああああああ!”

“シニガミ様……私たちのシニガミ様がああああああああ!”

“嬉しそうに話してるお顔は素敵だけどおおおおおおおお!”

“私たち以外の女の子のことでそういう顔をされるのは嫌ああああああああ!”


 スマホのような画面の中がこんなことになっていることに、目を閉じながら「ファーマー」について熱く語っているシニガミは気づかない。


「これでイベント三回連続で優勝だよ!? すごいよね! みんなもそう思わない? 思うでしょ!? どんなスキルを取ったらそんなことが可能なのかな!? こうなってくると初回イベントの彼女たちの動きも気になってくるよね! あと、あの薬師の子、強いと思うんだけど、なんで前回のイベントではトップテンに入っていなかったんだろう? 参加していなかったのかなぁ……。今回のイベントでもあの子をあんまり捉えられていなかったから、どれくらい強いのか測るのも難しいんだよね……。あっ、それで配信外でね、僕、一回彼女たちと戦おうとしたことがあるんだけどね――」


 気分よく話していたシニガミだったが、その時こんなコメントが流れてくる。

 そのたった一つのコメントをシニガミは見逃さなかった。



――“「ファーマー」の話なんかしないで”



 これを見たシニガミは一瞬だけ真顔になる。


“あ……”

“やば”


 それからつくり笑顔になって。


「このコメントは削除しまーす。発言した人もブロックするね」


“召された……”

“ひぇっ”


 シニガミのこの対応に、コメント欄は静かになる。

 そんななか、「ファーマー」について喋るシニガミの声だけが響いていた。



 最強のプレイヤー・シニガミ。

 実は、「ファーマー」の熱狂的なファンであった。

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