蜘蛛の巣がかった毎日の、ぴかぴかな一日
「一日ってこんなに長かったっけ……」
あれから全ての授業を受け終わった俺は、陽貴以外の班員と帰路についていた。一日で俺のレベルがすごい上がっている。我ながら信じられない。
「あっ麗奈ちゃん、今日の夜七時から"Commander《コマンダー》"のライブあるみたい」
「マジ!? なら今日は帰ってすぐ宿題しますかね〜」
「こまんだー?」
「うっちー、知らないの? 『Cartooner』で不定期に配信してるけど」
まさかの同業。
「あの、あのさ」
「どうしたの? 天ケ瀬さん」
「あの、えと……」
わかる。わかるぞ、天ケ瀬。陽貴以外のメンバーと関わりがないから気まずいんだよな。
勝手に親近感を感じていると、自ら静寂を破り天ケ瀬は言った。
「親睦を兼ねて、カフェでもいかない? 宿題もそこで片付けちゃおうよ」
親近感は蜘蛛の巣のように絡め取られていった。
喫茶『テイク・ア・レスト』。そこが天ケ瀬の行きつけらしい。人当たりのいい店主が淹れるコーヒーは、まろやかでいてコーヒーの風味も損なうことなく発揮する、のだとか。ペットボトルのコーヒーしか飲んだことがないから俺にはよくわからない。値段がそのペットボトルの数倍もするのだから驚きだ。
車道の横なので、なんとなくに列になって進む。先頭は道案内の天ケ瀬と、"Commander"を彼女に紹介したい朝山。後列は俺と、何処となく仲間意識を感じる時矢だ。言うまでもなく、俺と彼女の間には静寂。とっても気まずい。
と、数日前の俺なら言うのだろう。しかし今の俺は違う。修学旅行の班が決まった以上、全員と友達になろうではないか。そう、これは堀内翔馬的ラブコメあるあるその六、「複数のヒロインを攻略」に近しいものだ! 俺が今までラブコメ(と、朝山)で培ってきた女子とのトークスキルを見せつけてやる! 驚くなよ、時矢さん――
「あはは、ほ、堀内さんは、面白い人、なんですね」
「うん、あっ、いや、それほどでもないさ、はは……」
「でもバッタを食べるときは火を通したほうがいいですよ。寄生虫がいる可能性がありますから。あと、ゴキブリ――コックローチの、コックさん、でしたっけ――とにかく、ゴキブリは絶対食べちゃだめです。生物濃縮といってですね――ああ、でも、堀内さんは山でオオカミと暮らしてるんでしたっけ、それなら家で出るのとは別の種類なので生物濃縮は気にしないでもいいですね――生物濃縮ですか? 生物濃縮というのは――」
時矢さん史上最長文。どうやら彼女は生き物に興味があるらしい。素人がワイルドぶったのは失敗だったようだ。
「
「いいね! とっても楽しみ!」
「どんな曲なんだろう、私も楽しみ!」
「あっ、そのグループ俺もいれ」
「堀内くんは川越君とお話するといいよ」
「俺もそのライブ見」
「ええ、そうですね、私もそれがいいと思います」
「……。」
「堀内くん、いやじゃなかったらでいいんだけどさ、あの、川越のライン後でくれない?」
「あっ、クラスラインから登録できま――できるぞぃ」
「え?! マジ!? どうやるの、教えて?」
「あっ、えっと、まず『メンバー』の欄を開いて――」
歩くこと二十分余り、イキイキした顔が二人、ホクホク顔が一人、憔悴少年が一人という、なんともラブコメとは程遠い異質のグループは、商店街の最奥に位置する喫茶『テイク・ア・レスト』に到着した。
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