第14話 置き土産

 安全地帯セーフティエリアに入れないこの状況で、私はカラスグモさんに目をつけられてしまいました。

 逃げ回ります。

 安全地帯セーフティエリアの入口からそんなに離れないよう気をつけながら。


「は、早く! 早くぅっ!」


 すぐに開くと思ってこの対処法を選択したのですが、私の見積もりはどうやら甘かったみたいです。

 五分くらい閉まったままでした。

 その間移動することを余儀なくされていたので、私を狙うカラスグモさんたちが増えるのなんの。

 たぶん、今までの最高記録を叩き出したのではないでしょうか?

 二十体ほどが私の後ろをつけてきていたと思います。



「ひ、開いた!」


 止まらず走り続けて、安全地帯セーフティエリアの入口の茨が取り除かれる瞬間を目に捉えます。

 私はその中へと駆け込みました!

 それはもう必死に……!

 私が安全地帯に逃げ込むと追っていた彼らは私のことを忌々しげに見るような表情をしてから去っていきました。

 これ、体感では三十分くらい追われていた感覚だったのですが、ゲーム内で経過していたのはたったの五分だったんですよね……。


 ちなみにこのゲーム、ステータスなどのメニュー画面を見る際に時間も確認できるようになっています。

 今の時間は四月二十二日②十二時四分です。

 このゲームには日付の概念もあって、その日付は現実世界と同じになるように設定されているそうです。

 この世界の時間の流れる速度は現実の四倍ですが、四日間同じ日が続くことで現実の日付とずれないようにしているみたいです。

 日付の後ろにある①から④の表記がその日の何日目かを表しているとのことです。

 これはさっき、ログインする前にちょっとネットで調べました。

 現実に戻ってわざわざ時計を確認しなくても現実の時間を把握する方法が知りたかったので。

 {(日付後ろの表記)-1}×6+(ゲーム内の現在の時刻)÷4 で求められるようです。

 この計算式に当て嵌めると、現在の現実の時間は九時一分になっていると思われます。



 膝に手をついて息を整え終えた私が顔を上げた時でした。


「はぁ、はぁ、はぁ……。あれ? なんか変じゃない?」


 違和感に気づきます。

 一本道の先が封鎖されていて、右側の茨の壁の一部が開通されたままの状態になっていたのです。


「……そうだ! 他のプレイヤーさんがボスと戦ってたはずなんだよね……。安全地帯セーフティエリアの入口が閉じられてたから……!」


 私は壁になっている部分に身を隠しながらボス部屋の中を覗き見ました。


 こそこそしていたのは、ここにいるプレイヤーさんたちがトイドルあの人たちみたいなプレイヤーだったら見つかりたくないな、と思ったから。


 ですが、そこに人の姿はありませんでした。

 中にいたのは三体の黄プディンだけ。

 あれ? もうここを去ったあとなのかな?

 と思いましたが、それでは違和感が拭えません。

 階段への道は閉ざされたままですし、それに……。



――部屋の中にはいくつかのアイテムが散らばっていて――。



 この時の私にはこれが何を意味しているのかがはっきりとはわかりませんでした。

 けれど、ものすごく嫌な予感がして部屋の中に踏み入れます。

 閉じ込められた私。

 そして、追加される黄プディン。


「なっ!?」


 準備も何もできていませんでした。

 それでも驚いて固まっている場合ではありません。

 対応しなければ死んでしまうのですから。


 私はとっさに猛毒薬を製薬しました。

 それを猛毒薬Lにまで昇華させようとしたのですが、思い留まります。

 黄プディンの数が五体増えて合計八体になっていることを確認したからです。


「や、やばい……っ!」


 私のMPは現在21。

 猛毒薬Eまでなら七個生成できる数値です。

 しかし、相手は八体。

 一体、倒しきれません。

 けれど!


「と、兎に角数を減らす!」


 私は即決しました。

 昇華をEまでにとどめ、それを黄プディンAに使用します。

 それからの二十五秒は回避に専念。

 数が多くて大変でしたが、相手の動きがそれほど早くなかったのが救いでした。


 二十五秒が経って一体が消滅します。

 すかさず黄プディンの粘質水を拾い上げて、猛毒薬を製薬。

 猛毒薬Eにまで品質を向上させ、攻撃を仕掛けてきた黄プディンBに投薬。

 また回避の時間。


 それを黄プディンC、黄プディンD、黄プディンE、黄プディンF、黄プディンGと続けます。

 残る黄プディンは一体。

 しかし、私の残っているMPは0です。


 何かいい方法はないものかと、私は相手の攻撃に対処しながら必死に考えました。

 時間が経てばMPは回復します。

 ですが、それは三十分毎に「1」。

 長期戦は望ましくないです。

 集中力が切れて相手の攻撃が当たってしまったらアウトなのですから。

 何か打開策は……っ! と縋るようにポーチの中を確認した時、それが目に留まりました。



――猛毒薬R――



 ハッとします。

 これは、実験をしていた時の産物でした。

 金プディンの粘質水や黄金の魔石を活用できないかと実験していた時の……!


「もったいなくなかった! 無駄なんかじゃなかったよ……っ!」


 私はそれを黄プディンHに使用しました。

 最後の黄プディンのHPゲージがじわりじわりと減っていきます。

 回避をしながら頭の中でカウントしていましたが、随分長く感じました。

 いつもだったら消滅していてもおかしくない二十五秒が経過しても、まだ四分の三ほど残っていましたから。

 ですから、余計なことは考えずに逃げ回ることだけに集中することにしました。


 そして恐らく百秒後。



――パァアアアアアアアアンッ!



 最後の黄プディンが弾け飛びます。


「は、はぁああああ……っ!」


 やりました、勝利です!

 ……疲れがどっと出てきて喜びに浸る余裕もなかったのですが。


『レベルアップしました』


「……今、ですか?」


 座り込んでしまった私に告げられたメッセージ。

 もう少し早く上がってよぅ……。

 と思ってしまったとしても仕方がないと思います。

 七体を倒した時にレベルが上がってくれていれば、これほどまでに精神的に疲弊することはなかったはずですから。


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名前:セツ     レベル:8(レベルアップまで40Exp)

職業:薬師(生産系)

HP:18/18

MP:23/23

攻撃:15

防御:17

素早さ:22

器用さ:25


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 ちょっと休みたかったのですが動かなくなるとアイテムが消失してしまうことを思い出して、私はハイハイで回収に向かいました。


 ドロップアイテムは、黄色い魔石百八個と黄プディンの粘質水三十二個分。

 ……あれ?

 黄色い魔石、なんか多くないですか?

 その他にも今までに黄プディンが落としたことのないものまで落としていました。


 緑の魔石が四十。

 赤い魔石が四十四。

 青い魔石が六十。

 回復草が一個。

 ビン(プディンの粘質水)が一個。


「……明らかにおかしいよ。も、もしかして――」


 私は思い込んでいたのです。

 他のプレイヤーさんがボスに勝ったからゲートが開いたのだと。

 しかし、この状況。


 散らばっていたアイテムと姿を見せなかったプレイヤー。


 それが表すのは……。


「……ボスにやられた……?」



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所持アイテム一覧

・特大フラスコ(聖水)9/16

・フラスコ(金プディンの粘質水)

・フラスコ(金プディンの粘質水)

・フラスコ(黄プディンの粘質水)

・フラスコ(空)

・ビン(プディンの粘質水)

・緑の魔石×40

・赤い魔石×44

・青い魔石×60

・黄色い魔石×140

・黄金の魔石×2

・回復草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

(二ページ目へ)


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