第43話(第二章第1話) 振り返ってみる
「……」
「……」
沈黙。
ただひたすらに指を動かす私とマーチちゃん。
私たちの前にはスマホの画面のようなものが表示されていて、そこには問題が書かれていました。
今はゴールデンウィーク。
私たちは「ギフテッド・オンライン」というゲームの中でこの連休中の宿題をやっていました。
宿題のデータが入っている学校のタブレットをパソコンと連結させることで、この世界に宿題を持っていくことができるのです。
この世界は現実の四倍の速度で時間が流れていますが、体感は現実と同じ。
ですので、現実でやるより四倍の速さで宿題を進められるということになります。
終わった宿題はメールをする要領でタブレットに送れば、ちゃんとやったことになっていました。
技術の進歩ってすごいですね!
「うーん! 終わったぁ!」
私は、ここで宿題を終わらせればゴールデンウィークを満喫できるのでは!? って思ったらすごく捗って……。
気づいたらゲームの世界で十五時間ほど没頭してました。
そのおかげで宿題は片づけられたのですが、私よりも八時間ほど早く宿題が終わっていたマーチちゃんをちょっと退屈そうにさせちゃってました。
「ふ、ふぁああ……。お疲れさまなの、お姉さん」
「あ……。ごめんね、マーチちゃん。ちょっとスイッチが入っちゃって……。今何時かな?」
「②の午後十一時三十四分だから……現実だと午前十一時五十分くらいなの」
「もうそんな時間!? ほ、ほんとにごめんね……?」
欠伸を我慢できなかったマーチちゃん。
けれど、宿題が終わったことに対して労いの言葉をかけてくれました。
そんなマーチちゃんに時刻を確認すると、もうお昼近くとのこと。
私は申し訳なさでいっぱいになりました。
マーチちゃんは、マーチちゃんの妹によってゲームをやっている最中にヘルギア(現実と夢のようなゲームの世界を繋げるヘルメット型のゲーム機)を無理やり外されて下半身不随になってしまっていました。
そのため、彼女にはリハビリが必要で、それが午後からある、と聞いていたのです。
マーチちゃんは私との楽しい思い出があればつらいリハビリも乗り越えられる、と言ってくれていたので、彼女と一緒にいる時を宿題をする時間に当てない方がよかったな、と反省させられました。
しゅんとしている私にマーチちゃんが言ってきます。
「いいの。ボクも宿題、やらなきゃだったし。学校に行けるようになった時、置いて行かれるのはヤだから」
「マーチちゃん……っ」
私のことを気遣ってくれるマーチちゃん。
本当にいい子です。
なんでこんな子が、あんな目に遭わなければいけないのでしょうか……。
神様はひどいと思います。
マーチちゃんが下半身不随になった二日前の四月二十九日の夜。
お仕事から帰ってきたマーチちゃんのお母さんに自室の床で倒れているところを発見されたマーチちゃんは病院に運ばれたそうです。
ご両親は忙しかったらしく家にいなくて、その日は偶々スマホが勉強机の上に置いてあって足が動かせなくなったマーチちゃんでは連絡ができなくてその時間になった、とか。
マーチちゃんの妹は、あれから友だちの家に遊びに行っていた、ってマーチちゃんが言ってましたね……。
そして、お医者さんに下半身が動かせなくなっていることを知らさせたマーチちゃんはショックを受けました。
このことに対して彼女以上に絶望したのはマーチちゃんのお父さんとお母さんだったみたいです。
マーチちゃんはご両親のその様子を見ていられなくて、気丈に振る舞った、と聞きました。
マーチちゃんをこんな目に遭わせた『
ご両親は『DtoD』を捨てようとしたようです。
ですが、それをマーチちゃんが必死に止めたとのことです。
――「正しく使えば大丈夫なの! 足が動く感覚を体験できるから、リハビリにも有効なはずなの! それに、それは大切な友だちと繋がってるものだから、お願い、捨てないで……っ!」
と。
……これ、伝えられた時、すごく嬉しかったんですけど、ちょっとこそばゆかったですね。
マーチちゃんったら、平然と言うんだもん……。
と、兎に角……!
それで、マーチちゃんのご両親はマーチちゃんの熱意に押されて、病院の許可も出たため病室までパソコンとヘルギアを持ってきてもらって、またこうして「ギフテッド・オンライン」の世界で私はマーチちゃんに会えた、というわけです。
よかった、会えて本当によかったよ……!
本当だったら、今日はマーチちゃんと楽しむために冒険をしようと思ってたんだけど、そんな彼女から、連休の宿題を先に終わらせたい、という要請があって……。
私も残しておいてあとでわたわたしたくなかったから、宿のお部屋を取ってお勉強会が行われた、って感じなんだけど、よかったのかなぁ……?
冒険しなくて……。
マーチちゃんの宿題が終わった八時間前に、私も切り上げるべきだったのでは……?
……ううん!
これはあとでいっぱい楽しむための布石です!
そう思うことにしておきましょう!
それから私たちは少しお話しすることにしました。
私は聞きたかったことを聞いてみることにします。
「……それで? あれから
「あー……。たぶん、大丈夫だと思うの。もう『ギフテッド・オンライン』には興味がないみたいで、あれから毎日外に遊びに行ってるってお母さんが言ってたの。なんでも、『ヤバいやつがいるからもうやりたくない』とか……」
「へぇ……」
マーチちゃんの妹・弥生の動向を。
彼女は
ですが、私のこれは杞憂だったみたいです。
弥生はこのゲームで『ヤバいやつ』に遭遇してしまったらしいのです。
だからもうやらない、と。
これで、マーチちゃんは狙われなくなったと考えていいのでしょうか?
しかし、彼女も大概『ヤバいやつ』な気がしますが、そんな彼女に『ヤバいやつ』と言わしめたプレイヤー……。
いったい誰なんでしょうか?
そんな人に会わないように気をつけたいと思います。
マーチちゃんに迫っていた危機が一応は去ったことを受けて、話が少しそれ始めます。
「それにしても、二層のダンジョンが八階まであったのはびっくりなの。ベータテストは一層だけだったから。……で、お姉さん? あれはないと思うの。ボス部屋に入ってから猛毒草がない! って気づくのは。おかげでボクが猛毒薬を増やしてビッグ緑プディン五体倒すことになったの。気を付けてほしいの」
「あ、あはは……。善処します」
「弥生も一回
「……魔石、回復草、それにビン? それってもしかして、これのこと?」
「……なんでお姉さんが持ってるの? たぶんそれなの。薬師でもない限りプディンなんて捕まえないから。不思議なこともあるものなの……」
「……」
大変なことが発覚しました。
私がボス部屋で拾ったの、弥生のものみたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます