第13話

 その晩、互いに冷静を取り戻した宇門と剣人は、グラバー園内の坂にて構えていた。

こいこれと元々の案件と、本当に繋がると思ぅとるとか?」

「確証はなか。ばってかだけど怪しいモンば一つずつしらみ潰ししとけばたどり着けるやろ。子どもの行方不明や女性の危機に関係するモンは大抵ろくでもなかけん」

 剣人はスマホを宇門の左肩に押しつけた。クリアカバーすらつけていない。剣人の私物とは考えにくい。

「SNSアプリば三つ入れとる。同じアカウント名ば名乗れ。言っとくばってか、こいこれは元々俺たちの受けた案件用だからな。お前の私情……お前が女装するほどのモンばついでにどがんかどうにかせろ」

 この表情に、宇門は憎まれ口を叩く気になれなかった。剣人が本気で仕事に取りかかる瞬間を、宇門は何度も見てきた。実際、剣人は天玄が信頼するだけの結果を出している。

「今回、俺は表に立てん。男だからな。不本意やろうけどこの案件、お前に委ねるしかなか」

「で、私は一体誰になれ、と?」

 剣人は渡したスマホを指さした。宇門は最近覚えたてのテクニックで二つのアプリを順に開いた。

「普段のお前に似合わんでも、仕事となれば俺は絶対に笑わないからな。ミクちゃん」

 剣人はすでに鼻で笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る