第22話 0.93秒
色々あったが結局、白銀が気配察知を会得するのは難しそうだという結論に達した。
本人の素質や適性がないというのも一因だが、なによりもまずまともな特訓ができない。
彼女の気配遮断スキルは普段の状態でこそ発揮されるものだった。
全裸コートのような特殊な訓練をした場合、緊張で挙動不審になって周りから見られまくるのだ。
そうなると隠しても隠しきれない美少女オーラで過剰に視線を集めてしまう。
そのせいで変な男に絡まれたこともあった。
あの時は俺が脱いでことなきを得たが、あれでは気配を感じるもクソもなさそうだった。
恐らくだが、白銀にとって他人の視線を意識するというのは非常にストレスなことなのだろう。
そもそも人目を避けるために気配遮断の技術を手に入れたらしいので当然といえた。
何にせよ白銀には不向きな技術だったようだ。
露出狂にもタイプがある。
この一文を以って本研究を締めたいと思う。
彼女には是非気配を消す特技を伸ばして、安心安全な露出を心がけてもらいたかった。
「なあ柊一、知ってるか?この前モールで高校生の男子を無理矢理襲おうとした奴が出たみたいだぜ」
「へえ」
「真昼間で人通りも多いところなのに大胆だよな……けど男でも狙われるなら、俺たちも気をつけねぇとな」
「そうだな」
物凄い大事になっていそうだったが、あまり気にしすぎてもハゲるだけなので記憶から抹消することにした。
それに、まだ未熟な
「まだ身長は伸びてるし、希望は……ある」
毎月の初めに測っているが、4月時点では167cmだったのが今月には169cm後半になっていた。
170cmの大台を超える日も近いだろう。
ゆくゆくは180cmとなって理想の肉体美を手に入れたいものだった。
「そういやさ、土曜に試合があるから日曜は休みになるんだよ。お前ん家に遊びに行きたいんだけど、その日空いてるか?」
「休日は大体空いてるぞ」
「よっしゃ!約束したからな、忘れんじゃねぇぞ!」
これまでも何度か家に遊びに来てもらっていたが、テレビもないような家なので他人が楽しめるとは思えなかった。
一応ゲーム機や漫画はあるが、子供の小遣いで買える程度の物だ。
それでも来てくれるあたりに、内海の優しさが垣間見える気がした。
友達とのお家遊び。
何度か体験した今でも未だにウキウキしてくる響きだ。
お菓子を大量に購入しておこう。そう思った。
☆
さて、今日は土曜日だ。
内海のやっている部活の試合の日だが、天候は生憎の大雨だった。
確かサッカー部だったはずだし、雨天決行はあり得ないだろう。
今頃落ち込んでいるんだろうな。
可哀想にと部屋で一人同情していると、急にインターホンの音が鳴った。
「なんだ、宅配便か?」
しかし何か頼んでいただろうか。
追っている漫画の発売日というわけでもないし、他の娯楽品を買った覚えもない。
食料品の類も、基本的に近くの安いスーパーで買っている。
一体なんだろう。
とりあえずジャージとズボンを履く。
不思議に思いつつドアスコープを覗くと、そこにいたのは白銀だった。
えっ遊びに来るって言ってなかったよな?
疑問に思いつつ、俺は玄関の扉を開けた。
「やっほ」
「やあ。どうしていきなり来たんだ?約束とかしてたか?」
「?気が向いたらウチに来てくれていいって言ってたじゃん」
瞼を閉じて回想する。
……確かに言ったけど、だからって本当に気が向いたから事前に何も言わずに来る奴があるか?
「……ダメ?」
「む」
だがこんな捨てられた子犬みたいな顔をされると断れなかった。
どうせやることもなかったし、別にいいか。
「しょうがない。どうぞ」
「おじゃましまーす」
あの時は緊急事態だったのでそこまでだったが、こうした日常の中で白銀が家に入ってくると違和感が凄かった。
女友達が家にやってくる感覚とはこういうものだったのか。
男子垂涎の状況にちょっと興奮した。
「お、あったかい。もう暖房つけてるんだ」
「今日は雨で肌寒いからな。裸だとキツイ」
「裸族だもんね」
「今は服を着てるけど」
「ああ、あたしって分からなかったから。じゃあもう服脱いでもいいじゃん?あたしも脱ぐし」
そういって彼女は脱いでいく。今回は下着ありの状態だった。
まるで当たり前のように行われているが、冷静に考えるととんでもない光景だった。
それはそれとしてお言葉に甘えて脱がせてもらおう。
俺はすっかり慣れ親しんだ脱衣を終えると、衣服を綺麗に畳んで置いた。
「……あのモールの時も思ったけど、その早脱ぎすごいよね。一瞬で脱いでるじゃん」
「数少ない特技の一つなんだ」
測ったことはないけど、多分0.93秒で脱げるだろう。
……というのはネタにしても、仮に早脱ぎのオリンピックがあったら優勝できる自信はあった。
桐生さん家の一馬くん以外には負ける気がしなかった。
「ふーん。そういや思ったんだけどさ、あたしの他に友達いるじゃん。内海くん……だっけ」
「ああ。いるな」
「その人が家に遊びに来た時とかどうしてるの?やっぱり全裸?」
「流石にそこまで常識知らずじゃないぞ」
基本的にはジャージを着用していた。
今まで私服といえば制服、ジャージ、体操服しかなかったから一番自然に見えるジャージを着るようにしていたのだ。
女子は知らないが、男子なら私服がジャージオンリーでも違和感は皆無だ。
なんなら外にだって出られる。
衣服に興味はないが、ジャージの使い勝手の良さに対するありがたみは天元突破していた。
「ところで、今日はどうして来たんだ?また何か嫌なことでもあったのか?」
「ん……いや、別に……ただここら辺を通りがかったから、何となく来たくなっただけ。……嫌だった?」
「嫌じゃない。そういうことなら別にいい」
まるで仲の良い友達のような理由だった。
彼女とも順調に絆を育んでいけているのだと思うと、胸の内が温かくなってくるようだ。
裸の付き合いってすごい。改めてそう思った。
「……そ」
日曜は内海が来る予定だし、いつもは暇な休日が楽しい二日間へとワープ進化した。
感謝も込めて明日のために買っておいたお菓子でも出してあげよう。
そう思って立ち上がった、その時だった。
──インターホンの鳴る音がした。
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