絶望的な毎日の、光明が見えた一日②

 陽貴を友だちに登録し、ええいままよと電話をかける。これだけの動作に数分かけてしまった。

 思えば友達欄に名前が増えるのも久しぶりだ。朝山ぶりだ。思えばなんと懐かしい名前だ。朝山麗奈。何度でも言おう、朝山麗奈。この前同じスタンプを使おうと思って「ヌメヌメヌタウサギ」なるスタンプをプレゼントしたのだが、ラインから所持している旨のメッセージが来た、朝山麗奈。

 陽貴に振り回されている今、当時を振り返ってみると、俺なかなかヤバイことしてた気がするな。奇行で好かれるという、小説の主人公のようにはいかないみたいだ。


 [ふあぁ、もしもし?]

スマホから眠そうな声が聞こえてくる。電話が繋がった。

「これが怪盗少年?」

「ああ。連続制服誘拐犯だ」

さあ、交渉を始めようか。

「俺のズボンを返してもらいたい。今お前はどこにいる?」

[フハハハハ、探偵くん。そのくらい推理してくれたまえよ]

「勘弁してくれ。これでも優等生で通ってるんだ」

[笑わせてくれるな、一学期の評点、俺より低いくせに]

「なぜわかる?」

[? クラスライン見てないのか?]


 美緒の方を見やる。美緒は出会った頃、転んで泣いていたところを慰めてくれたときと同じ顔をしていた。

「頭、撫でようか?」

「うん、お願い」

[翔馬、誰かといるのか?]


 一通り泣き終わったあと、俺は妙案を思いつき、美緒に耳打ちする。

「美緒、一度校舎から離れよう。っと、その前に美術準備室に寄っていく。面白いものがあるんだ」

「オッケ」

「陽貴、通話繋いだままにしててくれ。スピーカーの音量最大で」

[? かまわねぇけど……充電残りじゅっパーだから、そう長くは持たないぜ]

「上等だ」


 美緒と共に来た道を走って戻る。とは言っても、他の先生に見つからないよう、抜き足差し足忍び足で。




 「ふぅ、さすがに息が切れるね」

「あァ……、そうだ……、な、うん……とても……ハッ…ハッ……ッハァッ……」

「なんでお前らはそんなに疲れてるんだ?」

藤岡が怪訝な顔で尋ねてくる。

「藤岡、いつかかった"アレ"があったろ?」

「あぁ、"アレな"。勿論。それを使うということは……。なるほどな。ならこれを持っていけ。『俺特製防音金庫』&『パーフェクトスマホカバー』だ。」

「さすが、解ってるな」

「こういうのは現役の頃から大好きだ。ところで、奴さんにはバレてないだろうな」

「寝息立ててるよ」

「ねぇふたりとも。なにするつもりなの?」


 俺達は揃ってニヤけながら答える。美緒、お前は知らないだろうが、俺達は人気動画投稿者、『Analyze』なんだぜ。

     



      「「面白いこと」」


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