第24話 もふもふは正義

『結構、ギルド内部の統率は取れているんだな』


 ぼそりと零れたマスターの呟きを捉え、追加武装として融合中のクリムが話し掛けようとするものの、ほぼ同時に歩み寄っていたドレス型装甲を有する小さな女王パルムレギナ、広瀬乃亜も仮面の下で桜唇おうしんを開く。


 結果、彼女ら二人の言葉はわずかな差でかぶることになった。


『それだけ、森の怪物たちが厄介ってことかも?』

『ふふっ、かなり苦労したからね~』


 やや方向性が異なる発言を受け、どちらにこたえたものかと史郎が逡巡しゅんじゅんすると、さとい北欧系の少女は的確に目星など付けて現状を言い当てる。


『えっと、AIの子と話してる?』


あたらずといえども遠からず、タイミングがかぶった』

『私もがいるから、分からなくは無いかも』


 さらりと口外こうがいした女王が何気ない仕草しぐさで腕を振るえば、忽然こつぜんと現化量子の燐光が生じてつどい、小ぶりなヘラジカのように見える鯨偶蹄目げいぐうていもくの獣が現れた。


 先ほどの物言いから判断して、AIを搭載する仮想世界の愛玩動物なのだろう。


 角の生えぎわを撫ぜた飼い主の補足によると本来の生態が優先されているため、会話形式のコミュニケーションはできないが、ある程度の意思疎通は可能なように調整済みとの事だ。


『あと、少なくない仮想通貨で買いそろえた強化モジュールも複数組み込んでるし、護衛役でも重宝しているの。そして、モフモフは正義♪』


『…… 猫とか小さい方が好ましいけど、否定はしない』

『でも、抱き着けるのを考えたら、おっきいのもき』


 いつの間にか近場にいた騎士の械人カイジン断裁乙女ハルバードや後発組の女性らが大鹿とたわれるそばで、モフりたいと呟いて黒犬ブラックドッグとの融合状態を解こうとするクリムをなだめつつ、史郎も銀拳シルバーフィスト含む野郎同士で交流を深めること数分……


 誰かが定刻をげると、残留していた第一及び第二分隊の面々は方錐陣形を組み、小さな女王パルムレギナを中心にえて鉄樹の森に踏み入る。


 最短経路で変圧器を目指す途上、響く咆哮ほうこうに釣られた者達が視線を向けると、体高3~4mほどの巨猿 “ヴァナラ” が暴れており、一撃離脱を繰り返す複数の械人や小型の怪物等も散見された。


『“虎徹タイガー”、そこ中央エリアの境界線上だから、もう少し外側へ誘導してね』


『了解、森の浅い部分へ向かう』

『勢い余って、たおさないようにね』


 女王いわく、討伐対象のエリアボスは損傷が累積すると雄叫おたけびを上げ、周囲にいる巨猿を呼び込むのだが… 既に撃破済みの個体は即時かつ、近傍きんぼう再出現リスポーンすると。


 前回の第三次攻略戦では、最初に遭遇したくだんの猿を別ギルドの分隊が不運なタイミングで仕留めてしまい、すぐさま厄介な場所で復活したせいもあって、かなりの辛酸を舐めたらしい。


 そんな経緯を断裁乙女ハルバードまじえて、彼女が新参者の二人に聞かせていると視界が開け、一同は目的地である旧変電所へ到達した。

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