第14話 森の中で


「────ッ!!」


 戻った瞬間熱烈な出待ちが大勢いた。何十という銃口がこちらに向けられている。だがクロープスによる紫電飛ばしで全員あっけなく気絶した。焦げてはいないため、出力は大分抑え目なようだ。


 ロキに乗った俺とピピの乗ったクロープスは人が倒れている隙間を器用にジャンプして渡り、出口を目指す。


「もしもし。俺だ。絶賛逃走中。どうぞ」


『えー、状況としては外には追跡用のバイク、砲撃用の戦車、上空にはヘリが数台待ち構えています。逃走経路としては、山と森を利用し、海に出て下さい』


「了解。じゃあまず俺はどっちへ行けばいい」


『北北東です』


「…………」


 北北東、だと? 俺は施設から飛び出すと太陽の位置を見る。別に意味はない。


「ピピ、北北東ってどっちか分かるか」


 翻訳機を片手にピピに尋ねる。


『……ん』


 クロープスは大きく頷くと、迷いなく走り出した。マジか。


 後ろからは機関銃の音がタタタタと絶え間なく聞こえてくる。知ってるか、機関銃って当たると痛いんだぞ。クロープスはいいよな。完全防御だからな。


「ウォフッ」


 ロキの跳躍。山を一気に駆け上がる。バイクとヘリが追ってきているようだ。弾薬が雨のように降ってくる。


「そこまでするかね。ダンジョンに不法侵入しただけだぞ。こんなの国際社会は許してくれないだろ。いや、下手したら俺たちがテロリスト扱いか」


 俺はアイテムボックスから鋼鉄で出来た和傘を取り出し、広げながらぼやく。しかし、探索者や召喚獣と言った個を超越した武力が蔓延る世の中では重火器程度は所詮、重火器程度だ。


『薙坂さん、聞こえますか。そのまま山を下りた先に森が広がっています。そこからは東に進路を変えて下さい』


「了解、と。ピピ、森からは東だ」


『ん』


 ロキは岩場も木々もなんのそのでしなやかに山を駆け上がり、そして駆け下りていく。クロープスはめきょめきょ、ガシガシ、悪路をひたすらにまっすぐ突進して踏破していく。環境に優しくないヤツだ。


 森へ到着した。相変わらずヘリのプロペラ音は聞こえてくるが、バイクは山を越えられずに一旦引いたみたいだ。日も落ちてきて、ヘリからはサーチライトが向けられる。だが、この鬱蒼とした森ならそう簡単には見つからないだろう。であれば急ぐよりは見つからないように、隠密行動に切り替えるべきだ。


「ピピ、ここからは歩こうか」


『ん』


 ロキとクロープスの召喚を解除し、歩き始める。隠密行動なので無言だ。無言が許される場面というのはありがたい。


『ねぇ、トーマ』


 夜も更けて、サーチライトの数が減り、位置もバラバラになってきた頃、ピピが小さく話しかけてくる。


「ん、なんだ?」


『私がいた施設がどんなかは知ってる?』


「……まぁチラっとな。孤児を無理やり探索者として育てる施設だとか」


『逃げたら絶対殺す首輪』とかいう物騒なものを嵌められていたということは、まぁ本当にそういう施設だったのだろうと思う。


『そう。一流の探索者になるためのスキルだけを小さい頃から徹底的に仕込まれた。国中から孤児が集められて、厳しい環境の中で何人も何十人も何百人も死んでいった』


「……」


 俺はたまたま日本だったからだが、こっちに生まれていたら俺もそこに入れられていたかも知れないと思う。


『私はその中でトップだった。トーマ。私、厄介かも。日本まで追手が来るかも知れない』


 連れ戻す。あるいは殺す。なんにせよお好きに生きて下さい、と解放されるわけじゃないだろう。この状況では、ピピが生きていますと言っているようなものだし。生きてることがバレずに済むこともないだろう。


「……ピピ、お前は誰かに恨みや憎しみはあるか?」


『……ある。施設を作ったのはエデン。親を殺し、子供を拉致し、施設に入れ、金を生ませるか、戦闘員にするか。私の人生の全てはヤツらの都合による道具でしかない。私のパパとママを殺したヤツはいずれこの手で殺す』


「──ッ!?」


 エデンはどこまでも外道だった。だが、同時にヤツらならやりかねないとも思ってしまった。


「……そうか。じゃあ同志だな。俺も自分の家族をエデンのヤツに殺されたんだ。それからの人生は、この手でその落とし前をつけるためだけに生きてきた。一緒に来るか?」


『トーマ……。いいの?』


「……誘ったのは俺たちの方だ。リベンジ決めようぜ」


 俺は右手を差し出す。


『……ありがとう』


 ジッとその手を見つめ、ゆっくり握り返してくるピピ。こうして正式にピピがリベンジャーズに加入することとなった。

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