第12話 高性能翻訳機
「あー、通じますか」
俺がそう言うと翻訳機が何やら喋った。
「────」
そして銀髪少女が何か言うと翻訳機からは『通じる』と返ってきた。
「…………」
だが、言葉が通じるからと言ってコミニュケーションが上手く取れるとは限らない。なぜなら俺は日本語が通じる日本でもコミュ障だからだ。何から喋っていいのか分からなくなる。そんな俺を見て向こうから話しかけてきた。
『ここにいた召喚獣は?』
「召喚獣? そんなものはいなかったぞ。いたのはあの鉄巨人だけだ」
壁に埋もれている鉄巨人の残骸を指さす。
『……あれは召喚獣。あなたがやったの?』
「え、あれ召喚獣だったのか。ん、あぁ俺がやった」
『そうなの? 助けてくれてありがとう』
「どういたしまして」
ペコリと頭を下げてお礼を言ってくる銀髪少女。髪がバサリと垂れ下がる。顔を上げてから、くるくると髪をまとめて櫛で止めていた。随分とスポーティーなイメージになった。
「それで、事情を説明してくれるか?」
『ん。私たちは──』
銀髪少女が言うには、国内屈指の高難度のダンジョンに十五人のパーティーで入り、途中仲間が何人も倒れたが、最後に残った二人でボスを倒しきった。ドロップしたものが厄介で、金の石板だったそうだ。
それを見てもうひとりから殺されそうになったとのこと。そこで銀髪少女は契約の儀式を無理やり始めて、更に鉄巨人が搭乗型の召喚獣だったから契約もしていないのに無理やり乗り込んで感電し、気絶して暴走したらしい。
「随分ファンキーだな」
『ん。そこで意識はなくなった。その子もどうなったか分からない』
「あぁ、ダンジョンから帰還したみたいだぞ」
スグル曰く、だが。
『そうなの? なんで知ってるの? ロシアの人じゃないよね?』
「あぁ、まぁ情報通の仲間がいてね。俺は日本人だ」
『日本……。わざわざ日本から何しに来たの? ダンジョン攻略?』
「いや違う。救出と勧誘だ。ウチは新しくテロ組織に個人的な報復をするための秘密結社を作ってな。って、こんなんちゃんと翻訳されるのか?」
一応翻訳機はペラペラと何かを喋っているが、こんな突拍子もないことが少しでも間違って伝わったらなんとなくマズイ気がして心配になる。
『ん。分かった。入る』
「え」
銀髪少女の言葉は予想外のものだった。
『入る。加入。入社』
翻訳機からはそんな言葉が続けて聞かれる。
「俺が言うのもおかしいが、今日初めて会った外国の男からこんな怪しげな勧誘を受けて、詳しい事情も聞かずに乗っかるのはヤバイと思うぞ」
翻訳機からの言葉をふんふんと銀髪少女は聞いて頷き──。
「ピニャルカ=ルピーナ」
自分を指さす銀髪少女。名前だろう。そして次に俺を指さしてくる。
「薙坂十馬だ」
「トーマ……」
「あぁ」
「ウォフ」
私を忘れるな、とロキが鳴く。
「こっちはロキだ。ロキ。俺の召喚獣」
「ロキ」
「ウォフ」
これで自己紹介が済んだ。勧誘も済んでしまった。こんなんでいいのだろうか。
『トーマ。あれ持って帰る』
「ん? 鉄巨人か」
『ん。契約してくる』
「え、あぁ」
あの残骸相手に契約がどう成立するかは分からないが、とりあえずピニャコラ──。
「すまん、名前もう一度言ってもらっていいか」
「ピニャルカ=ルピーナ。ピピ」
「ピピ! 良い名前だ」
覚えやすく、発音しやすい。めっちゃ助かる。銀髪少女改めピピと呼ぶことにした。そしてピピとともに鉄巨人の元へと向かう。
『んしょ。んしょ』
そんなところまで翻訳するのか、流石高性能……なのか? 疑問に思う性能はさておき、ピピは自分が収納されていたところで何やらもぞもぞと探し物をしているようだ。
『あった』
「ん? 何があったんだ」
鉄巨人から出てきたピピの手の平には三角錐のガラスの容器が乗っていた。中身は液体のようで緑の蛍光色を放っている。多分飲んだら死んじゃう系だろう。
「それは?」
『鍵。エナジーコア』
「なるほど」
あれが鉄巨人の動力源というわけだろう。召喚獣によっては召喚媒体が残るものもある。だが、それは契約してから現れるものだ。あのエナジーコアが召喚媒体とは限らない。
「で、それをどうす、あーーーーーーー」
あろうことかピピはそれを容器ごと丸呑みした。正気の沙汰とは思えない。
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