やった! ついに拙者も異世界転生でござる! チート(魔法)を選べ? それならもちろん…

田中寿郎

第1話 飲み込みの悪い勇者君

明るいが、何もない空間。


そこに突然バスが現れる。


『ああイケネ! 失敗した!』


男が指をパチンと鳴らすと、バスは消える。


ただし、中に乗っていた運転手と乗客を残して。


残ったのは乗客三人と運転手一人。乗っていたバスが突然消え空気椅子状態になれば、乗客は当然尻もちを付く事になるが……


意外にも尻もちをついたのは二人だけであった。


瞬時に足を踏ん張って持ちこたえた若い男が居た。そして、その横で男の腕に絡みついていた若い女も、男にしがみついてなんとか持ちこたえる事ができていた。


『おお、君、なかなかの反射神経と脚力だねぇ』


大学生だろうか? かなり引き締まった身体をしているのが服の上からでも分かる。


もう一人の乗客は、スーツを来たサラリーマン風のメガネをかけた青年であった。そして、バスの運転手の初老の男性。


四人は全員状況が理解出来ず、キョロキョロ周囲を見まわし困惑した表情である。


だがその中で、スーツにメガネの青年が後すぐに目を輝かせ始めた。


メガネの青年「これってもしかして!? 拙者にもついに来た・・でござるか?!」


謎の男「そうです、理解が早くて助かります」

謎の男「君、名前は?」


メガネの青年「拙者、あおと申すでござる、紺碧のペキ」


謎の男「……猿のペキ君?」

碧「なんでやねん!」

謎の男「冗談です」


謎の男「私は……神様の代理です」

謎の男「代理では呼びにくいので、とりあえず、カミシロオサムとでもしておきましょうか? 安直ですが、神様の代理なので神代理カミシロオサム。長いかな、じゃぁオサムサンでいいですよ」


碧「オサルサン?」

オサムサン「オササン!」

オサムサン「くそ、即座にやり返してくるとは……お主、なかなかやりおるな」


碧「いや、失敬でござった、オササン。それで、これって、異世界てn~」


『ちょっと!!』


碧の質問を遮り運転手が割り込んできた。


運転手「これはどういう事なんですかね?!」

運転手「私はバスの運転中だったはずですが、バスはどうなったんですか?」


オサムサン「バスは元の世界に戻しました、路肩に安全に停めておきましたので、事故とか起きてませんから安心して下さい」


運転手「そうですか、ってここはどこなんですか? 困りますよ、職場放棄で叱られてしまいます」


オサムサン「叱られる事はないから大丈夫ですよ。なぜなら、もう職場に行くことはありませんから」


運転手「え…? それはどういう…???」


オサムサン「だから、もう元の世界には戻れませんので」


若い男「おい! オサム! さっきから聞いてりゃ、一体どういう事だよ!」


先程尻もちから免れた若い男が少しキレ気味に割り込んできた。横に引っ付いている女は男の背後に隠れながら顔だけ出している。


オサムサン「オサムサン・・ね。君の名前は?」


若い男「鈴木大牙、大きな牙でタイガだ」


女「あたしはニコ、笑顔で恋すると書いて笑恋ニコよ」


運転手「あ、私は松本松五郎です」


ニコ「え? マツマツ? ウケる~。SNSにアップしていい? てかスマホ圏外なんですけど、ギガどこ?」


オサムサン「タイガ君とニコちゃん、それにマツさんね。それでは質問にお答えしましょう。まず、ここはどこか? ここは高次元亜空間です」


タイガ「…ちょと何言ってんのか分かんねぇ…馬鹿にしてるのか?」


オサムサン「安心して。理解できないのは君が馬鹿なわけじゃないから。君達人間には理解が難しい謎空間、という感じ?」

オサムサン「それから、ニコちゃん? スマホはこの空間では使えないよ、君達の世界の電波はここまで届かないからね」


タイガ「謎空間…? てかそういう事訊いてんじゃねぇよ。なんで俺達がこんな場所にいきなり居るんだって話だよ! 家に帰る途中だったんだが?」


運転手「そうです! もう職場には戻れないってどういう事ですか?」


オサムサン「はいはい順番にオコタエイタシマスヨ。まず、何故こんな場所に? それは私が転移させたからですね。それから、職場に戻れないじゃなくて、元の世界には戻れない、デス」


碧「あの、オサム殿。これって、いわゆる異世界転移でござるますよね?!」


オサムサン「そうです。ペキ君は理解が早くて助かります」


碧「キタコレ!」


オサムサン「てか、オサムじゃなくてオサムサン・・ね」

碧「あ、サンまでが名前なのでござるね…」

碧「てか拙者もペキじゃなくてアオでござるが!」


タイガ「なんだよ、そのイセカイなんちゃらってのはよ?」


オサムサン「君は飲み込みが悪いですね、まぁ予想通りですが。ラノベでよくあるでしょ、異世界転移。読んだ事ない?」


タイガ「俺は本はまったく読まねぇんだよ」


ニコ「タイガは足は速いけど勉強嫌いだもんねぇ」


オサムサン「漫画とかアニメにもなってると思いますが」


タイガ「そんな子供っぽいモンは見ねぇっつーの」


ニコ「あたしは知ってるよ! あれでしょ、ゲームの中に入って勇者になって魔王を倒すとかいうやつ。サリナの家で見せられたんだけど、つまんなかったから途中で寝ちゃった」(笑)


ニコ「てか、今日見たいテレビがあるんだから早く帰して?」


オサムサン「ごめんね、さっきも言ったけど、元の世界にはもう戻れないんだ。神様が君達を選んだので、仕方がないですね」


ニコ「そんな…もう帰れないの?」


タイガ「なんだと! なんでだよ! 元の場所に戻せよ! なんで俺達なんだよ!」


運転手「私も困ります! 家に待ってる家族がいるんです!」


オサムサン「うーん…そう言われましても、私は上から指示を受けただけなので。あのバスに乗ってた人間ってね」


ニコ「もうママお母さんにも会えないの…?」

ニコ「…ってまぁそれはいっか。それよりずっと見てたドラマの最終回が今日だったんですけど!? それも見れないの?!」


オサムサン「そうなりますが。あしからずご了承してもらうしかないですね」


タイガ「ニコお前家族はいいのかよ?」


ニコ「タイガと一緒だし…」


タイガ「え…そ、そうか?」


ニコ「お母さんはいっつも怒ってばっかりだから嫌い」


ニコ「それに、アレでしょ? 勇者にしてもらえるんでしょ? チートだっけ? それでヒーローになるんだよ、タイガにピッタリじゃん」


ニコ「そしてあたしはヒロインってわけよね?」


オサムサン「……ん~まぁそういう感じで、いい、かな?」


碧「微妙な間があるのが気になるんでござるが」

碧「……あの~まさかとは思いますが、巻き込まれ、とかじゃないですよね?」


オサムサン「ペキ君は本当に飲み込みが早くて良いねぇ」


碧「まじでござるか!」



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