第7話 リベンジャーズ
翌日、遠藤傑は写真通りのメガネとスーツ姿でやってきた。
「薙坂さん、初めまして! 本日はお時間を頂きありがとうございます! お会いできて光栄です! 昨日は生意気いってすみませんでしたっ!!」
会うなり90度に腰を曲げて謝罪される。
「ひっ!?」
そんな遠藤傑の周りをロキがウロウロして、匂いを嗅いだりしている。まぁ、これだけ巨大な狼が近くにいたら悲鳴の一つや二つ上がるのも仕方ないだろう。
「あぁ、いや、俺もメガロドンには世話になったし、最後に一回会うくらいはな。あぁ、そいつはロキ。召喚獣だ。安心してくれ、むやみやたらに傷つけるようなヤツじゃない。俺には手をあげるけど」
「ウォフ」
「……ッ!?」
それはバカなことをお前がした時だけだ、と反論しているような声だ。少しムッとした表情になると迫力が増す。それを間近で見ている遠藤傑は悲鳴こそ抑えたが息を呑んで、全身を緊張させて縮こまってしまっている。
「ほら、ロキ。お客さんを怖がらせるな。こっちに来い」
「ウォフ」
怖がらせるつもりなどないと言わんばかりに釈然としない表情だが、素直に従い、俺の後ろに回り、ゆっくりと座る。
「飲み物くらい出すが、水かアイスコーヒーか、ホットコーヒーくらいしかないけど」
「あ、では水をお願いします」
「あいよ」
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターをグラスに二つ注ぎ、戻る。
「で、メガロドン──」
「あの、遠藤か、傑で……お願いしても……」
「それもそうだな。じゃあスグルで。まぁ、昨日はつい乗せられて面接なんて言ったけど、俺は雇うつもりはないから」
「では、なぜ会ってくれたのでしょうか?」
スグルは俺の目をジッと見ながらそんなことを聞いてくる。なぜ会ったのか。別に深い理由はない。人付き合いが苦手なのもそうだが、そもそも復讐なんてバカげたことをする以上人間関係なんて作らないに限る。そんな数少ない交友関係の一人だったから最後に会っておくか、くらいの気持ちだ。
「別に気分だな。気まぐれってやつだ」
まぁ、実際そこまでは言わないが。
「ウォフ」
うるさいよ。ロキの顔は見ないでおく。
「エデンを追うには情報という武器が必要不可欠ですよ。たまたまの偶然でテロの現場に居合わせたり、本拠地を見つけられると思っているんですか? 相手は世界規模の最大テロ組織グループですよ?」
「できるか、できないか、じゃない。やるかやらないか、だ」
「そんなものは詭弁です。気持ちだけでやろうと思ってやれたら世の中、こんなに狂っていません」
そりゃそうだ。というか俺自身ここから一人でどうやってエデンを追うかイメージができていないのも事実。
「……なんで、赤の他人のお前が、そこまで必死に食い下がるんだ? エデンを追うってことは殺される可能性があるってことだぞ? 命を粗末にするなよ」
「ウォフ」
だから、うるさいよロキさん。へいへい、自分の命に何の価値も感じていないお前が言うなって言いたいんだろ。
「薙坂さん。僕はヒーローに憧れていたんです」
履歴書にも書いてあったな。スグルの言葉はやはり冗談で言ってるようには聞こえなかった。
「僕は強くなりたかった。探索者に憧れていた。でも無理だった。僕はひ弱で、ビビりでヘタレだ。ゴブリン一匹とすら対峙できない。僕は探索者になろうとして挫折しました」
別に珍しい話しでも笑い話しでもない。探索者志望者が十人いて、実際のゴブリンを目の前にした時、そいつを殺せるヤツは一人か二人だ。
「でも、僕はどうしても諦められなかった。僕の生まれてきた意味は、僕の人生を懸ける意味はそこにあるっていう感覚がずっと残っていた。探索者として強くなって直接戦うのは無理だとしても、テロ組織と戦おうって。この世界を少しでも平和に住みやすくしたいって」
「…………」
スグルの話しを黙って聞き続ける。
「自分で言うのもなんですが、僕は頭は良い方でした。だから必死に勉強して、ダンジョン庁に入職しました。そこで日々テロ組織の情報を扱い、未然に防いだり、勢力を弱められるよう頑張ってきたつもりです。そこには最年少、最速でS級探索者になった薙坂さんの情報もありました」
「……なるほど」
俺の家族背景やエデンとの結びつきもそこで知ったということだろう。
「僕は薙坂さんを尊敬してますし、憧れています。どうか手伝わせて下さい」
スグルは椅子から立ち上がり、再度深々と頭を下げてくる。
「……俺はヒーローなんかじゃないぞ。正義なんかない。ただ自分の家族を殺したテロリストをこの手で殺したいだけのつまらんリベンジャーだ。アベンジャーですらない」
俺の中に正義も大儀もない。あるのは落とし前だけだ。人を何十人、何百人も殺しておきながら、のうのうと生きているクズどもが許せないだけ。
「では秘密結社の名前は『リベンジャーズ』ですね」
スグルは笑いながら、そんなことを言う。俺は一瞬目が点になり──。
「大クレームだ、バカ野郎」
悪くないネーミングに顔をニヤつかせるのであった。
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