第16話 一宮駅 石棺の蓋

 後日、石舟古墳で発見された石棺が備前一宮駅にあると知り、出掛けてみた。こじんまりした田舎の無人駅で、周辺を探し回ってみたが、どこにあるやら見つからない。両替機を修理していたおじさんに石棺の蓋の場所を訊ねたら「知らないよ」との返事。ここではなく、博物館など別の場所に移されたのだろうか。しかし、観光マップには備前一宮駅に石棺の蓋があるとちゃんと書かれている。


 改札の出入りは自由のようなので、ホームに入ってみた。すると、ホームの花壇の中に黒ずんだ石棺の蓋を発見。野ざらし、いや、おおらかな管理に驚いてしまったが、ちゃんと案内看板も設置されていた。


 駅員も知らない隠れスポットなのか、と一瞬胸を躍らせてしまったが思えばおじさんは駅員ではなく、両替機の修理人だったようだ。

 石棺は縦に半分にされた片割れという。ギザギザの側面がそれを物語っていた。あの石舟古墳への大冒険の後、移設された石棺とここで再会できたことがしみじみ感慨深い。


 六世紀頃は石舟古墳のすぐ傍まで海が広がっており、「石棺の中の水が潮の満ち引きで上下する」と言い伝えがある。山の中にあるのに「舟」の字がついているのもミステリアスだったが、そういう話なら合点がいく。吉備津彦命と温羅が打ち合った矢が海中に落ちたという伝説からも、吉備の中山と鬼ノ城の間は海があったのだろう。


 現在、鬼ヶ島として有名なのは香川県の女木島であるが、当時のロケーションを想像すると鬼ノ城は海に浮かぶ鬼ヶ島と言えるかもしれない。そう思うと胸が熱くなった。


 日本人なら誰もが知っている桃太郎のおとぎ話。温羅と吉備津彦命の戦いはおとぎ話よりも何倍もドラマチックだった。おとぎ話では人格がなかった悪者の鬼にも歴史的な裏付けがあり、成敗された後にも物語が続いていることが面白い。


 温羅を神として祀る神社の存在で、大陸からの渡来人で製鉄技術や農耕の発展に寄与したという意外な一面も知ることができたのも興味深い。中央からやってきた吉備津彦命を敬いながら、土地の者だった温羅を控えめに祀る地元の人々の心も見て取れた。

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