第11話 鉄巨人を貫け
「あれ以外に人は見当たらない──」
「ウォフッ」
ロキが吠える。俺の言葉を否定しているようだ。
「人がいるのか?」
「ウォフ」
肯定。
辺りを見渡す。探索者として存在力が上がったことで視力も常人の何十倍、何百倍になっている。だが、この閉鎖された空間に人などどこを探しても──。
「ウォフ」
ロキの視線の先には鉄巨人の腹。
「あの中か……?」
「ウォフ」
小さく頷くロキ。どうやら正解のようだ。
「どういう状況だよ。大型のボスに探索者が丸呑みされることはあるが、あいつはどう見ても
鉄巨人に口は見当たらない。が、目はあるようだ。両目が赤く光り、そして全身から紫電が立ち上る。どうやら挑戦者として認識されてしまったようだ。
「────ッ!!」
そして、声とは呼べないような金切り音を発しながら鉄巨人が突進してきた。
「ウォフッ!!」
「クッ!!」
避けるのは間に合わない。見た目からは想像できない速さで迫ってきた鉄巨人の二本の大剣をバスターソードで受け止めようとした。力を入れて踏ん張ったその瞬間にロキに後ろ足で蹴り飛ばされる。俺は吹っ飛びながら、さっきまでいた場所を見ると床に深々と二本の剣が突き刺さり、その周囲は黒く変色し、融解していた。
「すまない、助かったロキ」
「ウォフ」
視線は鉄巨人に向けたまま言葉を交わす。油断するなと叱咤されたようだ。そして鉄巨人からの再度の攻撃。どうやら狙いは俺のようだ。
「ッチ。デカイくせに速いんだよっ!!」
とは言え、受け止めることならできる。が、剣を伝って電撃を食らって気絶してしまった時点でゲームオーバーだ。俺は一撃、二撃と雷鳴が鳴り響く嵐の如き剣撃を避け続ける。
「ウォフッ!!」
危うく避けそこないそうになったところを超加速したロキが鉄巨人の横っ腹からタックルする。鉄巨人はゴロゴロと何十メートルも転がり、壁にぶつかり、めり込んだところでようやく止まった。
「さんきゅーロキ。ってブハハハハハ、へぶっ」
紫電を纏う鉄巨人にタックルしたせいで、ロキの頭の毛が逆立って寝ぐせみたいになっていた。笑ったら前足で殴られた。
「笑ってすみませんでした。てか雷はかなり厄介だな。遠距離武器で行くか」
俺はアイテムボックスから呪符が巻かれた禍々しく不気味な槍を取り出す。
「腹には探索者がいるから腹はダメか。いや、ロキのタックルで死んじゃってるかも知れないけど──」
「ウォフ」
どうやらそんなことはないらしい。
「そうか、まぁ生きているならひとまず助けてみようか。狙いはその頭だ。貫かせてもらうぞ」
鉄巨人はグギギギと両手、両足を使って壁から這いずり出そうとしているところだ。顔を上げて赤い目と目が合う。
「貫け魔槍ゲイボルグ」
俺は右手にあらん限りの力を込め、乾坤一擲。魔槍が通った後には真空波のトンネルができる。スパァンという小気味良い破裂音の後、鉄巨人の顔は綺麗さっぱり無くなっていた。
「ふぅ。お疲れさん。いや、ロキ助かったよ」
「ウォフ」
ロキは俺のことを睨み、小言を言いたそうだ。ロキが人間だったら沢山小言を言われたかと思うと、狼であってくれて良かったと思ってしまう。
「ウォフ」
尻尾で背中をはたかれた。人間の言葉や文字はおろか、心の中まで読めるのであろうか。
「さーて、じゃあ探索者さんとご対面するとしようか」
俺は壁際で動かなくなっている鉄巨人の胸と腹あたりの装甲を無理やり引っぺがす。
「よーいしょ」
ギギギギ、バキンという音がして装甲が剥がれた。中には──。
「女……の子?」
銀髪のロングヘア―の随分と綺麗な女の子がぐったりと横たわっていた。年齢は俺と同じくらいかもしくは年下かというような見た目だ。服装は探索者のそれだった。気になるのはそんな女の子に似つかわさない明らかに異様な分厚い首輪だ。
「とりあえず救出っと」
鉄巨人の中から抱え上げ、地面へと寝かす。体温は温かいし、体は柔らかいから死んではいないと思う。胸も僅かに上下している。
「おーい。生きてますかー」
まぁ当然ロシアの孤児を集めたロシアの施設から来た探索者だからロシア人だろう。ロシア語など分からんから日本語で呼びかける。
「返事なし。おーい」
次はペシペシと頬を軽く叩く。まつ毛がピクリと動いた。と思った瞬間──パッと両目が見開かれる。そしてすぐさま飛び起き、腰から両手に逆手のダガーを二本引き抜き、臨戦態勢。
「NO、NO、NO」
俺は両手を上げ、敵意はないことをアピールし、英語で話しかける。英語で話しかける?
「────」
すると向こうはペラペラとロシア語か、あるいは英語かも知れないが、どちらにせよ分からん言葉を発してくる。なので、ふんふんと一応頷き、聞き終わったあとは両肩をすくめてみせる。
「さて、こんな時のための翻訳機と」
俺はスグルに持たされた翻訳機をアイテムボックスから出す。スグル曰くかなり高性能らしい。あまり信用はしていない。
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