第15話 少女の見送り
明け方近くになってもヘリでの捜索は続いていた。俺たちはライトが使えないので月明りと夜目だけを頼りに森を進んでいく。
そしてようやく空が白んできた頃、海岸へと辿り着く。
「スグル、着いたぞ」
『くりぬかれた洞窟の中に小型ボートが隠してあるのでそれに乗って下さい。途中で漁船に乗り換える予定です』
「了解」
すぐに洞窟は見つかった。そしてその洞窟の手前には金髪のロングヘア―の少女が一人立っていた。
「カレン」
「ピピ」
金髪の少女はどうやらピピの知り合いのようだ。同じ服を着ているということは、恐らく施設の人間。俺はバスターソードを取り出し、構えておく。
『カレン、連れ戻しに来たの? 殺しにきたの?』
『どちらでもないわ。見送りにきただけ。ダンジョンの中では悪かったわね』
この口ぶりからして、どうやら彼女がもう一人の生き残りで、ピピを殺そうとした相手のようだ。
『別にいい。自分の命の重さなんて吹けば飛ぶ軽さだったから』
『
『そ』
『ふーん。首輪も外れたのね』
『カレンのも外して──』
『結構よ。私が自由になるのは、私の力でそれを勝ち取った時。アナタに借りを作ってまで得るものではないわ』
『そ』
『えぇ。精々死なないことね』
『カレンも』
『フフ、しぶとさはアナタにも負けないから』
『私、施設壊しに帰ってくるから』
『あらそ。あんまり遅いようだったら私が先に潰しておくからね』
『ん。それならそれでいい』
『張り合いがないわね。あと、そこのアナタ』
指をさされる。
『ピピのこと頼んだわよ』
「……了解だ」
『そ。それならいいわ。じゃあね』
カレンはそれだけ言い終わると、静かに去って行った。
「……行くか」
『ん』
ピピの命を奪おうとした相手が、一人見送りに来ただけ。それがピピの人生の過酷さを表しているような気がした。
俺たちは言葉少なにボートへ乗り込むと、沖へと進んでいく。日本まで数日というところだろう。
「あ、薙坂さんおかえりなさい。お疲れ様でした」
「あぁ、ただいま」
マンションの部屋の前にはスグルが待っていた。積もる話は部屋に入ってからだ。
「ふぅー」
ダンジョン内で何日も過ごすのは平気だが、意外に船に乗ったり、電車に乗ってる時間というのは疲労感が残るものだ。
「コーヒー淹れましょうか?」
「あぁ、頼む」
ダイニングテーブルに腰かけ、コーヒーを待つ。ピピは俺の隣に座った。ロキも召喚しておく。
「はい、どうぞ。ピピさんも」
「ありがとう」
『ん。ありがと』
この数日ほとんど寝ていないからコーヒーがよく効く。
「では、薙坂さん早速ですが、ご紹介を」
「あぁ、スグルの言ってた通りの施設にいたピピだ。ダンジョン内でゴタゴタがあって、なんやかんやで鉄巨人の召喚獣をゲットした。んで、その施設はエデンが作った施設でリベンジしたいって言うから入れた。以上」
「なるほど。ひどいマッチポンプですね。ピピさん、よろしくお願いします。遠藤傑と言います」
『ピニャルカ=ルピーナ。よろしく』
「これは失礼しました。ピニャルカさんだったんですね」
『ピピでいい』
「ありがとうございます」
スグルは翻訳機が喋る前に流暢なロシア語でピピと会話をしていた。
「で、薙坂さん、どんな戦いだったんですか?」
「ん? ピピが鉄巨人に無理やり乗り込んだものだから、意識を失って暴走しててな。それを俺が槍でバシュンとな」
「おぉー、流石薙坂さんっ」
スグルが目を輝かす。
「ウォフッ!」
しかし、すぐさまロキが睨みながら吠えてくる。
「……ま、正確に言えば危ないところをロキのタックルに助けられて、んで壁にめり込んで動きが取れなくなったところを槍でバシュンだな」
「アハハハ、そこを端折ったらそりゃロキさん怒りますよ。でも、流石ロキさんですね」
「ウォフ」
ロキはどことなく満足気だ。
「そうだな。ダンジョンの攻略もロキのおかげで滅茶苦茶速かったし、逃走するときも大活躍だったからな。流石は相棒だ」
「ウォフ」
しかし、ロキはジト目で小さく吠えるだけだ。今更おだてても遅いといったところか。
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