懐古的な毎日の、革新的な一日

 まずい。このままあの不審者集団を校舎に入れるわけにはいかない。ただでさえ不法侵入だが、現在校庭で体育が行われていないこともあり、相当視力のいい人でもいない限りまだ顔は見られてはいないだろう。

 あいつらが捕まるのは別に構わない。寧ろ今まで野放しだったのがおかしいくらいだ。そして橘のばあさんはともかく、黒スーツ。お前らはどこから湧いてきたんだよ。少数精鋭ということもあり、黒スーツの人数は三人。右から順番に細身長身、筋骨隆々、、……俺と同じくらいの身長。でも俺なんかとは雰囲気が違う。

 

 朝の段階で俺は、俺にできることはないとこの戦線から早々に退却した(そもそも参戦すらしていない)のだが、この件に俺は関わらざるを得ない。

 言うまでもない。修学旅行前というこの大事な時期に変態集団橘蓮華御一行様との関係が漏れてみろ。終末りだ。

 しかし。多少普段より騒がしいとはいえ現在は授業中。抜け出すのは難しい。


「あ、あれ、染谷先生じゃない?」

 自分だけが助かるための案を巡らせるのを一時中断し再度窓の外を見ると、そこには肩を怒らせ変態集団の方へ向かっていく染谷。ゆっくり歩いているところに強者感がある。

「え? 気絶させた?!」

 遠目故よく分からないが、低身長の男が秘孔をついたのだと思う。声もなく染谷が崩れ落ちる。仮に声を発していたとしても、俺たちには聞こえないが。

「あ! あれ、山下先生じゃない?!」

「ほんとだ! あの上下ちぐはぐなジャージは山下先生だよ!」

 

 

 流石に武闘派(?)教師二人が倒されたことで、現在授業中の社会科教師も動揺していた。

何やら『俺が出たほうがいいのか……? いやしかし相手は所詮一般人に毛が生えた程度……』などとぶつくさ言っている。何者なんだ? 後で藤岡に聞いてみようと、ネームプレートを見てみる。

 恥ずかしい話、俺はそもそも人の名前を覚えるのが苦手な上、授業中に寝まくっていたため、武闘派ほど強烈でない限り教師を知らないのだ。

 越前谷……『𱁬』? 名前が読めない。エチゼンガニとだけ記憶しておこう。


 

 越前ガニが行けない以上俺が行くしかないか。

「先生、僕が――」


         !!!

 俺行けねえ! 本末転倒じゃん! え? やべぇどうしよう誰が止めるのあれ? 二十面相は?  

この学校の関係者か? もしかして:学長?

 誰でもいいから早く出てきてくれ! 彼らの声が俺たちの耳に届く前に!



 すると、再び、いや三度みたび、教師が出てきた。

 白髪が目立ち、身長は割と高いが細め。白シャツにグレーのチョッキ。あれは。あの背中は。

 

 間違えようがない。俺がずっと追い続けてきた背中だ。


「先生」

さりげなく座席表に目を落としてから、越前谷は応える。

「堀内。悪いがそれは無理だ。この力は悪鬼羅刹を滅ぼし、"百鬼夜行"を止めるために――」

「行ってきます」

「え?」


 この際なりふり構ってはいられない。藤岡。何故出てきたんだ。俺は朝山と霧嶋の校内ランデブーを目撃したときよりも速く階段を駆け下りる。なんなら飛び降りる。鼻から血が止まらないが、気にせず向かう。

 昇降口に着いたが、靴は履き替えずにそのまま走る。これから始まるであろうバトルシーンには不向きな体力だが、それでもいないよりはマシだろう。いやいないほうがマシか?


 息を切らしながら校舎から校庭に出る。よかった。まだバトルは始まっていない。

      


      「「藤岡ァ!!」」

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