友達以上〇〇未満(姫野編)
第25話 不安な関係
教室に入ると、扉近くで話している女子の声が耳に入った。
「王子、今日もカッコいい……」
「本を読む姿がこんなに絵になる人いないわ」
俺は自分の席にカバンを置いた。
「おはよう、姫野」
声をかけると、後ろの席に座る姫野は本から顔を上げた。
「おはよう」
「今日は何読んでるんだ?」
「かせ恋の新刊」
姫野の噂をしている女子達は知らない。こいつが涼しい顔をして読んでいるのが、
「自分で買ったのか? どうせ俺も買ってるのに」
かせ恋は俺が姫野に勧めたやつで、新刊が出るたびに貸していた。
「うん、いいの。お金も入ったし」
「そうか。ああ、そういえば前に話したソークロのBlu-rayが届いたんだけど、明日の放課後にでも観にくるか?」
俺の言葉に姫野は一瞬ピクッと反応したが、目を逸らした。
「……明日は用事があるから」
「じゃあ、明後日は?」
「明後日も無理」
「そう、か……じゃあまた今度な」
ソークロのBlu-rayって言ったら速攻食いついてくると思ったのに、あっさりした反応にちょっとがっかりした。
そう言えば、最近あまりラノベやアニメの話をしなくなった。俺がメイドカフェでバイトし始めたせいもあるけど、放課後に俺の家へ来てダラダラ漫画を読んだり、そういう機会もなくなった。姫野も「用事があるから」と言って、さっさと帰ってしまうことが多い。
もしかすると、姫野と上手くいっていないのか……?
「はぁ……」
放課後、開店準備をしていると思わずため息が漏れた。
「どうした亮太、そんなため息なんてついて。あ、もしかして恋か?」
そう言って汐姉がニヤッと笑う。
「違うわ! 友達だよ友達。ちょっと上手くいってないかもしれなくてさ」
改めて言葉にすると、スッと胸が冷たくなる。今までこんな不安を感じたことは一度もなかった。毎日のように学校で会って話して、全部言わなくても何となくお互い通じ合っている、そんな気の置けない関係だと思っていた。
「気になるなら直接聞いてみればいいじゃないか」
「そうかもしれないけど、そうじゃないんだよ」
その時、ガチャっと扉が開く音がした。
「お疲れ様です」
「キラ! いいところに来たな!」
汐姉がキラに歩み寄って、肩に手を回す。
「亮太が友達と上手くいってないってしょぼくれてるんだ。なんか言ってやってくれよ」
「別にしょぼくれてなんか……!」
「何かあったの?」
キラは首を傾げた。
「一年の頃はよく俺の家で漫画読んだりしてたんだけど、最近は俺もバイトがあったり、向こうも用事があるみたいでタイミング合わなくなって。なんか話も前みたいに噛み合わないっていうか……」
俺は地面に視線を落とした。
「……ふふっ」
その声に顔をあげると、キラは口元に手を当てて笑っていた。俺と目が合う。
「亮太、可愛いね」
「……は?」
「いつ予定が合うか聞いてみるといいよ。きっと1日も予定が合わないなんてことはないと思うし。あとは頑張って働いて、その友達の好きなところに連れて行ってあげたら喜ぶんじゃない?」
そう話す声はなぜか機嫌がよさそうだ。普通にアドバイスが返ってくるとは思わなかった。
「はぁ……ありがとう」
「どういたしまして」
そう言ってキラはフッと笑った。
姫野のことについてどうすればいいか分からなかった俺は、ひとまずキラの言うとおりにしようと決心した。汐姉からは今月の給料を前借りする許可をもらった。お金をもらうのは姫野と遊ぶ日が決まってからでいい。出かける場所の目星は付けてある。
だけど、数日経っても姫野にはその話ができていなかった。
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