新しい毎日の、クラシックな一日

「へえ、雰囲気があるお店ね」

「うん、なんというか、『ザ・喫茶店』って感じ」

「でしょでしょ!? 昔感が好きなんだよね〜」

「暗いところ、落ち着く……いい……」

「うっちー、きっしょい恍惚の表情はいいから、早く席つこ」

「おい今ひどいこと言わなかった?」


「なあ、ウインナーコーヒーって食い合わせ悪くないか? 食パンでもついてるのか?」

「この前お米とエナジードリンクを一緒に食べたのですが、意外と美味しかったです。きっとそんなふうに、意外と合わなそうなものがベストマッチする、といったものなのでしょう」

「うーん……、コーヒーはあまり飲まないからよくわかんないな。とりあえずブラックで。千夏ちゃんは?」

「私もそれで。この店はね、ブラックを頼むとランダムのお菓子がでてくるんだ」

「へぇ、いいね」

「お菓子? お菓子が出てくるんだな? 時矢さん、コーヒーとウインナーとお菓子の組み合わせはベストマッチなのか?」

「うーん……、どうでしょう。柑橘系なら、食後のコーヒーの香りとウインナーの脂を程よく打ち消してくれていいのかもしれませんね……」

「ふたりとも注文決まったね? 店員さん呼ぶよ?」

「あぁ、麗奈ちゃん、ここは席から声を掛けるタイプなんだ」

「そうなんだ、珍しいね」

 俺には厳しいな。

「すいませ~ん!! ブラックコーヒー二つと、ウインナーコーヒー二つお願いしま〜す!!」


 コーヒーが届くまでの間、自然と『Analyze』の話になっていた。

「へ〜! 麗奈ちゃん『Analyze』で動画出してるんだ!」

「私も初めて知ったな。全然気づきもしなかったよ。いつからやってたの?」

「ん〜……、うっちーと出会った頃だから……」

「『出会った頃』!? やっぱ二人付き合ってるの!?」 

「麗奈ちゃん……おめでとう……! お幸せに……!」

「だーかーら、違うって! 奏ちゃんまで! よりにもよってこんな」

「素晴らしい男性はもったいないってか? 麗奈」

「おぅこら、表出ろや」

「すみませんでした」

「息ぴったりじゃん! そういえば二人はどこで出会ったの? 麗奈ちゃんと堀内くんが行きそうな場所で共通している所は……。……?」

「天ケ瀬さん天ケ瀬さん、何を隠そう、堀内くんは山の奥深くで過ごしているのですよ。幼少期に山で迷子になり狼に育てられ、以来ゴキブリを――失礼、コックローチのコックさんを主食にして――」

「おおっと時矢さん、水が空になっているじゃないか! 俺が注いであげるよ!」

「すぐにコーヒーが来るでしょうから大丈夫です。それでですね、コックさんの見た目と絶妙な味の違いによってコックさんの群れを探してですね――」

「時矢さん! 時矢さんは好きな人とかいないの?」

「堀内さん、それは今日が初対面の異性にする質問ではありませんよ。私と同様、山から降りてきてまだ二年で、人並みのコミュニケーションは難しいかもしれませんが、一緒に頑張りましょうね」

「待って鋭い言の葉の刃と共にすんごい事実聞かされたんだけど」

「――だからですね、私が思うに、麗奈ちゃん家のコックさんを食べてですね、それで麗奈ちゃんと接触するに至ったのだと思います」

「なんと、堀内くんにそんな過去が……」

 天ケ瀬さんはニヤニヤしながら一連の話を聞いていた。何が怖いかって、ドン引きした顔で俺を見ている朝山との今後の関係もだが、俺の話を事実と受け取って疑わない時矢さんだ。生物濃縮の話といい、何か壮大なバックグラウンドを持っている予感がする。


「私とうっちーが初めて会ったのは」

 と、唐突に朝山は語りだした。改まったその雰囲気に女子ふたりは静かになり、朝山に顔を向ける。

 なんだかドキドキしてきた。もしかして『あの頃から好きでした』的な回想シーンなのでは?!

ラブコメ的展開が今幕を開け――


「俵屋書店の成人コミックコーナーだった」


 ――るはずはなかった。

 

 

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