第17話 エプロンの似合う少女
『ん。私の方がお姉さん』
「ぜんっぜんそんな感じがしないんだけどな。まぁ、年齢なんて重要じゃない。何年生きたかより、何をして生きてきたかの方が大事だからな」
「薙坂さんって時々、カッコよさげな事を言って誤魔化そうとしますよね」
「ぐっ。うるさいよ。あ、そう言えばベッドじゃないけど生活用品どうしたものか。ピピってアイテムボックス持ってないんだよな」
『ない』
「そうか、じゃあ何もないな」
探索者はアイテムボックスのサイズにもよるが、生活用品一式はマストで入っているものだ。それがないとなると──。
「あ、全部用意しておきましたよ」
「……」
スグルが全部用意しておいたらしい。
「服も?」
「服も」
「下着も?」
「下着も」
「変態メガネ」
「毎日おはようからおやすみまで暮らしを見つめることになった人には言われたくないですね」
チャキっとメガネの位置を直しながらスグルが言い返してくる。
「ちなみに下着や服は妹に選んでもらったので、僕は一切選んでもいませんし、見てもいません」
「先に言えよ……」
「フフ、すみません」
こうして、ピピは俺の部屋に住み込むことになった。
それから一週間──。
「トーマ、朝ごはん作った」
「あぁ、ピピありがとう」
「ん。スクランブルエッグとソーセージとサラダと納豆。お味噌汁も」
「あぁ、ありがとう」
「トーマ、食後にコーヒーも淹れる」
「あぁ、助かる」
「いただきます」
「いただきます」
ピピはすっかり日本語をマスターしていた。イントネーションまで完璧だ。
「あのー、僕もいるの忘れないで下さいね?」
ダイニングテーブルには三人分の朝食。この一週間日本語の勉強しながらもピピはひたすらに献身的であった。食事の準備から掃除から洗濯から家事全般をすごい速度で習熟していき、今ではこの通りだ。
「ピピ。別に家事を全部やってくれなくていいんだぞ?」
「居候だから」
「いや、まぁそうだけど」
何度目かになるこのやり取り。家事を全部ピピにやらせるのは申し訳ないから俺も手伝おうとするのだが、ピピに怒られる。『私の存在価値を奪わないで』って。すごい日本語の語彙力というかチョイスだ。そんな重いこと言われたら迂闊に手伝うこともできなくなる。
「いやぁ、ピピさん甲斐甲斐しいですね。エプロンもよく似合っています」
確かにエプロンは良く似合っていた。
「……おかげさまで俺の仕事はロキのブラッシングしかなくなってしまった」
「ウォフッ!」
ロキからは、それだけで十分な仕事でしょ、と怒られる。
「で、日本語を覚えて、生活にも馴染んだところでこれからどう動くんだ?」
もちろんリベンジャーズとしての活動である。ピピを連れてきたのもエデンへ報復するためだ。そこは忘れてはいけない。
「えぇ。次は移動手段の確保です」
「移動手段?」
「はい。ご存じの通り、エデンは世界規模のテロ組織です。活動拠点も国を転々と変えながら、神出鬼没にテロを引き起こしては立ち去るというものです。ですので、我々は世界を自由に行き来できる移動手段が必要になります」
「なるほど。で、その移動手段ってのは?」
「召喚獣です。世界ダンジョン連合が定めた領空権を自由に侵犯していい存在。ふざけたルールですが、まかり通ってしまっています。そもそも人を乗せて空を飛ぶ召喚獣の数などたかが知れていますが」
ピーピー。
「あ、洗濯物鳴った。干してくる」
ピピがタタタタと洗濯機の方へと走っていった。
「……結構大事な話しをしているつもりだったんだがな」
「えぇ。ピピさんちょっと天然なところありますから」
俺たちはピピが洗濯物を干し終えるまで少しの間コーヒーブレイクを楽しむ。
「ん。ごめん」
「あぁ、いいよ。スグル続きを」
「えぇ。コホン、というわけで僕らが次に引き入れるべき仲間は、超長距離飛行ができて、人を何人も乗せられる召喚獣を持っている訳アリの人です」
「無茶苦茶だな。そんなヤツいるのか」
スグルの出した条件はとてもじゃないが現実的とは思えなかった。ただでさえ召喚獣と契約している探索者がレア。その中でも空を飛べる召喚獣がレア。更に超長距離飛行で何人も乗せられるサイズとなると金の石板レベルだろう。
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