第4話 ダンジョン協会本部
本部に到着すると、ビルの入り口には新井さんが待ち構えていた。
「薙坂さん、お待ちしておりました。まずはご無事で何よりです」
新井さんは既にいつものきちんとした大人モードに戻っていた。こういう時の新井さんは普通に仕事のできるキャリアウーマンという風だ。
「あぁ、心配かけてすみません」
「はい。本部長がお待ちしております」
「桐生さんね、了解」
S級探索者
「失礼します。薙坂さんをお連れしました」
「どうぞ」
「失礼します」
桐生さんは、立ったまま大げさに両手を広げ、大げさに出迎えてくれた。
「薙坂くん、まずは無事で良かった。積もる話しもあるだろうから、腰かけてくれ。アイスコーヒーでいいかな?」
「ご心配かけました。えぇ、コーヒーで」
立派な応接用のソファーに腰かける。対面に桐生さんが座った。スーツ姿でも分かるガッシリとした体格、四十半ばだというのに非常に若々しくエネルギッシュだ。
「あぁ、新井くんありがとう。君も腰かけてくれ。さて、早々に本題に入って申し訳ないのだが、薙坂くん、半年前未踏破の難関ダンジョンに挑むと言ってから今日までどこで何をしていたのか教えてほしい」
「そのダンジョンにいましたよ。半年間。攻略に手間取ってしまっただけです」
「おいおい、薙坂くん、最年少、最速S級探索者、数々のダンジョンの攻略レコードを塗り替えてきた君が半年も掛かるって? 一体ダンジョンレベルはいくつだと言うんだ?」
「四千くらいですかね」
四千……新井さんが小さく呟いたまま口を閉じれず唖然としている。
「四千、薙坂くんの感覚で、ということだからすべてを鵜呑みにするわけではないが、キミがつまらない嘘や見栄を張るとも思っていない。だが、それが事実だとしてキミが
「四千程度っ!? ほ、本部長、国内で確認されている最高ダンジョンレベルは2200ですよ!? もしこれが本当に四千であればダンジョンレベルレコードをダブルスコア近く更新して、それをソロで初見で踏破というのは──」
新井さんがなんだかわけのわからないテンションで捲し立てている。俺はそれをなんだかなぁと思いながらコーヒーを飲む。
「新井くん、落ち着きなさい。確かに偉業だ。それが彼以外が達成したとなれば、な。だが、私はその部分に関しては違和感を持っていないよ。彼ならどんな偉業を成し遂げても違和感はない」
「過分なお言葉ありがとうございます」
俺は別に心にも思っていないことをシレっと口にする。桐生さんだって別に俺を褒めておだてたいわけではないだろうし。
「で、答えを聞いていないが?」
答え。俺が本当に四千程度のダンジョンに半年も掛かるかという問い。通常の攻略であれば数日しか掛からなかった。ロキとの契約に時間が掛かっただけだ。だが、バカ正直にそのことを話すつもりはない。
「えぇ、桐生さん。さっきの言葉通りです」
俺はジッと桐生さんの目を見ながら言葉を繰り返す。
「ふむ。薙坂君、化かし合いはここまでにしようじゃないか。ここからは腹を割って話そうか
シキさんは丁寧な言葉遣いをいきなりやめて、綺麗に撫でつけてあった頭をガシガシと乱すと、グッと前のめりになった。
「シキさん、何もないっすよー。時間が掛かっただけっす」
なので俺もいつも通りの呼び方で、いつもの喋り方になる。
「嘘だな」
「嘘じゃない」
「じゃあどこで時間を食った? 何フロアだ?」
「数百フロア、いや数千フロアはあったかなぁ」
これも当然嘘だ。50フロアくらいだった気がする。
「す、数百っ、す、数千っ!?」
新井さんは言葉通りを受け取ってくれたようでまたしても口が塞がらない。
「ふーん。だとしたら世界レコードも更新だな。で、お前は何のためにダンジョンに潜っていたんだっけか」
「お金ですねー」
棒読みだ。
「ハッ、もういい、もういい」
シキさんが諦めたように目を閉じ、首を振る。
「じゃあ報告と行こう。ボスとそのボスからドロップしたアイテムを報告してくれ」
「ボスは三つ首の犬、ケルベロスですね。サイズは体高が──」
俺はケルベロスの特徴をことこまかに教える。
「ふむ。それで、ドロップは?」
「これですよ」
そう言って俺はアイテムボックスから銅の石板を一枚出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます